誕生日おめでとうございます
春になって、桜の花びらが散るような、暖かい日が続いた。こうなってくると、自分の体温と気温の温度差がなくなってきて、一緒になって、自分の輪郭がぼやけてくるように感じる。茹でられたままコシのなくなったうどんのような、一刻も早く冷水でシメてほしい、そんな気分だ。
「テン、お前、どんだけドジやってんだよっ!」
とヒロさんが、何もないところでつまずいている俺を指さし、馬鹿にするように笑っている。
「すいませーん」
この前にも、車に乗る時に、頭をぶつけた一部始終を見られていたので、流石に突っ込みたくなったんだろう。冬が恋しい。
「誰かあ、交通誘導お願い」
という声に、真っ先に手を挙げる。誘導棒と反射ベストは俺の友達だ。慣れた手つきで誘導して、指示に従ってくれる車達を眺めながら、俺が立派に仕事ができていることに感動した。太陽の陽射しが心地いい。春の空気も相まって、脳内でニートからの卒業式を、誠に僭越ながら、執り行わせていただいた。
「テンテンさん、お誕生日おめでとうございます」
零時ちょうどになった瞬間、リュウくんが正座に座り直して、小さい紙袋を渡してくれた。わざわざいいのに、と謙遜しながらも、ありがたく受け取った。
「約束、覚えててくれてたんですね」
箱の中身はピアスが二つ。
「あの時のあの光景は、永遠に忘れられない」
とジュースみたいなお酒を一口飲んでから朗らかに笑った。彼にトラウマレベルの記憶を植え付けてたのが、申し訳なくもあるが、記憶の共有ができることが、堪らなく嬉しくもあった。左用のピアスを彼に渡して、右用のピアスを自分に付けた。九個付けているピアスの中でこれが最もお気に入りになった。鏡で見る度に、素敵だと思い、笑顔になれる。
「もう一つ、我儘を言ってもいいですか?」
「何?」
お揃いのピアスを付けた彼が、酔って顔を赤らめながら、頬杖をついてこちらを見つめてくる。
「バイクで何処かに連れてってくれませんか?」
まだあまり慣れてなくて、照れ笑いで少し誤魔化したけれど、ちゃんと彼の目を見つめ返した。
「ずっとやりたかったよ、それ」
と彼が目を細める。




