727:吠えろ魔銃オルタネーター、狐蟹合戦
「ザザヒュザッ――いま、どちらさんかぁー、化け狸ってぇ…………言わはりましたかいなぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁっぁぁぁっ!?!?!?!?」
ザッ――ひゅっぼっごわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ――――!!
東側の様子を伝える空撮映像が、阿鼻叫喚の様相を呈した。
辺境伯名代であるコントゥル夫人は、前世の因縁があるらしくて――
〝狸〟をマジで、超絶に嫌ってる。
この惑星ヒースに、今のところ〝狸〟は居ない。
それでも、「たぬき」と言う言葉を耳にしただけでも――
ああして辺り一面を、鬼火の海にしちまう。
「(おい、おれぁ今……声に出してたか?)」
考え事をしてると、ぽろりと口から出ないとも限らん。
「(いいえ。虎型の内部マイクに音声入力は有りませんでした。轟雷の外部音声出力も同様です)」
だーよーなぁ。
「まてまてぇーぃ! 誰も狸だなんて、言っとらんぞぉぉぉぉぉぉ!――ニャァ♪」
我を忘れると奥方さまは、京都訛りが出て――
聞く耳を持たなくなる。
「ザザザヒュッ――ほらぁっ、間ぁ違ぃあらしまへん! いま〝狸〟てぇー、聞ぃこぉえぇーまぁしぃたぁーえぇぇえぇええぇぇぇえぇえっ――――」
ザッ――ひゅっぼっごわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ――――!!
ザッ――ひゅっぼっごわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ――――!!
ザッ――ひゅっぼっごわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ――――!!
実に恐ろしきわぁ動物霊の――野生の勘と、執着か。
もう話が、通じん。
「うふふふっ、くすくすくす、クツクツクツクツ――――コォON!」
ザザザッ――ぎちり――――――――シュッボゥ!
ザザザッ――ぼっごごごごごごおぉぉぉぉうわぁぁぁ――――キュキュゥゥンッ♪
「(あーあー、あーあーっ!)」
奥方さまが、真言唱えやがったぞぉっ!?
空撮映像を分断する、一筋の光!
いきなり狐火・仙花を、放つ奴がいるかぁ!
ザザザッ――どずずぅぅん、どばたぁん、ごごん、がろららっ!
辺り一面の森の木が切り払われ、薙ぎ倒されていく!
こっち側同様、見晴らしが良くなり――
変異種相手に立ち回るにゃ、打って付けだがよぉ!
「ザザヒュッ――ギュチィッ!?」
大蟹は巨大鋏を振り回し――ヴァヂヴァヂバチヴァヂィッ――――!!
大森林の堅木を雑草のように切り払った、光の筋を――防ぎやがった!
「ザッ――っきゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああぁぁぁっ――――――――!?!?」
必然、巨大鋏に挟まれたままの、悪漢……もとい、ガムラン最凶受付嬢を――
高出力のコヒーレント鬼火が、掠め――ザザヒュッ――キュドドゴゴゴゴゴォォォンッ!!!
巨大鋏に弾かれた光線が、とおくの山の稜線を変える。
家宝の甲冑を着てるし、〝追憶の結び紐〟だって有るだろうし。
そうそう死にはせん、死にはせんがぁ――
「(こんな時に、ニゲルわぁ、何をやっとるんだぁ!)」
そんなおれの心の声が、何処かの誰かに届いた――のかもしれない。
ザザザッ――ボッゴガガァァン!
不意に崩れ、弾け飛ぶ地面。
ザッ――ガサガサザザザッ――地の底から湧くのは、大きな蟹。
ザッヒュ――パタパタパタタタタッ――――
回収される村長箱から、飛び出してきたのは――黒い人影。
「ザヒュッ――リカルルッ――――――――――――!?!?!?」
人影は辺りを見渡すと、一目散に――巨大蟹へ肉薄する!
