86:猪蟹屋店主(シガミー)、ガチャ石はっけん
「テェーングさまは、こちらにいらっしゃいましたか?」
来訪者はリオレイニアだった。
「テ・ン・グな。さっき帰った――つうか、岩場近くに隠れ家を建てて、しばらく住みつくそうだ」
これでいいか迅雷?
はい。宿屋に滞在していることにした場合、たえず裏天狗を操作しないといけなくなりますので。
「故郷を探す旅のあいまにでアった同郷の、同ジく迷いびと同士。こノまま別れてシまうのは寂しイと、おっしゃっテおりました。」
「テー・ン・グさまは、本当にお強いのですねー。あんな危険な所に居を構えるなんて。ふぅー……シガミーもいつかそんなふうに、なってしまうのかしら?」
頬に手をあて小首をかしげる姿は、なんか目が離せねえ。
「(ちょっと、シガミー。鼻のした伸びてるわよ? だっらぁしなっぁいわねっぇーん♪)」
びーどろの隅を和菓子が、ちょこまかと走りまわってやがる。
「(やっかましぃわ。だらしなさで言ったら、五百乃大角にゃとても、かなわねぇーよ!
そんなことより、本当に――――SPが減らなくなったんだな?)」
「(はい。イオノファラーのSP消費が完全に、とまりました。)」
「(なんだかよくわからないけど、この仮の体が命拾いしたみたいねー。SPも10230ものこってるわよ、ふっふぅーんだ♪)」
威張ってる場合でもねぇだろ。とりあえずは助かったが。
「(では私は全システムの精査と、イオノファラーが収納魔法具内に格納された不可解な現象の解析を開始します。)」
おう、〝おお急ぎ〟で頼むぜ。
おれの腕輪に裏天狗を格納したら、五百乃大角が収納魔法に入っちまった。
わけがわからん。
わかることといやぁ裏天狗の酢蛸と、迅雷の収納魔法はつながってるってことくれぇだ。
けど、おれの腕輪とはつながってねぇんだよな――いろいろ、ややこしいことになってる。
ふぉふぉん♪
『最優先項目:〝システム整合性監査プログラム〟の更新エラーによる自己診断モードの実行 終了までの時間/未定。
最優先項目2:〝事象ライブラリ〟更新終了まで 2時間59分
最優先項目3:〝女神格納現象〟解析終了まで 3時間29分』
しゅるん。
びーどろの真ん中にでた枠が、五百乃大角とは別の角に小さくなって収まった。
迅雷が説破するまで数時間。
おとなしくしてるぜ。
「(おぉーい? なんかしゃべってー、あたし暇なんだけどぉー?)」
やかましぃ、おまえはおとなしくしてやがれ!
「あのうそれで……女神さまはいまどちらに? ……ぼそり」
内緒話をするように、声をひそめる給仕服。
「安心して良いぜ……五百乃大角は、腹一杯になって還った……ぼそり」
まさかおれの目のまえ、迅雷の中に居るたぁ思いもよらねぇだろうなぁ。
「ほーっ、それはよかったです。あ、そうでした。シガミー、実はもうひとり来ているのですが、お通ししてもよろしいでしょうか?」
「ん? かまわねぇぞ――」
誰だろ?
「(ええっとねぇー、あたしはたぶん、狐耳娘ちゃんだと――いいなあ)」
お告げでもすんのかと思ったら――おまえの願望じゃねーか。
「やあ、シガミー。お邪魔するよ」
リオレイニアのあとについて、入ってきたのは――――ギュギュギュギュギュギュギュィイィィィィィィィンッ――――!
この〝うるさい眼鏡〟をかけたやつはレイダの親父……父上殿で、ギルド長だ。
「角ウサギ変異種の素材を仕分けしてたら、おもしろい物を見つけたからちょっと立ちよらせてもらったよ」
§
ごとん――それは木箱。
ぱかり――中をひらくと、虹色にひかる大球がでてきた。
おれは横になったまま、たずねる。
「そりゃ、なんでぇい?」
「(うっわ、それ課金石じゃないの……どーういうことーぉ?)」
ただでさえ寸足らずなからだを、ちいさくまるめて床がわりのびーどろにかぶりつく女神。
「はぁ、〝月夜石〟だぁ?」
あんまり体をうごかすな。そん中だって、なにが起こるかわからねぇんだからよ。
「む? やはり、これが何かおわかりになるのですね――迅雷殿には!?」
ギュギュギュィィィィッ――――ギュギュィィィィーーーーーーンッ!
「あー、迅雷はいま、えっと――おれの筋肉痛を治すのに調べ物をしてて、あんまり受け答えができねぇんだが……」
いけねぇや、ついまた声にでちまった。
迅雷ー、聞いてるか?
「(へんじがない……ただのしかばねのようねぇ~。ならあたしが教えてあげるわよ、超ヒマだし。さぁさぁ、なんでも聞いてちゃぶだぁい?)」
梅干しの大きさなのに、ふてぶてしい表情が――ちゃんとわかりやがる。
「ソレでも良いっ、いまわかることだけで良いから、教えてくれないかねぇぇぇぇっ――――ヒィヤッファァァァァッ!」
ギュギュギュギュギュギィィィィィィッ――――ギュギュギュギュギィィィィィィィィィィィィィッィン!
「(しかたねえな。五百乃大角、この〝月夜石〟てのはなんだ? できるだけ真面目にたのむぜ)」
「(はぁい。お答えしまぁす。えっとね、ちゃんとした名前は〝マナ宝石〟だったわよ、たしかそんなかんじ)」
「名前は、マナ宝石――」
で、なんかの役に立つのか?
「マナ宝石? 聞いたことがないですね――活力と付くからには、高等魔術やスキルに関連する物と思われますが――!!」
ギギュギギュギギュギギュィン――――――――ギュギュギュギュギュギュギュギュィィィィ--------ン!
「(そうねぇー。簡単に言うなら、あたしの国でつかうお金よね。そこそこの価値があって――それをつかうと、あたしのSPが……500000ポイントくらいふえたっけ?)」
おれに聞くなっつうか五十万だぁ!?
「(それを食やぁ、そうとう増えるじゃねーかっ!?)」
増やす方法は、無えって言ってたが――
「(――でも、ゲームの中にあっても意味ないし、有るわけがないのよねぇー?)」
梅干しが、ごろごろと転がりはじめた。
「くわしくは、わからねぇが……五百乃大角の世界でつかう金で――――」
ふぉん♪
『マナ宝石の購入金額 1個 10,000円
>500,000SP相当
>1SP=63パケタ換算(トッカータ大陸平均レート)
>市場価格31500000パケタ』
迅雷がなんか出してくれたが……こりゃ。
「値打ちが、ひのふの……三千百五十万パケタだぁ!?」
おれなら何百年も食っていける、とんでもねぇ金額になった。




