94:神使いシガミー、ムシュル貝のドラゴーラ焼き(うり切れ)
「おつかれさまだぁぜ。えー、数々の手柄を鑑みた結果、五百乃大角さんを正式に飯の神じゃねぇや――美の女神兼、〝商売の神〟としてまつることに決定したぜ。一同拍手――!」
わー、ぱちぱちぱち♪
閉店後、店の壁という壁に棚や、ちいさな階段をつくり、その全部を――この祠につながるようにした。
これなら、そのちいせえ形でも、自由に店中を動きまわれるだろ。
長机の壁際。扉のついた戸棚。
それは神棚かお社に、みえなくもねえ――祠のつもりだが。
店中を渡した棚にも、鳥居をあしらった。
「工房長に感謝だぜ――ぇ……」
リオとレイダのするどい視線。
「シガミーはもうすこし、おしとやかにした方が良いと思うよ」
「そうですねぇ。もしリカルルさまが、私のまえでそんな言葉づかいをなさったら――クスクスクスクス♪」
ふたりの目が……わらってねぇ。
「……か、感謝です――よぅわぜ?」
わー、ぱちぱちぱち♪
「こりゃ、うめーな! ガッハハハハッ――さすがは、シガミーの国の酒だ!」
上機嫌の工房長の手には、透明な酒瓶。
おれは大人になるまで、酒はお預けだ……惜しくなんてねぇぞ。
「よーし!」
前世じゃ坊主だったが、いまはしがない薬草師だ。
気がねなく柏手を打つ――――ぱしぱしぃぃーん♪
「よ・ん・だぁ――?」
眠そうな顔で新築の祠から、頭をだす饅頭。
「おかわいい――!」
レイダがカウンターによじのぼる。
とびかかる子供を華麗にかわし、ちいさな口をひらく饅頭。
「――この場をどうにかできたら――〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟を腹一杯食わせてやる」
おれの声だぜ?
どよめくおれ。
「――〝豪勢な料理とお酒の席〟を設けるので」
私の声ですね?
どよめくリオ。
「――その宴会はもちろん……おれがもつ」
またシガミーの声――!?
わたしの声はないの? 御神体さま?
「――ごはんをあげると――本当に御利益があるんだもん♪」
お、レイダの声だぜ――?
「おもしろいけどさ、芸としちゃ……しては、ただおれたちの声を真似してるだけだから――そのうちあきられるわぜ?」
いや――わかってる。
「〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟――〝豪勢な料理とお酒の席〟――〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟――〝豪勢な料理とお酒の席〟――〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟――〝豪勢な料理とお酒の席〟――――――」
これは約束した――飯の催促だ。
「しゃあねぇ……しかたがないですね。やるます……か、宴会!」
「そのことですが、シガミー。じつはひとつ――気がかりがあります」
ん? 金の心配ならいらねぇぞ。
なんせ、千客万来、満員御礼だ。
§
「そりゃ、まいったね」
ひさびさに見た、女将の表情がしぶい。
「この際、女神さまの分の一皿だけでも――?」
首をよこにふる女将。
「それが、カミナリが減るこれからの季節は、まったくと言って良いほど、入荷がなくなるんだよ。メニューにも書いてあるだろ?」
ニゲルが説明してくれる。
おれは、お品書きをみた。
『中皿/ムシュル貝のドラゴーラ焼き 6ヘクク
※ただし雷乾期は提供できません。』
「(女神像から収得した情報を検索)――ガムラン町ではこレから約ひト月の間、雨が降らないよウです」
「んぅ? 夏場にゃ大雨も雷もどっさりと降るんじゃねぇの……ですわぜ?」
「夏でも、これからの雷乾期は雨が降らず、植物採取量が減るのですよ。なかでもただでさえ希少なドラゴーラは、壊滅的なようですね……残念ですが」
神妙な面もちの、リオレイニア。
「ムシュル貝のドラゴーラ焼き――ムシュル貝のドラゴーラ焼き――ムシュル貝のドラゴーラ焼き――ムシュル貝のドラゴーラ焼き――――ムシュル貝――ドラゴーラ――ムシュドラ――ルラゴラ――――ごんごろごろごろごんごろごろごろごんごろごろろろろらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
丸机のうえを、縦横無尽にころがる御神体。
「おまえさんは、神様なんだですから――雨くれい降らせねいのですか?」
「ごんごろろろろろっ――――むり、神さまじゃあるまいし――――ごんごろろろろろろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
おまえ――正真正銘の神様だろうがよぉ!
本物の天狗でもいたら、雨乞いはお手の物だったんだがなっ!
「ごろごろごろごろごろろろろろろろろろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ――――――――!!!」
なだめるのに、今日の売り上げを全部――――食われた。
§
「(やべぇぜ……こまったよ、迅雷くん)」
シガミー邸にもどったおれは、さっそく迅雷と話をする。
「(はい、シガミー。収入源のあらいなおしが必要です)」
「(〝ゴーブリン石〟とか、狼もどきの〝石〟は売れるだ……売れるのでございますわぜ?)」
「(はい。裏天狗では売買時の認証をパスできませんので、シガミーが天狗の姿で売りにいかなければなりませんが)」
「(――――迅雷くん)」
「(なんでしょう、シガミー)」
「(丁寧な、しゃらあしゃらした言葉は、おれにはまだ――しゃらくせえでごぜぇますわぜ?)」
姫さんの丁寧なみやこ言葉や、迅雷がつかう神々の言葉もただ聞くだけならできる。
けど自分で話すとなると、まださっぱりわからねぇ。
「(だれか、手本となる人物の口調を、真似てみてはいかがでしょうか?)」
手本……手本なぁ。
レイダは子供すぎるし、リオや姫さんは迅雷よか丁寧なくれぇだし――
「(オルコトリアは受付業務で培った言葉づかいを、心がけているようです)」
アイツなぁ――悪くはねぇが、ちいとぶっきらぼうじゃねぇか?
「(それでは……男性ではありますがニゲルも、わかりやすい言葉づかいです)」
よし、ニゲルの真似をする。
おれが誰かと話すまえに迅雷が、内緒話で手本を聞かせてくれ。
「(わかったよ、シガミー。がんばろうね♪)」
うをわっ! ニゲルの声が、頭んなかでしやがるっ!?
声までニゲルに、しなくていい!
「(わかったよ、シガみー。がんバろうね♪)」
なるほどだぜ。そーゆーかんじに話しゃあいいんだな――楽勝楽勝♪
「(なルほどだねっ。そンな風に話をすればいいノか――できルと思うヨ♪)」
あーたしかに、若ぇのが言いそうだ。