ソレはガムラン辺境伯令嬢リカルルへ、身分違いの恋心を拗らせる――
日の本生まれ……日の本死亡の――青年だった。
「ザザヒュザ――ッチィィィィィィィッェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェッィィィィィィィィィィィィィィィィィィッィィィィィッ!!!!!!!!!!」
シュタタタタタンッ、トタン、ギュラララッ――――ストトトトトォォンッ!
地面の下から出てきたと思ったら、巨大蟹の周りを、旋回し続けてやがる。
何をやっとるんだ、ニゲルの野郎わぁ?
ふぉん♪
『>>恐らく、超重量をぶつけて、蟹の鋏を閉じてしまうことを恐れていると思われます』
そういうことか。ニゲルの持つ〝安物の聖剣〟は、ドワーフ族の膂力を以てしても、扱かうのが困難なほどに――重い。
あの重さを鋏に打ち込んだら、いくらリカルルの甲冑がコントゥル家の家宝であっても――
万が一のことも、起こりえる。
「ザザザザッ――ケェーッタケタケタケタケタタァァァァァァァァァッ!」
そして天を仰ぎ見た辺境伯名代と、映像越しに目が合った!
ッィィィィィィィィィンッ――――光も音も無く、空撮映像の一部が通信途絶する!
ちっ、有りっ丈の泥音を、大森林東端へ飛ばしてるが――
まだまだ数が足りてねぇ、これ以上壊されたら――
マジでやばいだろぉがぁ!?
「(はい。追加の高速型ドローン32機が現地へ到着するまで、約1時間半。その間、空撮映像が途切れてしまうことは、非常に由々しき事態です)」
全くっ、野生の勘にも困ったもんだなっ!!!
「(せめて本物の狸が、惑星ヒースに居ねぇことを願うぜ!」
「ザザッザッ――コココココォォォォォォオッォンッ――ひゅっしゅふっしゅるるるるるっぅぅぅぅぅぅっ!!!!!!!!!!」
尻尾を振り回す、四つ足の奥方さま。
暇が出来たら本格的に、護摩壇焚いて祈祷するぞ。
「狸がこの現世に、居ませんように」ってなぁぁぁぁっ!
ザッ――ひゅっぼっごわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ――――!!
ザッ――ひゅっぼっごわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ――――!!
ザッ――ひゅっぼっごわわわわわわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁんっ――――!!
しかしこりゃひょっとしたら――アレか?
変異種が湧くくらいの、龍脈の乱れだ。
奥方さまもぉそいつに、当てられたんじゃねぇかぁ?
「(はい。竜穴と化した魔力溜り、は、人の精神にも影響を与えます)」
そりゃちと、急がんと!
おくびにも出せないが、恐らくこの現世で――
一番やばいのは、奥方さまだ。
妖狐が変異種になんて、ことになったら――
本気のおれでも、絶対に止められん。
「ザザヒュッ――ココ、コォーン!?」
大鋏に挟まれた、まるで小海老のような狐耳娘。
「ザヒュゥゥッ――んにゃわぱっ!?」
蟹脚に襟首を踏まれ藻掻く、海藻ゴミのような大申女。
本来なら悪名高い、ご令嬢たちが二人で飛び掛かりゃ――
化け狐を押さえ込んで、正気に戻すくらいのことわぁ――
いくらでも、出来ただろぉがぁ。
「ザザザザッ――ぐぅわぉうるるるるっ――――!!」
巨大蟹を見つめる、四つ足。
「ザザヒュゥ――ギュチギュチ、ぶくぶくぶくぶく?」
四つ足を見つめる、巨大蟹。
五穀豊穣の神の眷属である、化け狐さまなら、全く以て余裕で蹴散らすだろうが――
あのままだと、周りの連中ごと、蹴散らしかねん。
近いうちに奥方さまの狸対策を考えんと、遠因で現世が滅ぶぜ。
ふぉん♪
『>>ではTODOリストへ、入れておきましょう』
「(やい、飯神さまやい! 超絶旨ぇ猪鍋を食わせてやるからぁ――どうにかしてみせろやぁっ!)」
そのための、五百乃大角だぁろぉがぁ!
そうだろぉがぁ――――!!




