728:吠えろ魔銃オルタネーター、VR対応カップ麺と魔導馬車
「ルリーロちゃぁーん、聞ぃこぉえぇるぅー?」
ザッ――ひゅっぼっごわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ――――!!
ッィィィィィィィィィンッ――――光も音も無く、又、空撮映像の一部が通信途絶した!
耳栓の信号は、ちゃんと奥方さまの耳から届いてるけど――
五百乃大角の声は、あんまり届いてねぇな。
「(どーすんだぜ、五百乃大角さまよぉ――ぅ!?)」
『▼▼▼』、『▼▼▼』、『▼▼▼』――
何処から湧いたのか、東側の森を映し出す映像の端に――
赤く小さな蟹が、縁取られた。
ふぉん♪
「ザザヒュウッ――シガミー、敵が増えたよ?」
ふぉん♪
『ルガレイニア>シガミー、まだ小蟹が居るようです』
空撮映像を見た、鬼娘と蜂女が、即座に反応するが――
「あんなのは、大蟹の周りを回るニゲルに、任せとけば良い――ニャァ♪」。
言う側から、小蟹にくっついた動体検知が――
――『▽』、『▽』、『▽』と消えていく。
「ザザザザッ――ぐぅわぉうるるるるっ――――!?」
ザッ――ひゅっぼっごわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ――――!!
妖弧ルリーロさまは、小蟹には目もくれず――
尻尾を揺らして、辺り一面を蒼炎で煙らせている。
あの炎は、人こそ燃やさんが――
長く炙られていて、平気な物でもねぇ。
「(やぃ飯神さまよ、今こそ出番だ! 頼むから、その知恵を貸してくれやぁ!)」
それとも、いくらお前さまでも、大森林の反対側に居る妖弧の手綱は握れんかぁ?
「(ふふん、簡単わよ――飯には飯を。あたくしさまにわぁ――すべからく、おかわりおぉ♪)」
おれの目の前、轟雷を着たことで増設された〝積層モニタ〟の奥から、必死に手前に駆けてくるのは――
逆さ鏡餅の小さい奴|(梅干し大)。
丸茸か根菜のような形。
其奴が抱えているのは――
「どうした、その丼わぁ……何だぜ?」
矢鱈と大きな丼。
実際の大きさは普通の大きさの丼鉢、程度なんだろうが――
梅干しアイコンが、丼アイコンを抱えた今の状態じゃ、まるで風呂釜のようだぜ。
『復刻版 囙圑囮圄(ヨフカゴ)食品/おっきいお揚げが入った~関西風きつねうどん』
なーんて蓋に書かれた文字や、熱々のお揚げを見るに……食い物らしいが。
ふぉん♪
『>>パッケージから察するに、即席の〝カップうどん〟と思われ』
うん、そうだな。
ふぉん♪
『ヒント>カップうどん/カップ麺の一種。耐熱容器に入った乾燥麺に、熱湯を注いで3分程度で食べられる即席うどんのこと。正式名称は〝即席カップめん〟で、内容物により、カップラーメン、カップうどん、カップ焼きそばなどとも呼ばれる【地球大百科事典】』
ふむ、なるほど。
お湯を入れて食えるようになる仕組みは、〝魔法粥〟と同じだが――
蓋に描かれた絵を見るに――相当、凝った飯だな?
「(そうわよ~。手順を間違えたら、食べられないわよぅ)}
手にした軽そうな丼を――パシャリッ♪
「うをっ、まぶっしいだろぉがぁ!!――ニャァ♪」
光らせた目で照らす、美の女神御神体。
ふぉふぉふぉふぉん♪
『【調理方法】お湯の目安は430㎖です。
①フタを矢印まではがし、粉末スープ、液体スープ、かやくを取り出す。
②かやくを麺の上にあけ、熱湯を内側の線まで注ぐ。
③フタをして、液体スープをフタの上で温める。
④5分後、粉末スープ、液体スープを加え、よくかきまぜる。
⑤お好みで七味唐辛子をかけて、お召し上がり下さい。』
凝った飯の画像が、何枚も切り取られ――画面の外へ消えていく。
「ルリーロちゃぁん♪ 荒ぶる怒りを静めてくれるならぁ、この秘蔵の魔法の〝きつねうどん〟おぉ――特っ別っにっ、進呈してもっ良いのだけれどぉ――?」
ふぉん♪
『イオノ>じつわ、仕事で研究室に詰めてたときに、カップ麺を毎日食べてたら、VR対応カップ麺の引き換えコードが、山のように当たっちゃってたのを、ついさっき思い出したわよ♪』
わからんが、余り物ってことだな?
