2さすらい
新しい朝が来た。希望の朝だ。喜びに・・・
「なんだっけ?」
天井に明かりがある。でも差す光が細くて蜘蛛の糸に見える。
「 ちゃぽんッ! 」
今日も上から桶が降ってくる。しかし人影には当たらず水面に到着、波紋が広がった。
「uスコーンッ!」と頭部との激突音を出さずに済んだ。
桶とエンタメかます気はない。
「アッぶねー!」
まどろみの中気づけたのは人の気配がしたから。
「またマジョが出たらしいわ」
「おい、またかよ」
話し声と足音、そして投擲の準備で靴の裏を地面に擦った。
最後にヒモが井戸の角に擦れたこと、物が落下する風切音。
今日は日の出と同時に目を覚ます必要があった。
そこで顔を直接日光が当たる位置に置き寝ていたのだ。
辺りの住人に存在を把握される訳にはいかない。
この状況で顔面と衝突するようなら、旅芸人への転職をお薦めしたい。
「へ。朝から活動的なことだ。
こっちは一歩も地を踏まずにゼロ距離から水分補給だ!。ごっくんちごっくn。
ふ~働いているのを上目に飲む水は最高だぜ。」
ゴミカスである。間違いない。
「酔いがさめたぜ・・自分へのな」
ササっと用事を済ませる。『水質を確認』
地下の壁に掘られた穴に身を乗り出す。
道は一本のみで明かりはないが暗い場所でも目は利くほうだから無問題。
脇にキノコを発見したが食べてはいけない。野生の9割は食用ではない。
専門の知識が必要なのでぇ!真似してはいけない。*実食済み*
数分歩いて上に続く道に抜ける。
目的地のすぐ傍だ。
「今日の予定はある少女の接待で、ちょいとした手助けをする。
いわゆる”カチコミ”ってやつ?乱暴に働かないことを祈るがな。おおっと勘違いしないでくれ。物騒な力を与えるチート能力は俺には無い。地道な護衛しかできない。
以前そいつに恩を受けてな、借りを返さなきゃ前を向いて進めないだろ。
”後悔は過去から持ち越さない”これがモットーさ。」
決め顔カメラ目線で誰に話しかけているのか?
もちろん一人であり、ぼっち君であり、ソロプレイヤーである。
独り言は無意識のもので、一人暮らしが続くと漏れてしまうので気にしてはイケない。
周りの大人がこの症状に当てはまっても、触れないでそっと放置してあげて。
間抜け面で歩いている奴さんの名前はティアンらしい。
以前、彼女の親が経営している店「デリシャ」の前で倒れていた俺に声をかけてくれた。
当時のノッシュはお腹が減りすぎて倒れていた。
打ち上げられた魚のように、のたうち回ることで通行人から施しを貰えるのではと脳内会議で採択されたからだ。
だが、誰も声をかけてくれない。
顔は悪くないはずだがなぜ距離をとるんだ。
通りすがりの親子に「面白い芸ね!」と笑われたときは顔に影が差しこんで後を付いて回ってやろうかと真剣に考えたものだ。(衛兵に捕まるがね)
業界を問わずプロは難しく物乞いは簡単ではない。
諦めを知らないノッシュ。
「3・3・7拍ぉ子ーー!それ、ピピピ、ピピピ、ピピピピピピピ」
「あの、大丈夫ですか」
若干の引いた顔で太陽を背に覗いてきた少女がいた。
めげずに芋虫よろしくウネウネしていたところをお声掛け頂いたのだ。
「只飯王にオレは成る!」
場所は変わって食事処。
ここ”プロバ”の郷土料理『ティアン』をいただいた。
彼女と同じ名前だ。
見た目は軽めのグラタンといったところ。
薄切りの野菜を陶器に入れて炙られていて上にチーズをトッピング。
本来はヘルシーな料理だが、今回はオリジナル要素で肉が入っている。
ありがてぇ。早速実食。
美味しい、が食べることに夢中で味なんて分からない。フォークモドキが止まらない。
看板娘らしく忙しそうに足を動かし料理を運んだり客から注文を受け付けたり、笑顔でウェイトレスの仕事をこなしているところ悪いが邪魔をする。
せっかくだし一言お礼をしようかな。
その瞬間周りから殺気を感じたので寒気がした。
少し近づこうとしただけでこれとは・・・熱烈なファンが周りを固めていたか。
揉め事は面倒だしここは大人しく退散するぜ☆
カメラ目線ダブルピースから抜き足差し足また来週。
しかし
「おじさんはどこから来たの?」
少女の澄んだ声が届いちゃ仕方ないな~と足を止める。
周りの血流せし者たちよ。目からは流すのは納得できる。
けど鼻から耳から穴という穴から出すのは流石にモザイクだろ。
「だがおじさん・・・・だと。」
舌を出して某有名な科学者同様の顔面で待機していたのが間違いか。
ショックから立ち直れない漢。ただのしかばねのようだ。
「アッシはノッシュという。今後は間違えるなよガキ」
年頃の子供に対してもガンを飛ばしていく余裕が無し駄目な人間の図である。
「そっか、でどこから来たの?言葉に訛りがあるから他方の人かと思って。」
簡単にあしらわれる始末。それでいいのかノッシュよ。
「そんなことはどうでもいい、それより借りができたから何か手伝いをさせてくれねえか。
困っていること厄介ごとでもオケだ。腕には自信があるし頭m」
「無いよっ!!そんなことっ!!」
急に差し込んできたし食い気味だ。
自分では解決に導けないと途方に暮れていることは明白。
「わかったから落ち着けガキ。周りが静まり返っちまったぞ」
「・・・・・・・・・・・」
表情は不鮮明に俯いてしまった。
はあ~。余裕のないガキに代わってこの場を抑えてやるか。
ノッシュは頭上に掲げるべく懐を漁り一枚の円状の鉛を取り出す。
そうキャッシュレス化が進み毎年製造枚数が減少の一途を辿りし日本国の一円玉である。
「なんだ兄ちゃんゴミなんか取り出したぞ、ね」
興味が失せたと視線が四方に散ろうとした。
「あん、失敗したこっちだこっち。」
気を取り直し一枚の硬貨を中指と薬指で掲げ
「てめえらここは奢りだ、食事に集中しなあ!」
「きゃー」「うおーー」「ありがとよ」「あいしてるー」
安い言葉を受けて気分上々のまま店を出ようとするノッシュ。
だが呼び止められる。
店員さんが出入り口の扉の前に陣を構えてしまったからだ。
お釣りが払えないのですが、
もし、ティアンが一円玉を見えていたなら話は変わっていただろう。
「ちょびっとだけ抵抗させてもらおうかな」