90:猪蟹屋店主(シガミー)、朝食とボードゲーム
「(――起きてください)」
「ふにゃぁーい――なんでぇい?」
「(シガミー、起きてください)」
ふぉふぉん♪
『最優先項目:自己診断モード継続中 終了までの時間/未定
最優先項目2:〝事象ライブラリ〟更新終了まで――16分
最優先項目3:〝女神格納現象〟解析終了
>対話型インターフェース復帰しました』
「んぉ? 迅雷かぁ――おはようさん――あと半刻したら、起こしてくれ……すやぁ」
「(イオノファラー謹製の消炎鎮痛剤が、よく効いているようですね。ですが8秒後に魂徒労裏、中央の大きなボタンを長押ししてください――)」
ヴヴッ――――ぼこん!
なんかが、頭の上に落ちてきた。
「んだょ、痛ぇな――!」
体を起こして――痛でだだ。
つかんだソレは――かちゃり。
魂徒労裏だった。
「シッガミーィ、鬼娘ちゃんは、納得して帰ったの。いつ行くの、〝ムシュル貝のドラゴーラ焼き〟食べ放題には、あした? それとも、3秒後――――?」
跳びこんでくる、白い天狗。
「(シガミー、いまです!)」
ふにゃぁっ――魂徒労裏の牡丹を長押しすんだったか……?
ぐぃぃぃぃ――すぽん♪
最後にみたのは、巻いた布みてえなので――――ぼごん!
「ふにゃぁーい――――ばたり♪」
頭に当たったなにかもろとも、おれはぶっ倒れた。
§
「シガミー、おきてください。シガミー」
なんか、揺さぶられてる。
「シガミー、おきてください。シガミー」
「おきないと、シガミーでボウドゲイムするからね?」
なんでぇい、棒弩無芸たぁ?
そいつぁ、聞いたことがねぇな――――目をあける。
むくり……うん?
ふつうに起きられる。
そとで小鳥が鳴いてる。もう朝だ。
「迅雷居るか? おれは……どれくらい寝てた?)」
「(いちど起きましたが、そのあとまた寝たので、全部で10時間程です。おはようございます、シガミー。)」
「(おう、寝過ぎたぜ。けど、その甲斐あったみてぇだ。ぜんっぜん痛くねぇ♪)」
「(ソレは良かったですね、シガミー。)」
おれは飛び起きて、屈伸からの――とんぼ返り♪
――どたん!
「治ってるじゃねぇーか!」
まさか五百乃大角の卵酒が、本当に効くとは思わなかったぜ。
「おはよう、シガミー。今日はすごく、お寝坊さんだね♪」
あさ一番にやってきたらしいレイダ。
「おはよう、レイダ。……リオも」
たぶんずっと付いててくれた、リオレイニア。
「はい、おはようございます。すぐに朝食を、召しあがりますか?」
じゃ、なんか適当に、たのむ。
「レイダは、いかがなさいますか?」
リオレイニアが朝飯の支度を、はじめた。
「わたしも食べる!」
今日の献立は、ウサギ肉と野菜とたまごの甘辛煮。
米が欲しくなるが、ふかした羽根芋で我慢する。
§
「これがね、〝ボウドゲイム〟だよ!」
机のうえに、なんかいろいろ置いてある。
厚い板のうえに、ちいさな人形が散らばってた。
「(暴徒無芸……聞いたことのねぇ遊びだぜ。これはひょっとして、迅雷がつくったのか?)」
「(いいえ、私ではありません。ソレは昨晩、イオノファラーが用意しました。)」
「(わすれてたぜ――五百乃大角は!? 白天狗はどうなった!?)」
シガミー邸の中に居るのは、『シガミー御一行様』の仲間だけだ。
「(ねえちょっと、シガミィサァーン? 忘れてたってどういうコトぉー? お約束がぁ、ちっがうんじゃあっりっむぁせんくわぁー!? あたくしさまがぁ、お怒りですよー?)」
内緒話に割りこむ、素っ頓狂な声。
「(なんだよ、居るんじゃねぇーかよ!)」
いま迅雷は、リオレイニアの手伝いをしてるから、びーどろは見えねぇ。
けどたぶん――ならんだ和菓子の、最後の方でゴロゴロ転がってるはずだ。
「(そりゃあぁ、いますよぉぅだ! うまくいったら食べ放題だって、言ったくせにさっ! もうさ、常識をさ、う↑た↓が↓う↑よ→ねっえ←だっ!)」
わかった、わかった。
筋肉痛が治ったのは、マジでたすかったぜ。
五百乃大角が飯を食えるようになったら、ちゃんとつれてってやるから、ソレまで我慢してくれ。
わかった、我慢する。
なんだ、聞きわけが良いな。
いつもこうなら、助かるんだが。
「(迅雷、あの後どうなった?)」
あんまり覚えてねぇ。
「(卵酒を飲んだシガミーが気絶するように眠りこけ、約2時間後、目をさましました。)」
魂徒労裏が頭にぶつかって――そのまま寝ちまったんだっけか?
はい、そのままさらに8時間程、お休みになりました。
「それで……オルコトリアは――」
「(ちゃあんと、帰ったよ。包丁の色を青くしてくれって言われたから、青くしたげたら、すごく喜んでた♪)」
迅雷なしでも五百乃大角は裏天狗のからだ――酢蛸のちからが使えるんだな。
やっぱり、下っ腹がいくら出てても、コイツはマジの神さんだってことを忘れねぇようにしねぇと。
けど物の色をかえるやつを使っちまっちゃあ、天狗と五百乃大角とシガミーの関係をうたがわれねぇか?
「(だいじょーぶすっよ。天狗にとり憑いてるときにわぁーあたくしにもぉー、天狗の技がぁー、ぜぇーんぶ使えるよーって言っといたっすからぁー♪)」
ぜんぜん大丈夫じゃねぇだろソレ。
日の本でも〝天狗付き〟が大嵐を呼んで小国が傾いたって話――はどうでもいいか。
「それがですね、夜おそくなったころ……女神さまと食堂で呑むと言い始めたので……ひそひそ……後日、あらためて〝豪勢な料理とお酒の席〟を設けるので、今日のところはひとりで呑んできてくださいと、叩きだし……帰ってもらいました……ひそひそ」
出かけた先で白天狗が――飯が食えねえって言って、癇癪おこして女将とやりあう所まで……目に浮かんだ。
「わるい、白天狗が出かけなくて助かった。恩にきるぜ。その宴会はもちろん……おれがもつ」
「(言ったね? 言ったわね、キャッホーイィ♪ 食堂の食べ放題とは別だからね!? ――迅雷、いまの音声データ、別名で保存しといてちょーだい!)」
はい。イオノファラー。




