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翌朝、いつも通りに運転手を決めるが、ヒロさんの様子がぎこちなかった。やはり一昨日、俺が何かしでかしたのが原因じゃないかって思うと、息が苦しくなった。酸素に存在を認めてもらえてない。仕事中、旋回するユンボに思いっきり頭をぶつけ、そうになった。ヒロさんがそれ気づいて、咄嗟に俺の腕を引っ張り、転けさせてくれた。
「おい、死にてえのかっ⁉」
と怒鳴られた。その通り、俺は死にたいのです。けど仕事中に死ぬのは、普通に嫌だった。みんなの仕事の手を止めてしまう。迷惑かけて死ぬのは、全然嬉しくない。
「……すいません」
と何度も謝った。死にたいと思っていることも、仕事中にボーッとしてしまったことも。謝りつくせないほど、俺が生きているのが罪深く感じた。
「お前なあ、つれえとか死にてえとか、甘えたことばっか抜かしやがって、仕事のやる気ねえならとっととやめちまえ」
「すいません」
「謝って済む問題じゃねえの、邪魔だから帰れって言ってんだよ」
ものすごい剣幕で怒られた。優しかったヒロさんが嘘のようだ。泣き出す訳にも黙り込む訳にもいかなくて、でも謝罪の言葉以外に何を言えばいいのか分からなくて、脳内パニックになっていた。
「ヒロ、そんぐらいにしとけば?」
完璧に浮いてしまっている軽い口調でアキさんが割り込んできた。
「はあ?何すか?俺にはアキさんの考えは、さっぱり理解できないっすわ。こいつの何処をどう見たら、やる気があるって思うんすか?ボーッとして、タラタラと仕事しやがって、緊張感の欠片もないじゃないっすか!」
「テンは自分なりに一生懸命にやってんだと思うよ?ヒロには、他人の頑張りや疲れが見えないんか?」
二人が真剣に言い争ってしまった。目から火花でも飛んでそうだ。ごめんなさい、と心の中で何度も祈るように叫んだ。
「アキさんは甘すぎるんすよ。そんなんじゃ、また死人が出ますよ?」
ヒロさんがアキさんに吐き捨てるように言うと、ヘルメットを脱いで頭を冷やしに行った。
「テン、気ぃ引き締めんと死ぬよりも痛えぞ」
その一言で、俺の全身に霜が降りたようだ。体感温度が十度ほど下がった気がした。危険《K》予知《Y》活動、徹底しないといけないのはわかっている。けど疲れから脳みその細胞が死んでいって、何もかも真っ白になるんだ。鈍痛がするんだ。こんな言い訳しても、目に見えないから仮病と同じ。




