738:大女神像の間にて、スキル偽装と芋の箱
ぽぎゅ――ごつん!
「こらっ!! 芋が詰まった木箱おぉー、押しつけるんじゃぁねぇやぃ!」
殺気が込もらぬ子供の声が、大女神像の間に木霊する。
ふぉん♪
『シガミー>角が当たって、痛えだろおが!』
黄緑色めっ、痛ぇだろぉがぁ!
尚も大きな顔を寄せてくる、強化服自律型を叱りつける。
「みゃぎゃにゃぁぁー、ぎゃに、にぎゃぎゃぁやーにゃにゃぁー♪」
ぅるーせぇ……はぁ?
「「蟹の身も沢山拾ってきたから、蟹味の揚げ芋を沢山作るんだもの」だぁとぉぅ?」
刻んだ洞窟蟹と鬼怨を、捏ねて揚げた――
〝蟹殺す〟という恐ろしい名の、蟹芋揚げ。
ふぉん♪
『ヒント>カニコロッケ/カニクリームコロッケ。蟹の身を具材とし、ホワイトソース仕立ての〝コロッケ(潰したジャガイモのカツ)〟。子供に大人気』
ふむ、〝蟹殺す〟てぇ名じゃぁねぇのか……確かにありゃぁ、童どもに大ウケだった。
うむ、コレだけ出来の良い芋が有るなら――
作ってやるのも、吝かじゃねぇがぁ。
「にゃんぎゃやー、にゃにゃぎゃやーぁ!」
おれは猫の魔物のような、強化服の顔を見る。
目鼻口はねぇが、それでも見れば、何かを考えていることくらいはわかる。
「「急がないと、間に合わないんだもの」だぁとぉ?」
〝間に合わねぇ〟てのは――何の話だぜ?
どうやら本気で……急いでいるらしい。
§
「ときに迅雷……ひそひそ――」
浮かぶ棒から生えた細い機械腕に支えられた、線の細い給仕服姿が――
「どうしマした……リオレイニア?」
ヴォヴォヴォヴォゥン――カチャキャチャチャ♪
「シガミーは、猫語を……ひそひそひそ……いつ覚えたのですか?」
――女神の眷属である〝独古杵・迅雷〟に耳打ちする。
おい、聞こえてるぞ。
まったく、何奴も此奴もぉ――
いまは青板の上の女神像が壊れた原因おぉー、探るのが先だぁろぉがぁ。
『(I_I)』『(>_<)』
こちらを見上げ、ぱちくりと目を閉じたりする様は大層、かわいらしくて――
子供らに見つかったら、きっと揉みくちゃにされる。
あれ? そういやぁ確かに今、おにぎりの言うことが、ハッキリとわかったな?
「未発見……いエ、北方ノ未開拓地域で、恐竜モドキヲテイム……飼イ慣らスときに、新しイスキルヲ習得しまシたので、ソの恩恵ト思わレます」
ちょっとまて迅雷。
「(こいつぁ〝テイム〟とやらとは別の、〝言葉がわかるスキル〟の恩恵じゃぁねぇのかぁ?)」
ふぉん♪
『>>はい、言葉のアヤです。現在シガミーには、多少の言語学的素養が発現していますが、起因する〝15個のスキル増加への追求〟は避けるべきでは?』
給仕服の背を支えたまま微動だにせず、一行表示を寄越す独鈷杵。
精々、四つくらいかと思ったが……そんなに有るのか。
ふぉふぉふぉふぉふぉぉぉぉぉん♪
『>>強化服自律型のリアルタイム言語翻訳に関係するスキル一覧
>>超感覚/血流強化/脳波補正/惑星地球外国語要項/全言語強化/
上級言語解析/地球大百科辞典/魔物テイマーLV3/使役巧者/魔物個体識別/
魔物学LV1/言論術/生物言語学/爬虫類形態音素解析/鳥類形態音素解析』
この現世で、スキルを望むがままに手に入れられる奴は――少ない。
ソコに居る給仕服の女は、たまたまスキルの持ち合わせが多いが――
本来、LVアップで手にしたSPを使い獲得する、希少なスキルが――
矢鱈と増えては、いかんのだ。
〝マジック・スクロール〟という魔法の巻物を使えば、追加で増やすことは出来るが――
そんなのは一国の王か王族、もしくは辺境伯家縁の者。
はたまた、たまたまその場に居合わせただけの、幸運で生意気な子供くらいでな。
ふぉん♪
『シガミー>>ああ、そういうことか。得心した』
おれは懐から冒険者カードを取り出した。
『シガミー・ガムラン LV:46
薬草師★★★★★ /状態異常無効/生産数最大/女神に加護/七天抜刀根術免許皆伝
追加スキル/遅延回収/自動回収/自動回復/体力増強/上級鑑定
/自爆耐性/解析指南/超料理術
――所属:シガミー御一行様』
うむ。魔導学院の廊下の突き当たり。冒険者ギルド出張所で、偽装したときのままだ。
当然、さっき画面を流れた15個のスキルは、ひとつも書かれちゃいねぇ。
ヴュワワワン♪
冒険者カードのスキルを隠蔽、つまり書き換える為の画面が出た。
建物や武器や御神体なんかを作れる、〝絵で板〟と殆ど同じだから――
その扱いに困ることはねぇ。
ふぉん♪
『>>それでは、追加の偽装スキルは〝魔物テイマーLV3〟にするとして、上昇している筈のLV値はどのくらいに設定しましょうか?』
ううーむ。
状況としちゃぁ――溜めておいた、なけなしのSPを使って、〝魔物テイマーLV3〟を収得したことにするわけだが。
本当はLV100で、もはや上がりようがねぇのを知られないために、〝スキル隠蔽〟スキルを使って隠しているのだ。
そしてその内容を都度、怪しまれぬよう書き換えてきた。
「(〝殲滅のビッグモクブート〟の経験値とやらが、どのくらいになるかによるな――解析指南!)」
ふぉふぉふぉふぉん♪
『解析指南>>現環境開始から現在までの間に、討伐された変異種は13体。その大部分を〝冒険者西計三十六〟が倒しましたが、LVアップによる能力値上昇は殆ど見られませんでした。』
そうなの?
