表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
遊戯超過  作者: 吐夢
29/47

醜悪な俺を見ないでくれ

 「テンテンさーん、起きてください。今日は休みじゃなくて、仕事の日ですよ」

 ああ、うるさいくらい聞こえてるっての。リュウくんにそんなこと思うんじゃない。でも、こんな醜い姿を晒せるわけないじゃん。起き上がりたくてもできなくて、腕を死ぬほど切りまくってるんだけど、まるで効果がなくて、うざくて焦ってどうしようもなくて泣いてんの。涙と血が笑えるほど止まらない。

 「まじで、死んでないですよね?洒落になんないっすよ、ほんと」

 段々と雲行きが怪しくなる声。これが聞こえてるまではまだ生きている。理想と現実の境目を白昼夢でもみるかのように往来中だ。

 「あっ、鍵開いてる。テンテンさん、失礼しまーす」

 ああ神様、彼の目がこの瞬間だけは失明しますように。こんな醜悪な俺を見ないでくれ。

 「あーあ、俺死んだわ」

 どうしようも仕方がなくて、ベッドから落ちたところの床の上で、寝っ転がったまま腕から血を流した俺の遺体。床が汚れている。凶器のカッターは近くの床の上、手が届く範囲。微かに動いた唇としゃがれ声で死亡確認をする。視線は夢の中だ。第一発見者のリュウくんは叫び声を上げずに、少々時間をかけてから状況を把握した。一旦、ドアは閉めた。

 「どうしよどうしよ。テンテンさん、生きてますよね?」

 彼は左下で横向きになっている俺の姿勢を取り敢えず、仰向けにさせてから、まだ血が垂れている左腕を見てゾッとした。あまり露わにしないように配慮した姿勢だったのに。狸寝入りをして操られるままというより、俺は動きたくても動けないので、自分を意識のある人形だと思う。リュウくんはそんな不細工な人形の胸に耳を当てて、心音を確認した。唇に手のひらを当てて、呼吸まで確認してた。

 「はああ、生きてるう。とりま良かったあ」

 ホッと胸を撫で下ろすという言葉通りの仕草をして、安堵の表情が細い目の隙間からぼんやりと見えた。

 「……リュ、ウ、くん」

 心も身体もくすぐったくて、掠れ声が漏れ出た。リュウくんを覗き見てるようで悪い気がしたのだ。

 「テンテンさん⁉ああ、ほんと、テンテンさん。生きて、生きてるんすねっ!」

 満開の桜の花びらが後ろに見えるような笑顔だ。少し上体を起こされて、抱きしめられた。彼の泣いているような鼻水を啜る音が聞こえるんだが、何で泣いているのか理解ができない。怠くて怠くて、脳が仕事を放棄している。ふわふわした真っ白だ。

 「ごめん、なさい」

 壊れたロボットのように謝罪すると、そこから徐々に人間味が芽吹いていく。自分の愚行が理解できて、涙がまた溢れてきた。

 「ほんとっすよ、僕がどれだけ心配したと思って——ふふっ、ないっすね。今日は二人で楽しんじゃいましょうか」

 八つ当たりのような彼の言い分は途中で終わり、俺を慰めるように微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