牛丼にあたる
目が覚めると、無意識に涙が頬を伝った。胸がぎゅっと締め付けられて、息をするのも生きてんのも苦しくなって、涙に溺れた場所でもがいた。いや、ここはあの車内だった。ヒロさんが作業着の上から俺の悲しみを宥めるようにポンポンと軽く叩いてくれる。悪夢で泣くなんてダセェな。はは、泣くのがダサいなんて誰が言ったよ。生きれば生きるほど社会の枠に嵌められて、生きづらくなってくようだ。
「テン、どうして泣いてんだよ。牛丼にでもあたっちまったか?」
牛丼にあたる、なんて聞いたこともない言葉が飛び出してきて、笑いをこらえるのもおかしいので、普通に泣きながら笑った。脳内で巨大牛丼が、赤いマント目掛けて突進してくる牛の如く、俺に向かって突っ込んできて、当たる。
「ふふっ、大丈夫ですよ」
何で泣いていたのかも忘れてしまうほど、インパクトのある言葉に脳内が侵食された。呼吸を整えてから、水を飲むと、その水が乾いた喉を潤して、流した涙の分を補充できたみたいだ。ヒロさんは俺が泣いていた理由を深く詮索はしなかった。俺が聞いて欲しくないという雰囲気を醸し出していたからかもしれない。いいや、大の大人が子供っぽく泣き出すものだから酷く引かれたんだろう。けど本当、俺は感情が顔に出やすい方だと思う。こればっかりは、隠したくてもやりようがなかった。毎朝、鏡を見る度に、今日もゾンビみたいな死んでいる顔をしているなと思うんだ。睡眠をとって、水分をとって、ストレスもとって、疲れも、心の重りもとって、まるで別人かのように午後の仕事開始は、太陽の光が心地よくて、爽やかな気分だった。




