悪魔の証明
ゲームは目に悪いなんて、よく言われているが、実際に目に悪いのは、人工的に作られた世界だと思う。だから、スマホも深夜のコンビニも車のヘッドライトも、目に悪い。小さな太陽を直視しているみたいだ。話は飛ぶが、ラスボスを呆気なく倒してしまって、エンドロールを鑑賞したロールプレイングゲームを閉じて、最近、新たにサイコホラーゲームを始めた。グロいゲームをするなんて、脳に悪いと誰かさんに言われてしまうだろうが、実際に行動するよりかは遥かにマシだ。代替品で痛がりたい欲求と傷つけたい欲求を昇華する。
「うわあっ、痛い痛い痛い痛いっ!」
とリュウくんが隣りで目を細めて叫んでいる。
「もう、見なければいいじゃないですかあ」
毎度の事ながら、笑ってしまう。それじゃつまんない、と言って、彼も怖いもの見たさで見ているんだろう。
「次は、一緒にやれるのがいいです」
と一人用ロールプレイングゲームをやっていた時によく言われていた。それを、ことごとく裏切って、サイコホラーゲームを見せた時には、悪質ないじめ、と評された。けれど、彼も俺も楽しめているので結果オーライだ。
「あっ、死んだ」
コントローラをマイクドロップのように床に落とす。画面にはゲームオーバーの文字が俺をイラつかせるように出てくる。もういい、お前に構うのはやめる。ふて寝するように布団に入るが、アイツの攻略法を脳内に巡らせて、眠れそうになかった。
「テンテン、薬飲んだ?」
「飲んでない、です」
と言うと、リュウくんがコップに水を注いで、薬とともに持ってきてくれる。仲良くなるにつれて、彼が俺の部屋によく遊びに来るようになって、身の回りのことをやってくれるようになった。かなり甘やかされていて、時に彼が俺をダメ人間たらしめていると思うこともあるのだが、誰かに構われるのは、母の過干渉に浸っていた俺としては、安心と愉悦を感じた。
「明日はお休み?」
「はい」
「良いなあ、僕も休みたい」
週五勤務で働いているので、リュウくん達よりも一日だけ休みが多い。でも休みといっても、俺の場合はただひたすらに寝ているだけで、遊びに行くほどの余裕と体力はない。
「ただただ暇ですよ」
「そっか、そうだよね。ゆっくり休んで。僕は稼いでバイクのローン返済しないとだし」
と布団を軽く叩いてから、おやすみ、と言われた。
休みと聞くと、何だか何でもできるような、魅惑な言葉に聞こえてくるが、現実は思った以上に何もできなくて、休みの終焉に、今日一日、何をしたか思い出せない、時間を無駄にしたかのような感覚に襲われる。自分の存在証明すらできないくらい、誰とも関わらずに、何もしないで、漠然と生きて、現実世界での存在感が薄くなっていく、そんな恐怖を感じる。仕事をしていた方がまだ人生の充実感があるだろうが、それも体力的に叶わない。天井の中に存在する虚構を見つめて、生きている意味とか理由とか、悪魔の証明みたいなものだけど、存在しないものを求めている。その時間が俺にとっての休みだ。