奥方さまわぁ仮にも、辺境伯の名代さまだぜ。
残り飯に釣られるような、タマじゃねぇと思うんだが。
「ザザザッ――ぐぅわぉうるるるるっ――――お揚げ……わぁ、どんなのぉ?」
んぅ?
「もちろん、おっきくてジューシーなのがぁ、どーんっと乗ってるわよん♪」
どうやら、余り物の画像を見て、正気に戻ったらしいぜ。
そういやぁ、祭りの時に作ってやった〝きつねうどん〟を――
喜んでくれてたっけな。
ザヒュゥゥ――――ぅごごごごぉうぼぼぼぼぼぼわぅ♪
狐火がシュルシュルと――湧き出たのとは逆向きに、戻っていく。
すっかり小さくなった蒼炎が――――ごぉぅわぁぁ、しゅるぽん♪
辺境伯名代の口に、吸い込まれた。
おれは蜂女の様子を覗う。
今の狐火の動きは、彼女が彼女を下したときの――「炎を!」だ。
軽く開かれ、又すぐ閉じられる蜂の口。
「(類推になりますが、〝狐火封じを、自ら行える〟ということは――)」
ああ多分、リオの技は奥方さまには、通じねぇんじゃねぇかと思う。
§
「ザザザザヒュゥゥッ――魔導馬車5番改。左前方洞窟蟹へ、〝かえんのたま〟放てぇーらららぁぁん!」
ドコッダカッ、ドコドコッ、ダカダカッ、ドコカカカッ――――!!
王女殿下が操る、四つ足の馬車。
その側面にある――『〔'□'〕』――顔のような作り。
その口の部分から突き出た、やや太めの鉄管。
その穴の開いた先端から、吹き出すのは――
ザザザッ――ぼごぉうわぁぁっ♪
狐火とは違い、赤くなびく、燃えさかる炎が――
蟹の足下に生える、草や茂みを燃やしていく。
「ザッ――炎曲の苗木――!」
ザザザッ――ぷすぷすん、ひゅぅぅぅう♪
炎は燻り、白煙と化す。
ザザザッ――ニョキニョキバキバキョッ!
白煙は木の芽を、息吹かせ――
良く撓る太蔓草へと、変貌する。
ふぉふぉん♪
『>>理論上はニゲル青年の一振りにも、二度までなら耐えます』
そりゃぁ、凄ぇ!
見た目は焼け焦げた蔓草でしかないが、ソレは――
ぎちりと編み込まれた、炭素製の強靱なワイヤーなのだ。
魔銃と五百乃大角の組み合わせは、強すぎてやばかったが。
魔導馬車5番改と炎曲の苗木の組み合わせも、尋常じゃぁねぇぞぉ!
「ザザザヒュゥ――ふふん、娘よ♪ 覚えておくと良い。大蟹がどれほど魔術耐性に優れていようと、動けなければ意味などないのですよ♪」
ドガガガガガッ、ギャリリリリッ――――ビギギギギィィィィィィィンッ♪
「(ミギアーフ卿の縫い針のような特殊な魔法杖も、力学的に完璧な仕事をしています)」
針刺し男ニードラーの二つ名を持つ、フォチャカの父上殿。
彼の人となりは普段、とても巫山戯ていて――
とうてい凄腕の冒険者には、見えないが。
昔なじみであるらしい、辺境伯名代さまの前でだけは、全盛期の実力を取り戻すのだ。
「ココォン――リカルルちゃんの分とぉ、辺境伯さまの分を合わせてぇ……全部で三つくれるならぁ、荒ぶる怒りがぁ静まりぃまぁるぅかもぉしーれーまーせーんーねぇー♪」
ふぅい。やっと正気に戻った様子の、辺境伯名代は――
空撮映像へ向かい、3本指を立てて見せるのであった。




