ドラゴンスレイヤー
ある日、涙が枯れてしまって、泣きたくても泣けなくなった。もう笑うしかなかった。嘘。俺はそんな陽気な人間ではない。涙を流せないのなら、代わりに血を流そうと腕をカッターで切った。痛いと思った。しかし、その痛さと引き換えに、快楽物質のエクスタシーを頂いた。気付いたら、俺は笑っていた。こんなにも自然に笑うことができるんだと自分自身に驚いた。俺があのゲームの勇者ならば、ドラゴンスレイヤーでも頂いたみたいなものだ。それぐらい、あの瞬間は気分が良い。俺の心の中にある霧を切り刻んで晴らすかのように。でも、晴れの日は嫌いだ。三歳下の弟に言われた。
「どうして死にたいのかがわからない」
そう微妙に笑って、言われた。妙に嫌な気分はしなかった。寧ろ、俺よりも頭が良くて国立大に通う弟に反面教師として教えを説くような気分で、こう返した。
「俺がこうやって生きてんのが気持ち悪ぃんだよ。社会不適合者として、お天道様に背を向けて、死に損ないとして、生きてんのが」
それを聞いた弟は、家事をこなせば、ゲームして、酒呑んで、自由気ままに生きている俺の何処が苦しいのか、何故死にたいのかがいまだによく分からないという表情だ。それで良い、実際のところは俺もよく分からないんだ。でもそろそろ、消費しかしないクズから、生産性のあるクズにならなければならない、と自分を責めた。回復はもう済んでんだろ、と。




