地雷
「さっさと死んじまえ」
という悪魔の笑い声が聞こえてくる。
「じゃあ、この俺を殺してくれよ」
悪魔崇拝なんてしても、悪魔はきっと俺のことなんか殺してくれない。殺してもつまんない人間だろうから。まだまだ生きていたいという活力の強い人間を楽しく殺したいだろう。俺だってそうだ。永遠の生命を手に入れた怪物を倒すヒーローも同じ気持ちなんだろうか?笑える。それならば、殺しの依頼をするのは天使の方か?いいや、そんなことを言えば説教たれてきそうだ。生命を大切に、なんて。くだらねえ。
太陽に照らされながら、人間の群がりの中に存在していると、太陽から馬鹿にされている気がする。
「お前、クズ人間、馴染めてねえ」
俺の全身のアウトラインがはっきりと濃いめに描かれていて、集中線まで付けられている気分だ。それなら俺のことをその光を使って、フラッシュの要領で飛ばしてくれ。それか、その熱で焼殺しろ。家という安全地帯から一歩でも外に踏み入れてみると、そこは紛争地域でそこら中に地雷が置いてある。誰かの笑い声、地雷だ。咳払い、地雷だ。電車内で俺とスペースを空けて座る人、地雷だ。列挙していけばキリがない。けれど、全部丸ごと一気に一瞬で解決する方法がある。——俺が死ぬことだ。その地雷を感じる俺がいなければ、地雷なんてないに等しい。こうやって馬鹿げた思考を繰り返すのは、少しでも俺って天才かも、と自己陶酔しなければ生きていけないからだ。あと、途中の駅で降りた。ストレスで腹痛に襲われたから。生きるのに向いてない、としみじみ思う。ずっとトイレにこもってしまう。もはやこのトイレは俺の家じゃないかと錯覚する。俺みたいなクズ人間にはお似合いだ。でも、駅構内のトイレってのは綺麗すぎてダメかもしれない。ああもう、電車に乗るのが怖いんだよ。時刻表を見ながら、乗り損ねたとその度に自分を責めるんだ。遅刻はまだしないけど、動けない自分にイラついて泣きたくなった。こんなことを想定して、何時間もの余裕を持って、家から出てきた。その余裕が刻々と徐々に削られていく。じわじわと追い詰められていく感覚に、発狂してしまいそうだ。将棋なら王手、チェスならチェックメイト。汗がダラダラと流れてきて、トイレットペーパーで拭くのはケツじゃなくて、俺の目の下と腕じゃないかと思えてきた。嫌だ、逃げたい。便器に弱音を吐いて、クソとともに流した。扉を開けると、スッキリと爽やかに生まれ変わったいい気分だ。泣きながら腕を切りながらクソをした。きっと俺は人間じゃねえな。そう思えたら、心が洗われた。死んだ心が童心に返ったようで、電車内で椅子の上に膝立ちした。車窓から流れる景色を眺めて、動く箱というのは革命だと感動した。




