生きてるって感じ
リュウくんがおまけに、と彼がやりたいんだろうパーティゲームを、買ってくれた。それが最大四人用というのを聞いてか、ヒロさんとアキさんとリュウくんが、お菓子とお酒を持ち寄り、俺の部屋に集まった。アキさんが一番ゲーム下手で、その都度、やり方を説明していたら
「テンは、自分が動くよりも、キャラクターを動かすのが、上手っ!」
と褒められてるのか貶されているのか分からない感想をもらった。酔いが回って、ゲームも一段落して、たわいもない会話が始まる。
「それよりまず、抱っこ紐を用意しないとぉ。テンが落っこちまうじゃん」
とツマミを買って帰ってくると、ヒロさんの楽しげな笑い声が聞こえる。
「何の話ですか?」
「テンテン、おかえりぃ。いやあ、始めはね、今週末に何処に行こうか、って考えてたんだけど」
「そっから脱線して、テンをどうやって安全にバイクに乗せるかになったん」
「えー、何すかそれ、俺だってバイクぐらい安全に乗れますよぉ」
と笑って反論すると
「泣き虫の赤ちゃんがあ?」
とヒロさんに意地悪く言われた。
「そんなヒロさんの前では泣いてないじゃないですか」
「リュウタロウからよく聞くぅ」
リュウくんの方を見ると、ごめんと言う代わりに、片手を胸の前で縦に立てている。ヒロさんとリュウくんが知らないところでいつの間にか仲良くなっていて、見えないところの世界が垣間見えた気がした。吃驚。
「いきなり手をパッと離しちゃいそうなんですよね、テンテン」
「なーんか、危なっかしいんだよなあ」
ああ、それは確かに。ふと死にたくなった瞬間に、パッと消えてしまうように、手を離してしまうかもしれない。
「絶対に、この手を離さないでください」
出発する前に耳にタコができるくらい念押しされた。服装もプロテクターが付いているものを着させられたし、靴も靴紐をガムテープで止められた。安全講習会みたいな説明まで丁寧に行われて、バイクの危険性をもれなく聞かされた。準備はしすぎてもしすぎることはない、みたいな英語の構文っぽく、これ以上ないくらい準備万端だ。格好良いリュウくんの愛車にまたがって、腰の辺りのベルトを掴む。アクセルをかけると、バイクが唸って、その音の振動が、心臓まで届いて、揺さぶられる。そこから、バイクがスピードに乗って、空気を切り裂くように走っていくと、死んじゃうんじゃないかと緊張感が出てきて、恐怖を感じながらも、とても楽しかった。
「怖くない?」
「ふふっ、生きてるって感じがする」




