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遊戯超過  作者: 吐夢
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あとは身体が死ぬだけ

 さて、一難去ってまた一難。先程の行為を正気に戻り、到着駅で省みてみると、あの金属のレールの上に首を置きたくなった。その誘惑に負けないように走って、改札口を通ろうとして、改札に嫌われた。しっかりしろと叩かれたようだ。ああ、分かったよ分かったよ。ちゃんとするから、もうふざけないから。そう願うように誓って、社会復帰への第一歩となる改札を通った。そこから、緊張と不安で呼吸困難になりそうになりながらも歩きまくった。やっと辿り着いた指定された面接会場は、何ともアットホームな雰囲気だった。失礼します、と低い腰と重い足取りでドアを開け、中へと入ると、

 「ああ、君、面接の子?」

 と白髪混じりの六十代くらいの元気そうなおじさんが出迎えてくれた。ここ座んな、とパイプ椅子に座らせられると、お茶とお茶菓子まで用意してくれた。

 「中野 たかしです。この度は——」

 俺は思い出したように立ち上がって、就活のときに詰め込んだあやふやな社交辞令を言おうとしたところで、「いいのいいの、そんなんわ」と手をひらひらとさせながら遮られて、朗らかに笑われた。その人は席に着くと、机に置いてある煎餅を齧りながら、俺の履歴書をを眼鏡をかけてじっーと見た。まるで新聞でも見るかのようだ。

 「おおっ、テン!お前さん、大学出てんのか?」

 タカシという読みなのだけれども、相手の勢いと流れに持ってかれて、訂正しないで「ああ、はい」という情けない返事をした。

 「偉いこっちゃあ。そいで、大学出の君が、何でまたウチなんかに?」

 「身体を動かす仕事がしたかったんです」

 「本音は?」

 目を丸くした。そうニヤつくそのおっさんは、俺の本心を知っているみたいで怖くなった。俺は人間と目を合わせるのが苦手だ。第一は目を合わせるのが怖いから。けれど、第二は目を合わせてしまうと、俺の内側まで、この透明なガラスのような眼球から、覗かれてしまうのではないかと思うからだ。無意識で目を合わせられていない。けれども、読み取られた。

 「俺、もう二十四なんですよ」

 と友達と話すように軽いノリで言葉を発した。極限状態の緊張と不安と恐怖を乗り越えるために、目の前にいるこの初対面のおっさんを、俺の友達だと思うことにしたのだ。何にしたって、俺の嘘に勘づく人だ。軽々しく嘘を重ねることなんてできない。

 「何だ?まだまだ若ぇじゃねえか」

 「そうですか?でも大学卒業してからも、就活失敗しまくりまして、何かあ、死にたくなったんですよね」

 「そいで?」

 「それで、もう既に心が死んでるんで、あとは身体が死ぬだけなんすよ」

 えへへ、とへらへらと微笑んで、ぺらぺらと薄っぺらいことを口にした。目を逸らさなくていい。嫌われても構わない。そんな調子で、俺とは思えない口調で、夢みたいなことを話した。そのおっさんは少し考える様子を見せてから、大きな口を開けて笑った。

 「あっはは、お前さん、死ぬためにここを選んだってわけか。参っちまうなあ」

 「……ごめんなさい」

 ふざけた、愚かな、考えだ。深々と頭を下げた。自分のしでかした失態を恥じて、相手の顔を見ることができないから、机に鼻頭が擦れてニキビができるくらい長々と頭を下げた。とどのつまり、俺が考えていたのは死のことだった。俺の変化やら成長やらと御託を並べても、俺の本質は自死だった。

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