「(ならLV50位で……良いんじゃね?)」
何ならリオレイニアのLVを聞いてから、その一個下くらいに書き換えりゃぁ――
ふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉん♪
『解析指南>>ですが、〝殲滅のビッグモクブート〟と対になる変異種である、
〝超特選大森林洞窟蟹|(変異種)【蒼い奏者】〟を撃ち倒した、
〝冒険者タターネネルド〟の能力値上昇は、少なく見積もっても、
LV20以上と見受けられます』
「(LV20……ははっ、駄目じゃねぇかよっ!)」
ふぉふぉん♪
『シガミー・ガムラン LV:66
薬草師★★★★★ /状態異常無効/生産数最大/女神に加護/七天抜刀根術免許皆伝
追加スキル/遅延回収/自動回収/自動回復/体力増強/上級鑑定
/自爆耐性/解析指南/超料理術/魔物テイマーLV3
――所属:シガミー御一行様』
リオレイニアを越えちまうのは、この際仕方がねぇ。
恐らくは史上最大の変異種に、止めをくれてやった訳だしな。
それでも人類最強の女将さんを越えちまうと、魔導騎士団がらみで揉めそうだから――
60越えは、本当は避けたい。
あ、そういやLVアップの鐘の音は、どうした?
ふぉん♪
『>>女神像の不調により、大森林エリアボス討伐に関するLVと、大森林バウトに関する精算処理が保留されています』
あーココで、此奴さまに話が戻る訳か。
ちゃぶ台の上に浮かぶ青板を、手に取った。
「他にお手伝い出来ることは、有りませんか?」
なら、さっさと女神像を直して、元通りにしてくれやぁ。
「はい、はーい! お名前はぁーなんて言うのぉー?」
どっかっ!
ぐっ、何者かによって、おれは突き飛ばされ、青板を奪われた!
「女神像の機能で、お聞きしたいことが!」
どかどかっ!
「かわいい♪」「おにぎりちゃんみたい♪」
どかどかどがかっ!
わいわいがやがややや!
学者方や魔導騎士団の連中、そして学院の生徒や職員たち。
暇な奴らが入れ替り立ち替り、寄ってきては――
小せぇおにぎりに、何かを尋ねていきやがるっ!
チ――キキ――キッ♪
顔の表面に映し出された『(>_<)』が、チカチカと光を強め――
「こちら、女神像カスタマーサービスアシスタントです。固有名は特にありません」
そんなことを言った。
女神御神体程度の大きさ。
レイダ材よりは、明るい青色をしていて――
青板から浮き出た其奴さまは、女神像の中身らしい。
わいわいわわいわわわい、がやがやがややがややややや♪
調子を崩し、膝を抱えて座り込む大女神像が、珍しいってんで――
大女神像の間の人の数が、凄ぇ事になってきたが――モサモサァ、モサモサモササァ♪
モサモサ神官どもが上手いこと、人の波を捌いてくれている。
おれは、おれの背に乗ったままのレイダとビビビーを「よいせっ!」と放り出し、人混みから離れた。
まったく、またサキラテ家の隠形の術かぁ?
リオやビビビーの家系に伝わる、謎の忍び足。
ありゃぁ、未だに仕掛けがわからん。
「青板を取られちまったぜ」
まだ、件の〝壊れた原因の話〟を聞いてる途中だったってぇのに。
ならば、件の人物についての話は、リオレイニアでも聞くか。
どうやら、知った人物らしいからな。
ガムラン町とは丁度、王都を挟んで反対側。
アリゲッタ辺境伯領の当主さまの話だ――――!?
「むあぎゃにゃやややーぁ!」
ごどがん!
「んにゃわぱ!?」
ちっ、黄緑色の猫の魔物風が、でかい木箱(芋が詰まってて超重い)でおれを小突きやがった!
「てめぇ、おにぎりっ!」
あんまりしつけぇと、叩っ斬るぞっ!
おれはヴッ――ガチャリ♪
日本刀を取り出しガチッ――鯉口を切った。




