733:大森林バウトのゆくえ、一刀両断さらば殲滅のビッグモクブート
「へっへぇーん♪ とっておきのぉ中のぉ、とっておきぃー! あたくしさまである女神御神体の収納魔法おぉー、使ったわのょん♪」
ヒュゴゴォォォォォッ――――!!!!
「何だとっ、そんな便利な収納魔法があるなら、これまでにもぉ、助かったことがぁ、山ほどあっただ――――ニャァ♪」
ヒュゴゴォォォォォッ――――!!!!
「(――なんて、言ってる場合じゃねぇっ!!!!)」
念話で時間を止めた。止めんと落ちる!
ブワッサ、バァサササササァ――――凄ぇ風だぜ!
急に斑色が消えたせいで、巻き込む風に煽られる!
「うぉを――おぅ――!?」
「なん――さね――!?」
虎型と一緒に落ちる、工房長と女将さん。
「ヴッ――きゃ――ぁ!?」
そんな声につい、見上げちまった!
まくれ上がる猪蟹屋の制服、露わになる蜂女の白い両足!
おれは咄嗟に首を曲げ、工房長のむさ苦しい髭面を拝む。
巻き上がる髭で、顔がまるで見えん。
「(ふふーん、残っ念っでぇしぃたぁ♪ 何でもかんでもにわぁ、使えーまーせーんーのーでー!)」
『(ಠ︹ಠ)¹』
「(なんでだぁ!?)」
何だぁその面ぁ、止めんかぁ――!
「(だって、この収納魔法にわ無尽蔵に入るけどさ、一度入れたらソレしか入れられなくなっちゃうものっ!)」
『┐( ̄へ ̄ )¹┌』
「(はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? お前さまめーっ――そんな大事なもんおぉー、一瞬の躊躇もなく使っちまいやがって――!)」
そもそも御神体に、そんな機能わぁ付けとらんぞぉ!?
絵で板を使って御神体を作ったのは、何を隠そう、おれだ。
工房長と――「ぎゃ――おぅぉ――!?」――目が合った!
あの豪快な益荒男が、相当慌ててやがる。
そりゃそうだ。このままいきゃぁ――10秒もたたずに地にめり込む!
「(元はMSPの減少を防ぐために作成された、依代ですが――イオノファラーが拡張した特別な機能が多数、確認されています)」
特別な機能だとぉ?
女将さんとも――「ひゃ――あぁ?」――目が合った!
此方は、まだ余裕がある。
流石は現役の――魔導騎士団総大将さまだぜ!
工房長と女将さんは、迅雷が何とか出来るか?
「(はい。強化服特撃型改を使用します)」
よし使え。其方は任せるが――
ヴヴッ――ポキュリンと空中に現れる、淡い青色と、紫がかった紅色。
二匹の強化服特撃型改が、空中をジタバタと泳ぎ始める。
「(――特別な機能てぇのわぁ、どうことだぜ?)」
どういうことだぜ?
ふぉん♪
『>>女神御神体の隠された機能>
①私、迅雷の収納魔法に御神体の体を格納。
ソレを利用した、事実上の転移魔法。
②格納された御神体のアイコンで、
収納魔法内部の食材を食せる(但し味はしない)。
③短期的な枝分かれ可能。
※茅野姫による、仮想化女神御神体|(視認不可)生成。
NEW>④大量発生した〝超特選マドゥラーキノコ【区域】〟を、無限に格納。』
「(五百乃大角の、要らん芸のことか!)」
飯を食うことも、芸の一つだ――ふぅぃ、まったく。
「ブモッ――ボファッ!? ブモゴ――ファヴォ――ファァァァァ――ァァァァァッ――――!」
おれが溜息を一つ吐いたら何でか、大人しかった巨大猪が息を吹き返した!
先と変わらず、凄まじい咆哮。
「ブモゴ――――――!」
これで、二鳴き目――三回鳴かれりゃ、また茸で埋もれちまう。
「(五百乃大角ぁ、斑茸が出たらぁ格納してくれやぁ!)」
ヴッ――――ぶわさささささぁぁぁぁっ!
