70:シガミー(元破戒僧)、丘とゴーブリン石
ふんぬぉりりりゃやぁぁぁぁぁぁ――――ギャリリィン――――どんっ!
おれの声も、まわりの音も聞こえる。
錫杖が緑の壁をつらぬき――――道がひろがる――――パッキュゥゥン!
火縄を撃ったみてえな大音が、ちいさくなった。
もういっぱつ。
ヴッ――――ジャリィン♪
「――――血怨戒・襲!」
ふんぬぉりりりゃやぁぁぁぁぁぁ――――ギャリリィン――――どんっ!
音はちいさくなったが、威力はかわらずとんでもねえ。
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃがぎゃぴぎゃっ――――パッキュゥゥン!
遅れてはじく衝撃で、おもしれえくれぇに吹っとばされてく。
ふぉふぉん♪
『ゴーブリン 討伐 167匹/日
■■■■■□□□□□
159コンボ継続中!』
暗い石が飛んでくるが、ありゃ収納魔法だから怖くねえ――すぽぽぽん、しゅぽぽぽぽぽんっ♪
ふぉん♪
『>ゴーブリンストーン×90を収得』
ぎゅり、錫杖をかまえ――――どうする!?
目のまえには錫杖が、あけた道。
二回投げたから、そこそこ広ぇ、すきまができた。
そんでそのすきまに、緑色が一斉に押しよせようとしてる。
木や岩や茂みで、とおくも見づれえ。
右下をみると、赤い光で埋めつくされてる。
緑だか赤だか、ややこしいぜ。ご……なんとかは、小鬼って呼ぶぞ。
「(はい、シガミー。ゴーブリンはこれ以降、〝小鬼〟と呼称します)」
地図の下にゃ、おれが通ってきた岩場がある。
上は――たぶん丘になってる。
「(迅雷、あの丘を登りゃ、先をみわたせるか?)」
「(そうですね。丘の頂点で跳躍すれば、私の生体反応検索ならびに動体検知を最大限に発揮できます)」
なら、一気にまっすぐ駆けぬける。
小鬼もギチギチに詰まってたから、動けなかったわけで。
できたすきまに跳びこんでくるなら、へたすると懐に入りこまれかねん。
「(この錫杖は定めねぇ)――血怨戒・襲!」
ふんぬぉりりりゃやぁぁぁぁぁぁ――――ギャリリィン――――どんっ!
丘の真ん中めがけ投げる。
錫杖を追いかけるように――――ストォォォォォォン!
すぽん――まえを行く錫杖が、消えた。
ヴッ――ジャリィン!
スタァァン――ぎゅり。
着地と同時、つぎを投げて――――すすむ。
ギャリン――――血怨戒・襲!
ジャリン――スタタァァン!
ギャリン――――血怨戒・襲!
ジャリン――スタタァァン!
ギャリン――――血怨戒・襲!
ジャリン――スタン!
よし、丘の真ん中に来たぞォォォォォォォォオオオオ――――風音は聞こえねえハズなんだが、聞こえる。
――――ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃがぎゃぴぎゃっ!
――――ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃがぎゃぴぎゃっ!
――――ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃがぎゃぴぎゃっ!
――――うしろで小鬼どもがふっとんでくォォォォォォォォ――――
ォォォォォォ――――パッキュン、パッキュゥン、パッキュゥゥゥゥン!!!
遅れてはじく衝撃が、おれを追いこしていく――――ゴォォウッ!
ォォォォ――くるん、すたん!
あおられながらも、かろうじて衝撃を、横に避けた。
そして、ちからの限り――ズドォォォォォォン――――!!!
たかく跳んだ!
ふぉふぉん♪
『ゴーブリン 討伐 397匹/日
■■□□□□□□□□
389コンボ継続中!』
ひゅぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ――――高え、跳びすぎだっ!
足の下にはなにもなく、えらく遠くに小だかい丘がみえる。
三階建てのギルドよか高えぇ――岩場の切り立つ崖なら半分ぐれえか。
「(ど、どうだ、迅雷?)」
ちと怖ぇが、これなら――あたり一面みわたせる。
「(生体反応検索に――該当あり。ガムラン町の冒険者たちです)」
右下の地図のすみ。
青色のひかりが灯った。
あっちは――岩場から見て、『乾』の方角。
「(ん――?)」
地面からなにかが昇ってきた――すぽぽぽん♪
暗い石か――すぽぽぽん、すぽぽぽん、すぽぽぽん、すぽぽぽん、すぽぽぽん――――♪
「(おい、いつまで続くんだ?)」
「(一定量を超えると、のこりは省略されます)」
――しゅぽぽぽぽぽんっ♪
急に、暗い石がとぎれた。
ふぉん♪
『>ゴーブリンストーン×236を収得』
まて、ぜんぶで……何個んなった?
「(ゴーブリン石は397個になります)」
「(はぁぁ!? 一個1ヘククだから――よ、40パケタ!?)」
とんでもねえ大金じゃねーかよ!
「はい。一体につき、きっちり一個ずつ出現したことになります。あきらかに提供割合が異常です」
じゃあ、どうすりゃいーんでぃ?
そもそもしたにゃ、まだまだアイツら腐るほど居るぞ?
「(そうですね。やはり、この場は遠慮なく頂いておきましょう。『猪蟹屋』の経営にはいくらあっても、おおすぎることは――シガミー?)」
ぬぅ……どーした?
「(ひかりのたま!)」
カカッ――――ぅわ、まぶしぃっ!
だれかが灯りの魔法を、またぶち当てやがった!
びーどろが、まっ白くなった。
「(――ひかりのたまが来ます)」
だから、ぶち当たる前に言えよ!
ビュヴゥーン――――ぱっ♪
一瞬の揺れのあと、ビードロがもとに戻った。
「(くそ、冒険者の中に、とんでもなく遠くまで魔法を投げるヤツが居んぞ!)」
まるでリオレイニアなみの、手練れだ。
「(読みちがえたか?)」
こっちが、姫さんだったかもしれねえ。
ひゅろろろろっ――――そろそろ高さが落ちてきた。
迅雷の内緒話は、時が止まるわけじゃねえからな。
足もとの丘が、ちかづいてきてる。
そのまんなかに、なんか――――緑色の……櫓ができてた。
まさか、あの小鬼どもめ。
空中のおれを、つかまえようってぇのか!?
「ぎゃぎゃ――!」
小鬼の櫓を登って、小鬼が天辺に立つ。
すると、又べつの小鬼が、天辺に立った。
「ぐぎゃぴぎゃ――!」
ふらふらと、ゆれながら、じわじわと――登りつめる小鬼。
小さな角が、額の左右から突きでている。
それを見てたら、一本角のあいつを思いだした。
「(そういやいたな、リオと魔法の撃ちあいしてた――手練れなやつが)」
冒険者ギルドの受付担当にして、自前の金剛力を持つ麗人。
あいつは、いまや『聖剣切りの閃光』の一員で、遠征隊にも当然参加している。
「ひかりのたま!」
カカッ――――やめろぃ、まぶしぃじゃねぇかっ!
灯りの魔法をたてつづけに、三回も当てやがった!
それに、いまのははっきりと聞こえた――あのやる気のねえ声。
「(さっきからひかりのたまで、おれを狙ってんのは――〝鬼娘〟だ!)」




