79:天狗(シガミー)、瀑布火炎の印
ッダダンっ――くるくる、スタン!
あたりを見わたしやすい、大岩のうえに陣取る。
目のまえには、姫さんたちと化けウサギ。
うしろには、惡神じゃねぇ……えーっと、なんだ?
餓鬼で子供な――大恩神が腹を空かせてる。
「(迅雷。まずは銀板に書いてあるスキルを、ぜんぶ隠せ!)」
「(はい。ではダミー……偽物の情報を指定してください。)」
ふぉふぉふぉぉぉん♪
『シガミー LV:22
薬草師★★★★★ /状態異常無効/生産数最大/女神に加護/七天抜刀根術免許皆伝
追加スキル /遅延回収/自動回収/即死回避/自動回復/体力増強/上級鑑定/自爆耐性/上級解体/スキル隠蔽/LV詐称/人名詐称
――所属:シガミー御一行様』
「(名は天狗で良いだろ。日の本の字を、ここの連中は読めねえんだったか?)」
「(はい。では〝テング〟でいかがでしょうか?。)」
ふぉふぉふぉん♪
『テング LV:38
僧侶★★★★ /治癒強化/体力増強/中級鑑定
/上級解体
――所属:』
「(討伐後、即座に獲物の解体が必要になりますので、上級解体を入れてみました。)」
「(わかった、これで良い。あと天狗と言ったら風と波の神通力――疾風怒濤と……悪を見通す――破邪顕正なんてのはどうだ?)」
「(可能です。ただし、偽物の情報を指定した際に、そのスキル名が本当に存在していた場合には、そのスキルを収得してしまいますので注意してください。)」
「(このいそがしいときに聞き捨てならねぇことを……スキルは、ギルドの書庫にいきゃ見られるのか?)」
「(基本的なスキルは見られますが、有用で希少なものほど……知る方法がありません。)」
「(だめか。じゃ、五百乃大角が見てた虎の巻は?)」
「(上位権限により非公開です。)」
「(酢蛸をつかっても――見れねえのか?)」
「(上位権限により非公開です。)」
しゃぁねえ、虎の巻はあきらめるとして――
――姫さんがくれた〝死なねえ紐〟は黒くできるか?
手をかざすと、紐が黒くなった。
よし、できる限りの用意はできた。
これで〝聖剣切りの閃光〟の連中に、銀板を見られるなんて事があっても、シガミーとバレることがない。
「いくぞ。得物の錫杖も小太刀もねぇから――印を結んで真言を唱える!」
§
ドンッ――――ゴゴガァンッ――――ドドッ、ドドッ――――トトトトォォォォォォォォォォオォォォォォン――――――――――――!!!
化けウサギの頭上を取るべく――――高く跳ぶ!
「(天狗の声を、轟かせることはできるか?)」
「(可能です。)」
「――――聞けぇぃ、人の子よ!」
耳栓してなかったら、地面にたたき落とされてたかもしれねえ。
「辺り一面、業火に包まれるぞぉ――塵になりたくなくば、即刻離れよ!」
ビリビリとした震えが、おれの喉とうしろ頭や背中からほとばしる!
「(そういえば、シガミー。)」
「(なんだ?)」
「(遅延回収と、自動回収については、声にだす必要はありません。)」
「(じゃあ、どうやって、投げ技をつかうんでい?)」
姫さんがコッチを見上げて、なんか言ってる。
内緒話の邪魔をしてこねえのは、敵だと思われてねえ証しだ。
「(遅延回収に必要な秒数を、心の中で唱えてください。)」
唱える?
「(五拍なら〝五〟って言やあ良いのか?)」
「(はい、そうです。スキル名称は収得時に一度だけ声に出していただくだけでかまいません。)」
「(……そういう仕掛けなんだな――またわからなくなったら聞くから、そんときゃまた、おしえてくれ)」
「(了解です。それと、スキル収得手続きをその場で行っていますが、本来は女神像の前で行う必要があるので、注意してください。)」
§
ひゅぉぉぉぉぉぉぉ――――そらに月――――ここの月にうさぎはいねえ。
ウサギなら、真下にいる。
「(ちょうど良い高さだ。一気に行くぞ――――!)
ドォンガッタ、ドンドラガッタッタッタッ♪
迅雷の御囃子に驚いた〝聖剣切りの閃光〟が――化けうさぎから、離れていく。
化けウサギの目に――黒ずくめの天狗が写りこんでいる。
写りこむおれの素手は、空いている。
「(全方位、全法位)」
「(はい、シガミー)」
ジンライが細腕で、おれの指先を切った。
流れる血。
すぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ――――空中に円を描く。
それは回廊を形成し、真言を体現する。
「ON――――!」
ぎちり――――――――シュッボゥ!
発火したのに、手が燃えねぇ――――!
「キリキリ――――〝瀑布火炎の印〟を結ぶ――――バザラ」
「ウン――――丹田から吹き出す業火――――ハッタ!」
半径、三丈を一瞬で焦土にかえる、焔の瀑布!
ボッゴゥオォウゥワァァァァァ――――――――!
流れる溶岩がごとき大波が、化けウサギの全身を包みこんだ!
『GP:□□□□□』
ビロロロッ♪
一気に盾がなくなった――いける!
「ギギィィィッギギィィィッギギィィィッ――――!!!」
角ウサギがわめくと――――ゴゴゴゴロロロロゴロ――――――――ピッシャァァンッ!
天から落ちてきた雷が、天狗をかすめ――――バリバリバリバリィィィ――――焔がかき消された!
『GP:■■■■■』
ググゥゥゥゥン――――敵の盾が、万端に戻り―――ギギィィィィッ!!!
天狗を囓ろうとしたウサギの尖った歯を、高下駄で蹴りとばした。
§
こっからさきは、後になって姫さんから聞かされた。
「こら、ちょっと、テェーングとやら! なにを食べられているんですのぉ――!?」
ウサギを取りかこむ〝聖剣切りの閃光〟。
「――――おぉーぃ! リカルルーゥ!」
合流する、別陣の〝聖剣切りの閃光〟と冒険者たち。
「ギュギギギギギギギギギィィィィィィィィッ――――――――♪」
燃える最大の敵を、胃袋に収めた化けウサギ。
笑ったような誇ったような、その雄叫び。
それは、長くはつづかなかった。
「――――――――――――――――(滅せよ!)」
ドズズズズズズゥゥゥゥゥゥンッ――――!!
なにか聞こえたかと思ったら、化けウサギが――――口から煙を吐いて、倒れたんだそうだ。
ーーー
餓鬼/餓鬼道に落ちた亡者。常に飢餓に苦しむ。
疾風怒濤/追い風と、荒れ狂う大きな波。
破邪顕正/間違った物の見方を、打ち破り正すこと。
丹田/へその下あたり。
丈/3メートル。三丈は9メートル。
餓鬼/餓鬼道に落ちた亡者。常に飢餓に苦しむ。
疾風怒濤/追い風と、荒れ狂う大きな波。
破邪顕正/間違った物の見方を、打ち破り正すこと。
丹田/へその下あたり。
丈/3メートル。三丈は9メートル。