迅雷式隠れ蓑を身に纏う――風に乗れば、落ちずに済むし――
何より、巨大猪の上空を――確保出来る。
「(それわぁ無理なぁ、ご相談わよ?)」
「(何でだぁ!?)」
風をつかんだおれや、杖や箒に乗る二人を置いて――
次第に落ちていく、二人を抱えた特撃型改たちと、ソレを見守る迅雷。
そんな様子に映り込む『('_')¹』が、此方を見上げ首を傾げた。
「(あたくしさまの収納魔法具わぁ、中身を空っぽにしないと、次が入れられませんので、悪し辛酢ぅ――!)」
開いた口が塞がらん。如何して此奴はこうも――儘ならんのか!
「(シガミー、活路が開けたことに注目しては? あと一鳴き半の猶予があります)」
おれは念話中でも良く動く目を、まだとおい地面へ向ける。
巨大猪の目は見えんが……まるで諦めてやがらねぇ!
最後の力を振り絞り――力の限りに叫びやがる!
「(ウカカカカカカッ――そうだぜ♪)」
エリアボスってなぁ、御山の大将っだろ?
そうでなくてわぁ、道理が通らん。
「(はい。ガムラン町のエリアボスであるリカルル・リ・コントゥルを討伐したので、ガムラン町エリアにおけるボスホルダーは、暫定的にシガミーのままです)」
ふぉん♪
『>>相手にとって、不足は無いかと』
よせやぃ! おれぁ、魔物じゃねぇぞぉ!?
それを言うなら狐耳の姫さんも、ああ見えて実わぁ魔物ではない。
辺境伯名代の方わぁ、歴とした……化け狐だがなぁ。
「――ゴファヴォ――ファァァァァ――ァァァァァッ――――!」
変異種と化す程に丸々と肥え太った、巨大猪。
大森林エリアボス、〝殲滅のビッグモクブート〟。
見れば横たわる巨体の周り――
魔弾タイフーンに砕かれた巨石が、散乱してる。
地に降り立ち、そのままバラバラに逃げていく特撃型改たち。
〝血縁僧〟を拾いに行くのか、迅雷が二匹から離れたとき――
『▼▼▼』『▼▼▼』『▼▼▼』『▼▼▼』
『▼▼▼』『▼▼▼』『▼▼▼』『▼▼▼』
動体検知が何かを、捉えていく。
「「「「「「「「プギギギッィ、ブモォォォォォォォッォォォォォォッ!!」」」」」」」」
巨石の欠片をバガンと割り、中から蠢き現れたのは――
無数の瓜坊たちだった。
工房長が手近な瓜坊を、鉄塊のような金槌で打ちつけ――
女将さんが逃げる瓜坊へ、雷撃を迸らせる!
二人とも特撃型改の操作を、忘れてねぇようだな。
尤も、先を行く奴が居ねぇから、何処かで止まっちまうかもしれんがなぁ。
――――――――ォォォォォォォォオォォゥゥゥゥン!
辺りが騒然とする中、おれは上空をグルンと一回りした。
迅雷式隠れ蓑に仕込んだ機械腕が、姿勢制御もやってくれるから――
心持を、直下の敵に集中出来る。
周囲の喧騒は消え――ォォン。
ふむ、この間合い。
巨大猪の首までの距離と、太首の端までの長さが――
ガムラン町の新ギルド支部の土台を掘り抜いて――
土壁から反対側の土壁に、放った〝滅の太刀〟。
丁度、あれくらいなのだ。
ヴッ――錫杖を取り出し、その頭をつかむ。
ぎゃりりりぃぃぃぃぃん♪
鳴る鉄輪。
技の名は無ぇがぁ――さしずめ〝滅〟の太刀。
「(シガミーのバイタルに、〝滅の太刀〟波形を検出!)
ふぉん♪
『>>【滅反応】を検出。動作半径に注意してください』
しゅっかぁ――――ん♪
しずかな剣筋。
修行のさなか一度きり、目のまえを通りかかった鳥を切った。
その境地――この体現する体なら、無我も自我もねぇ。
立ち所に何度でも、繰り出せる。
何なら強化服を着た迅雷にも使えるように、〝滅モード化〟してあるくらいだ。
――――――かちん!
おさめた刀。
巨大猪の――大 / 首。
ズ――レる視――界。
巨体が、縦一文字に斬りつけられ――――地を、空を、揺らした!
どごごごごごごごごずずずずずずずずずずずずずずずずががががっががががががががががっがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっどごごごごずずずぅむむん!
