700:料理番の本懐、モフモ村島エリアボスVSネネルド村エリアボス
「ギギャギチ!? ぶくぶくぶくぶく!?」
蟹の動きが、止まったぞ?
目を突き出し、泡を盛大に吐き始めた。
「(本当に蛸が苦手らしいな! しかし、どうやって……あんな小穴を通したぁ?)」
お猫さまならいざ知らず、蛸之助は図体が違いすぎるだろうが?
「(もう忘れちゃった? ネネルド村の皆と一緒に見たでしょ?)」
ヴォヴォヴォォォゥン?
「(何をだ?)」
飛んで来た浮かぶ球を、見やる。
「パパパパッパパパパッパパパパパァァ――――♪」
なんだこの御囃子はっ!?
ぼぉぉぉぉぉぉぉっ――――ごぉぉうわぁっ♪
倉庫前に突如あらわれたのは、巨大画面。
「美の女神ちゃんPRESENTS。2218年/小里原アビオニクス綱疋出張所映像分室作成の〝ナナダモン発見!? 驚異の蛸ニズムSP〟を放送しまぁす。みんな見てぇーねぇー♪」
あー、ネネルド村で見たな。
ヴォヴォヴォヴォォォンッ♪
窓から飛び出してきた、浮かぶ棒。
ソレに機械腕で吊される、女神御神体。
どうやら画面の両端、空中に浮かんだ二つの『(ΘΔΘ)』から絵と音が出ているらしい。
自分が乗る球を出せない所を見ると、女神像に開けた〝転移窓|(?)〟を維持するのに最低でも2個、要るのだろう。
番組の中で蛸が〝小さな口の壺に、大きな体を潜り込ませた〟所で――
脚だけ見えていた蛸之助が、倉庫の窓から――
「ぶぎゅるるるるるるるうっ♪」
ぶるるんと、巨大な頭を現した。
そうだな。蛸之助は狭い所に、潜り込めるんだった。
§
わ、いわいわ、いわ、いわい、わ、い、わいわ、いわ、わわい。
巨大蛸・蛸之助の異形さに、恐れ戦き逃げ出した村人たち。
がや、がやが、や、がや、が、やが、や、がやがやが、やや、や。
その喧騒が、じりじりと戻ってきた。
あの映像が、美の女神が映し出した見世物で――
その中に居る蛸之助は、猪蟹屋の仲間だとわかったのだろう。
家の窓や戸口から身を乗り出し、食い入るように見つめている。
「ぶっぎゅりゅりゅりゅりゅりゅぅ!」
ぶぎゅばぁぴゃーずざざざぁ!
蛸の尖った口器くちから吐き出される、大量の白砂。
岩塩が好物の筈の大蟹が、寄ってくるかと思ったが――
大蟹は姿を消した。
そして――ゴギャドガガガガァァァァンッ!!
自分が掘り空けた、大きめの穴とは別の――
小さな穴に逃げ込もうとして、激突する大蟹。
〝天敵〟てのは、本当だったらしい。
カカッ――相当に、慌ててやがる。
付け込むようで、気も引けるがぁ――
ふぉん♪
『ヒント>>蛸/八足の軟体動物。
軟体動物門頭足綱鞘形亜綱八腕形上目タコ目。
学名:Octopoda。
足の付け根が頭部であり、頭部に見える部分は胴部である。
酢で締めると柔らかくなり、とても美味。【地球大百科事典】』
折角の蛸の威だぜ、使わせて貰うが――
ふぉん♪
『シガミー>>風神はよくも、蛸之助に蹴り掛からなかったな?』
ふぉん♪
『>>おにぎりが間に入り、腕の動きと言葉で、ひと言二言、言葉を交わしました』
大方の生きものの言葉は、おにぎりが居りゃ通じそうだな。
もう一匹くらいなら……居ても良いかもしれんなぁ!
「ウカカカカッ――――!!!」
おれは太刀を構え、再び大蟹へと挑む。
ガガンガガンッ――――!
岩壁を登っていく!!!
鉄下駄の一本歯、その歯先には、天井にぶら下がっても落ちない――
物の形が、塗ってある。
「ギュギッチッ――ぶくぶくぶく?」
青い顔をした大蟹が、「あれ? 何処行った?」と――おれを見失う。
「うりゃぁぁっ――――!!」
両足を揃え、腰を捻る。
下駄の歯は、前後には楔のように食い込むが――
横向きには、まるで氷上がごとく――
何処までも、滑っていくのだ。
駆け上がったときの、勢いのまま――
天井を滑る――ズシャァァァァアアッ!!
「ギギギギギャギチチィッ――!」
青蟹が、こっちを向いたが――遅ぇ!
おれは上体を、地に引かれるまま伸ばし――
腰を落とした。
ギュルルルルッ――ズッシャァァァァァァァッ!!!
回る景色。倒の洞窟が流れていく。
青いのと黄緑色のが、頭上に来た所で――
っていうかぁ、おにぎり!
いつの間に駆け込んで、来やがった!?
邪魔だぁ、退けやぁ!
ガァンと、鉄下駄を打ち鳴らす!
おれは倒に落ち――太刀を抜いた。
シュッカァァァァァン――――♪
切っ先は複雑に、弧を描き――
青い蟹鋏を、すり抜け――
「ギュギギィギヒッ――――!!!」
甲羅の半分まで、深々と刃を突き立てた。
「(こらっ、天然の御出汁さまが、こぼれちゃうじゃないわよ!)」
うるせぇ。
ギャギッ――くっ!?
食い込んだ太刀が、抜けん。
おれは手を放し、着地する。
勢い余った体が、くるくるくるるるっ!
ドガン――ズザザザザァァッ!
鉄下駄の歯で地を割り、無理矢理止めたがぁ――
おれは、へにゃりと倒れ込む。
くそう――目が回っちま……ふにゃぁ。
「(か、勘弁しろやぁ。旨い飯もぉ、命あってのぉ、物種だろうがぁ~)」
他の蟹なら何匹か獲れたから、味噌は其方で食わせてやらぁ。
此奴の身は上手く、料理してやるからよぉ。




