少年漫画のヒーロー
はあ、疲れた。疲れっていうのは、休もうとした瞬間に訪れる。だから、休もうとしなければ、疲れは訪れない。単なる動作不良だ。俺はまだ動ける。ぎこちなくても、みっともなくても、やらなければならないことがまだあるんだ。
コンコンコン。
「アキさーん、テンです」
「おっ、今日は風呂入ってんじゃん」
とドアを開けてからの第一声がそれで、何となく照れくさかった。借りていた服を洗って干して乾かしたので、畳んで返してお礼を言った。
「あの、ヒロのこと、許してやってくれん?」
「はい?」
罰が悪そうにそう聞かれても、許すも何もないので、反射的に聞き返してしまった。
「あいつ、テンみたいに頑張ってんのに、うまくできないで、もがいてる奴が好きなんよ。だから、応援の裏返しで、怒鳴っちゃうみたいで」
俺はそんな少年漫画のヒーローみたいなもんじゃない。そんな理想像の色眼鏡を通して、俺じゃない俺を好んでいるのは、アキさんじゃないっすか?コンビニで週刊の分厚い漫画雑誌を買って読んで枕にしてたのが証拠ですよ。
「違いますよね?ヒロさんは『また死人が出ますよ』って言ってました。俺みたいなのは、会社に不利益だってわかってて——」
「そうじゃない、違うんだって。ヒロが感情的になんのは、新人の作業員を、あいつが殺しちまったからなんだよ」
俺みたいに目を逸らして頭をかきながら、言いたくなさそうに教えてくれた。何だか重い空気に押し潰されてしまいそうになって、「それじゃあ」と言ってその場から逃げるように去った。ヒロさんは殺人犯じゃない。俺を助けてくれた。正しいことなのに、何だろう。この胸のわだかまりは。




