77:天狗(シガミー)、VSごちそう(おばけウサギ)開始
「はイ、シガみー。上位権限にヨり非公開でス。」
お? 耳栓ごしに迅雷の声が聞こえてきた。
そういや、まえに戦ったときにも、耳栓ごしに話したっけな。
「はイ。音声にヨる内部通話なら、リカルルに邪魔さレることがないのを……失念しておりマした。」
「なんだよ。なら最初から、これにしとけよ」
「ほんとよね。しっかりしてちょうだい!」
五百乃大角は猪蟹屋の商品でもある、〝ありふれた机と椅子〟を勝手に持ちだして座ってた。
収納魔法具のひとつが、机の上に置いてあるから、たぶんそうだ。
「私の収納魔法へアクセスがありまシた。」
「あなたたちのモノは、あたしのモノ。使えるモノはどんどん使うし、使ってイイからさあ早く――――冷めないうちに、お早めにお召しあがりください?」
両手には一本箸と小刀。
やべぇ、もう食う気満々じゃねぇか!
「さあ、シガミー。美の女神で有るあたしが許可します、遠慮はいりませんよ。ご存分に至福の逸品を――――どうしたの、その格好?」
「ああ、こいつぁ――夜中にこんな森ふかくまで来たのがバレると、リオレイニアに大目玉を食らっちまうから――姿を変えてる」
高下駄に長手甲で、身長をごまかした。
外套のうえから目隠しになる黒網をかぶって、顔もかくしてる。
全体的に真っ黒だし、声も爺声だ。
「へぇー。考えたわねー。それで、ごちそうはまだピンピンしてるけど?」
小刀が指した先―――
ギュギュギュギィィィィィィィィッ――――――――ドゴガガガァァァァン、ズドドドゴォォンッ!!
オルコトリアともう一人のパーティーメンバーを除いた、聖剣切りの閃光が巨大ウサギの前足に攻撃を集中させてる。
そして、岩の上に立つ姫さんの姿がザラついたと思ったら、その姿がかき消えた。
「なんだ!? 姫さん、どこいった!?」
おれの小太刀まで、いっしょに消えちまったぜ。
「甲冑の持つ機能のヨうです――(リカルルの攻撃対象から外れたことを、意味します。いまなら密談が可能です。)」
もう、五百乃大角も出ちまったから、いろいろどうでもいーけどな。
「あら、ごあいさつね。けど、どうでも良くはないわよ?」
どういうこった、女神さまよ?
「あなたたちの念話……密談は思考速度を加速するけど、あの綺麗な娘の持つスキルは〝先制攻撃〟だから、ぶっちゃけ――神であるあたしより早く、うごけることになるもの」
気のせいか、五百乃大角の顔が青ざめて見える。
つまり、狙った相手が早けりゃ早い程、姫さんの〝攻撃〟が早くなる。
「神速の謎が解けましたね。」
おう。でも今日のとこは、姫さんに化けウサギを〝ぶった切って〟もらうのが先決だぜ。
五百乃大角に、うまい飯をたらふく食わせてやって、速やかなお帰りを願おう。
「またもや、ごあいさつね。むこう一億年、居座っても良いけど?」
「あー、ちがうちがう。おれぁ、神さんは、ちゃんと敬ってるぜ! ……怖ぇけど」
まず話がちゃんと通じるし、おれに来世をくれた大恩神だ……怖ぇけどな。
「じゃー、どーゆーこーとーなーのーぅ?」
「さっきも言ったが、朝までに全部を片付けて町に戻らねえと――リオレイニアに怒られんだよ!」
怒られると、ますます森んなかに入ることを禁止されて、うまい飯のネタを探すのにも、苦労することになりかねねえって話だぜ。
「あー。この大陸はもう魔王がいないから、子供の安全をかんがえる余裕があるのね……良い事だわ♡」
――――よぉし、話がうまく整ったぜ。ふふん。
「はぁー。それを言ったら、元も子も説法もないでしょうに――――ぐきゅるるるりゅっ!」
五百乃大角の腹の虫が、根を上げたから――――魔法粥を出してやった。
§
化けウサギの周囲が――なぎ倒されていく。
枯れた巨木も、倒木も岩も――一切合切、ぶった切られる。
シュッカァァァァァン――――!!
姫さんの正面に、剣筋がきらめく。
さっき、ちらっと喰らった奥の手だ。
ギュギギュギギギギギギギギギギギッ――――!!!
巨大な角を突き下ろし、姿勢を低くする化けウサギ。
角に流れる無数の雷光!
ヴァリヴァリヴァリィ――――パキィィンッ!
豪奢な剣が折れた。
「さすがに、おいしい奴はつよいのかしらね~? がんばってぇー♪」
気楽だな、おい。
「――――、――――――!」
姫さんが、なんか叫んでんな。
スラァァァッ――――シュカァン、シュッカァァァァァン――――!!
姫さんの正面、袈裟懸けの剣筋が二度きらめいた。
奥の手、二連発。その手先の剣が見えなかった。
まて、そりゃおれの小太刀だ。
ギュギギュギィィィィッ、ギュギギュギィィィィィィィィッ――――!!!
ウサギが巨大な角を、斜めに跳ね上げた。
あきらかに姫さんの奥の手を、凌いでやがる。
角に流れる無数の雷光!
ヴァリヴァリヴァリィ――――パキィィンッ!
黒い小太刀も折れた。
「ねー、シガミー? あと迅雷もさぁー」
「なんでい?」
「なんでしょうか、イオノファラー?。」
「そろそろ、滅ぶ? ――――ぐきゅるるるりゅっ?」
腹の虫で脅すんじゃねぇよ――怖ぇだろうが!
「姫さんの奥の手でも切れなかったモンが、丸腰のおれにどうこうできるわけがねぇだろ?」
それに、魔法粥をうめぇうめぇって、よろこんで食ってたじゃねぇか!
「シガミーには、あれがあるじゃない……こんなやつ♪」
なんだその、へたくそな刀印は。
「よっ、はっ、とっ、うりゃ!」
それじゃ、ウナギを捕まえてるみてぇだぜ。
あんた、まがりなりにも神さんだろうがよ。
日の本の、しかも人の理とはいえ、ちゃんと知ってろよ、と思わねぇでもねえが――
「だめだ、ここじゃ使えねえ。真言をつかうとどういうわけか、手が燃えちまう」
「えー、そんなはずないんですけど?」
ちょっとまってと、またなんかをペラペラとめくってみてる。
「あったよ、これだ。〝自爆耐性〟を取ってないからよ。スキルポイントはいくら残ってるの?」
「残りは46,606です。」
「は? 女神のあたしよりスキルポイントが多いって、どういうコト?」