轟音。それ自体が破壊力を持つ、埒外の理。
「シガみー、自重とイう言葉ヲ覚えル必要があるのでワ――?」
やかましぃと言いたいところだが、上空からの振り下ろしの滅の太刀。
ボッゴゴゴゴォォォォッ――――ガァァッァァァァァァァァンッ!!!!!!!!!!
沈む大地。あと何でか――空が裂けた。
流れる雲まで、真っ二つの有様!
こいつぁ駄目だ。
人界を塵芥と化す、滅びの太刀だぜ!
ヒュヒュヒュン――ポギュ、ザクッ!
吹っ飛んだ猪の剛毛が、虎型の足を貫いた!
「痛っってぇぇ――――ニャァ!?」
つい、咄嗟に脚で防いじまった!
ヴォォゥン♪
表示される虎型と、中の人の形。
赤く点滅するのは、虎型の右足。
毛は、おれの足の甲を、突き抜けていた。
虎型用の鉄下駄を作るぞ――やることリストに入れとけ!
おれの腕よか太い巨大猪の毛が刺されば、普通に死んじまう。
本来、強化服が破れることなど、早々ない。
ソレだけ、この巨大猪は、やばい相手だったってことだ。
延髄の剛毛を粗方刈り取られた巨大猪に、スッと走る縦の赤い筋。
血が微かに滴ってるが、命を絶つには程とおい!
さっき太首を、斬ったように見えたんだが!?
地面は目の前、このまま踏むと――
剛毛が足の傷を、広げちまう。
「(ぐぎぎぎっ――痛ってぇ――――なっ!!!!)」
体を屈め足の裏から――ズボッ!
太杭のようなソレを、引っこ抜いた。
「ヴヴヴヴヴヴッ――――!?」
羽音のような、蜂女の声。
ふぉん♪
『ルガレイニア>シガミー、いま蘇生薬を」
蜂女の、そんな一行表示を視線で消した。
「要らん! ったくよぉぉぉぉっ――――修験の技っ、よぉぉぉぉぉぉぉっくっ、見ぃとぉけぇよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!」
虎型は地に降り立ち、虎型をぎゅるりと捻る。
「迅雷、虎型の手足をリフトアップしろ!――ニャァ♪」
〝血縁僧〟を回収し、戻ってきた相棒に――
おれは蘇生薬ではない、用事を言いつける。
ヴッ――さっき一瞬見えた〝やることリスト〟の中の項目。
其奴を試すことにした。
ソレは前に作った、〝多重詠唱可能になる鉢巻きの運用について〟。
取り出した鉢巻きを、ぽきゅっと猫頭に巻いた!
「「「「OoOooOOuNNnN!!!!!!!!!!!」」」」
唱えるは真言。
放つは、瀑布火炎の術に非ず。
本式でも、術でも、技ですらねぇ。
斬りつけた刀や、放った術。
その終わりに唱えると、どういう訳だか――威力が上がる。
「(「こらっ、バカシガミー! 〝滅せよ禁止〟わ――ょ!?」)」
ふぉん♪
『イオノ2>こらっ、バカシガミー! 〝滅せよ禁止〟わよ」
うーるっせぇー、黙ってろやぁぁぁぁぁっ!!!!
上体を捻り、伸ばした膝下を力任せに、元に戻せば――
虎型の猫足が、綺麗な真円を描く。
猫の……いや虎の魔物風の――
ちょっと不気味なほどに足が長い、強化服シシガニャン。
おれが見上げた正面、巨大猪の首の傷。
『 ◇
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◇』
群がる無数の、ロックオンカーソル。
それは、まるで――
田畑を食い荒らす虫や、飢えた魚の群れのよう。
こいつぁ、おれの視線だけ……じゃねぇぞぉ――――ウカカカカッ♪
「滅――せ――よ――!――ニャァ♪」
ゴガァ――
刀印を結ぶと、どがんと爆ぜた!
ふわぁり――気がとおくなる。
間違いなく、何かを断ち斬った手応えはあった。
何かは為され、おれの精根が尽き果てる。
猪の断末魔が、聞こえる気もするし――
蜂女の叫ぶ声が、聞こえる気もする。
七の型を放ったとき同様――
次に目覚めたのは、まるで別の場所だった。




