703:恐竜モドキ風神班、トッカータ大陸へ上陸
おれが風神の尻尾に、しがみ付いて暫くした頃。
細長い通路が、上り坂になった。
ある程度綺麗に均されていた洞窟は、其処までで――
この先は自然の洞窟が、剥き出しになっている。
「うふうふうふふふっ、がんばってフージーンちゃん――ニャァ♪」
恐竜モドキの太首に、抱きつく虎型。
どたどた、どたたっ――!
流石の風神も、登り坂に速度を緩める。
「最初から随分と打ち解けてるが、普通、風神モドキを見たら腰を抜かすだろうによぉ――ニャァ♪」
こんな〝隠り世から来たような〟風神相手に――よぉくも平気だぜ。
「だって背中に、乗せてくれたものっ♪――ニャァ♪」
天ぷら号にも、大喜びで乗ってたな。
「グゲゲゲゲッ♪」
どたどた、どたたっ――!
おにぎりを仲間だと思ったから、虎型を着たレイダのことも、そう思ったんだろう。
虎型ひ号を振り落としもせず、上手いこと乗せてくれている。
ふぉん♪
『>>レイダは乗馬や使役系のスキルは所持していないので、生来の動物好きが功を奏していると思われます』
「そうだった。風神は恐ろしい見た目に反して、頭が良いんだったな――ニャァ♪」
風神の尻尾が付け根の方から、ぎゅるるとうねり――
おれは、すぽるーんと、その場に落とされた。
「いや、まてまて――今のは別に、悪口じゃなくてだな?――ニャァ♪」
ぐるん、ぽきゅごむん――スタタァン♪
あぶねぇ!
登ってきた坂を、転がり落ちるところだったぜ。
「ねぇーちょっと! この先、狭くなってるからぁ、風神の背に乗れるのわぁ――ここまでわよん♪」
鎌首をもたげる風神。
その兜がキュゥィィィッと、巨大な一つ目でおれを見た。
虎型ひ号を降ろしてやり、風神の首輪の鎖をつかませてやった。
迅雷がついてるから、おれたちの後をついて洞窟を登ることくらい出来るだろうが、念のためだ。
そこそこ急になってきた、この坂を転げ落ちると――
戻ってくるのに時間が、掛かりそうだからな。
§
「あんたたちー、大森林にぃー、出ぇるぅわぁよぉーん!」
風神の後ろ頭に鎮座した、女神御神体さまが――
そう宣うと――カッ!
「まぶしぃ!――ニャァ♪」
虎型ひ号が目を、両手で押さえ――素っ転んだ!
「げくしょーぃ!」
風神が、くしゃみをして――素っ転び!
「ひぇっくしょほーぃ!――ニャァ♪」
おれもくしゃみをし、ぽきゅごろむんと――素っ転んだ。
洞窟を出たら、鬱蒼とした森。
それでも日の光が、キラキラと差しこんでいる。
それにはとても、安心した。
此処は大陸最北端。そうだぜ。
やっとのことで、大森林に戻ってきたのだぜ。
§
ズドドドドドドドゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォッ――――――――――――!!!」
それはそこそこに、圧巻だった。
「滝だな――ニャァ♪」「滝だね――ニャァ♪」「そうわね♪」
ロコロ村へ戻る途中、急に開けた場所に出た。
岩場に出来た湖からは、微かに湯気が浮かんでいる。
「星神さまが見たら、計算魔法具を弾き出しそうだぜ?」
そこには、それほどの高さはないものの――
立派な滝が、流れ込んでいた。
「温泉入浴八町分!――ニャァ♪」
ぷぴぽぽーん♪
「ハッチ開放します、ハッチ開放します」
五百乃大角の声が聞こえ――
ぶっつん――画面が消えて、真っ暗になり――
ぷっしゅしゅしゅぅぅぅぅっ――――ごっぱぁ♪
おおきな頭防具が、もちあがる。
目のまえが開けると、同じく頭装備を後ろへ跳ね上げた――
虎型ひ号と目が合った。
「ちと温いが、まるで温泉だな」
湖の水温は――『水面温度/38℃』
いつも生活魔法で湧かす湯が『45℃』だから、このままだと物足りねぇが。
この先暑くなる時期には、丁度良いかもしれん――ウカカッ♪
「温泉……お風呂!? 入る♪」
跳ねる虎型レイダ。
「入るったってなぁ」
おれは辺りを見渡した。
「水質チェック終了ぉーん。ガムラン町のぉ炭酸泉ほどにわぁ、美・味・し・く・わぁないけどぉ、安全基準わ満たしてるわよん♪」
ニゲルが2号店で出してた、泡が出る飲み物だな。
あれが此処で汲めるなら、料理の幅も増やせる所だったが。
いや……水が豊富なガムランの源泉は、尽きることがねぇんだし――
いやまて……最新の収納魔法具は、水だってしまえる訳だし――
それならいっそのこと……お猫さまに相談して、配管を通せりゃぁ――
ふぉん♪
『イオノ>>迅雷、水源と水質の継続調査を、自動化出来るかしらん?』
ふぉん♪
『>>可能です。索敵ドローンの母艦として、測量基地局を作成。そのために必要なSDKチップは、二対で四個。現在の残数は164個です』
ふぉん♪
『イオノ>>当初の、とんでもない数からみれば大分減っちゃったけど、それでも大森林に来てみて大正解だったわねぇん♪』
164個……二個で一つ分だからぁ、82個か。
確かに、あれだけあった事を考えると――
心許なくなっちまったが――
元々、ミャッドから一個1500パケタで買ったほど――
猪蟹屋一味にとっては、貴重な物だ。
これだけ有るのだ――これ以上の成果はねぇ。
ふぉふぉん♪
『廃棄された古代の女神像から回収した謎の遺物
品代として――1,500パケタ』
謎の遺物――発掘魔法具。
この価値を知られたら、大森林勢と戦になったりしねぇか?
「(それに関しては、問題ないかと)」
どーいう?
「(ケンカになる前に、123,000パケタくらい払っちゃえば良いでしょ♪)」
色々と、物入り続きで、金は無ぇだろうが。
ふぉん♪
『イオノ>>そー言うときの、カヤノヒメちゃんじゃないのさ』
やめろ。
どうせミャッドに聞かれたら、知られちまう。
正直に言って猪蟹屋で出来ることをやって――
123,000パケタ以上の儲けを、大森林に齎せば良いだけの話だろ。
そもそもが――おにぎりは82匹……83匹も要らん。
直ぐ使う訳でもねぇしな。
「グゲゲッゲッ♪」
ばっちゃばっちゃ――ドブゥン♪
温い湖に飛び込む風神。
ふぉん♪
『>>半径3㎞内に、中型以上の魔物は確認出来ません』
よし。なら此処で、一休みするか。
次いで虎型ひ号も湖へ――ぽぎゅーん!
ちょっとした岩に登って、勢いを付けたのが拙かった。
「っきゃぁぁっぁぁっ――――!?」
強化服は、水濡れに強い――言ってみりゃ袋だ。
沈めようとしても、早々沈む物ではない。
ぼぎゅぴゅぅーん♪
とんでもねぇ勢いで飛んでいく虎型ひ号を、虎型ふ号は必死に追いかけた。




