三二一
「誕生日いつですか?」
唐突に聞かれ、
「三月二十一日です」
と不思議に思いながらも反射的に答えた。
「三二一、覚えやすいっすね。じゃあ、そんときに僕からプレゼントさせてもらいますよ」
言われてから気づいたが、誕生日を聞くというのは、プレゼントをしたい、という意味合いを含んでいて、俺が何の迷いもなしに誕生日を答えたのは、傲慢にもプレゼントをされたい人みたいに、思われたんじゃないかとちょっぴり不安になった。
「リュウくんはいつなんですか?」
「今日です」
あまりにもあっさりと言うので、
「え、嘘ですよね?」
と訝しんだ。
「ほんと、今日なんですよ。今日で二十歳になりました」
はにかんで笑う彼は、免許証を見せてくれたまじもんで今日なので、意味もなくあたふたしてしまった。二十歳の誕生日と言ったら、盛大にお祝いするべきなのに、こんな変な大人と一緒にいていいのかと思ってしまった。
「家に、帰ったりとか、お祝いしたりとか、しなくて良いんですか?」
「いやあ、今日もほんとは仕事する予定だったし、帰ったところで、んー、あんま家族とも仲良くないんすよね。ここのが居心地良いとゆーか。あっでも、シュークリームなら奢られても良いっすよ、なんて」
と冗談交じりに話しづらいことを話させてしまった。
「奢りますよ、好きなだけ」
冗談だと断られたが、半強制的にコンビニにあったシュークリームを全種類とお酒を買って、奢った。正しくは、奢らせてもらった。
「やっぱ美味いっすわ」
と口いっぱいにクリームを詰め込んで、幸せそうに食べる彼を見て、胸がいっぱいになった。
仕事を休んだ理由をアキさんに聞かれた。自傷行為については伏せたが、ありのままの弱い自分を伝えた。病んでいると思われることを心配していたが、
「羽伸ばせたんなら良かったんじゃん?」
と暗い顔ひとつもせずに言われ、次にピアスをいじられた。
「ヒロ、見てみ。テンがピアス開けてんの」
と笑いながらチクられて、何がそんなに面白いんだろうと、愉快な人だと思いながら、これから起こる出来事に背筋が伸びた。ヒロさんは絶対に怒るだろう。
「へえ、めっちゃ開けてる」
と別に何も思ってないという無関心を思いっきり向けられた。身構えて損したが、これはこれで、何だかヒロさんとの距離感がとても開いてしまったように感じる。




