699:料理番の本懐、女神に加護と蟹の天敵
ガッ、ゴゴォン――!?
鉄下駄を鳴らし、窓から飛び出せば――「ギュギヂヂッ!」
超でけぇ鋏を持った青蟹と、直ぐに出くわした。
脅しのつもりなのか、大きな鋏を開き――
左右に大きく、振ってやがるぜ。
気圧されてる、場合じゃねぇ。
ゴガッガガガッ――鉄下駄を、踏み鳴らし――
一気に間合いを詰めた――が。
ガキャカチャカチャッ――!
残像を残し、姿をかき消す――大蟹。
「蟹ってなぁ、此処まで速ぇもん、だったかぁ!?」
前世の沢や、今世のフカフ村村長箱。
其処に居たやつらは――
確かに、ちょこまかと……してたかもしれねぇが。
ボボボッ――ググゥン!
おれは勘所だけで、地に伏せた。
突き込まれる、三連の鋏撃――からの、なぎ払い!
ガァンッ――フォォゥン!
地を蹴り咄嗟に、空中を舞うおれ。
鋏が、背中すれすれを、通り過ぎていく。
危ねぇっ、強化服を着てたら――
でかい首に鋏が、ぶち当たってた所だっ!
ォォォオ――――ギャギッ、ドガンッ!
鉄下駄の一本歯に――避けたはずの鋏が、ぶち当たった!
「(気をつけて下さい。この蟹の思考速度は、異常です)」
ぐるんぐるるるるん――舞うおれ。
「うぉぉぉおおぉぉぉぉおっ!」
ドゴッガァン!
辛うじて四つ足、手甲と下駄の歯を――ゴバキャッ!
硬い地面に突き立てた!
こりゃ、手甲だけじゃなくて、膝当ても居るぜ。
辛うじて叩き付けられずに、済んだのは――
五百乃大角のため、ひいては女神の食材調達のために――
尽力しているから……なのかも知れなかった。
「(いまこいつ鋏を開けて、下駄に爪先を――無理矢理当てたぞ!?)」
刹那を見て敵を爪弾くなんざ、本当に異常だぜ。
力任せに――シュッカァァァァンッ!
振り下ろした太刀を――ガガギィィィンッ♪
きっちりと鋏に、つかまれた!
この青い蟹わぁ、速くて大きくて硬くて――
その上、力まで、尋常でなく強かった!
ギリギリギリギリリッ――――畜生めぇ!
ガチガチガチガチチッ――――ブクブクブクッ!
鉄下駄じゃ無かったら、地をつかめずに――
体ごと持ち上げられてたぞっ!
ギリギリリッ、ガチガチチッ!
しくじったぜ!
久々の打ち物に、浮かれてたらしい。
この体格差は、やべぇ。
刹那すら、目を離せなくなった。
なんせ、大青蟹は――二刀流だ。
ボッフォッ!!
おれは片足を振り上げ――『≧[゜_゜]≦』
遅れて表示される動体検知――わかってらぁい!
ガッギィィンッ!
鉄下駄の歯で、突き込まれた蟹鋏の小せぇ方を受け止めた!
蟹鋏の大小、どちらを喰らっても――給仕服が貫かれることはない。
ないのだが矢張り、虎型だけは着てくるんだったぜ。
なんせ、こんな姿を見られたら――リオレイニアに怒られる。
「ブクブクブクブクッ?」
蟹が何か……文句を言った。
何を言ってるかはわからんが……いや。
「其れが貴様の渾身か?」てな感じのことを言ったのが、わかる。
「何だとぉ!? 貴様こそ、晩の食卓に並べてやらぁ!!!」
ギリギリリッ、ガチガチチッ!
ギリギリリッ、ガチガチチッ!
ギリギリリッ、ガチガチチッ!
「ウカカカッ――覚悟しやがれっ!」
ギリギリリッ、ギリギリリッ!
「ブクブクブクブクッ!」
ガチガチチッ、ガチガチチッ!
せめて太刀が錫杖だったなら、鋏につかまれるのを覚悟で――
仕込み直刀を抜くこともぉ、出来たんだが!
ひゅるるるうぅ――――ぼごん♪
「にゃにゃにゃぁー♪」
強化服自律型おにぎり一号の、楽しげな鳴き声。
外れ酢蛸を投げるその輪郭が、画面に現れたが――
妙に小せぇなぁ――ええと?
小地図の倉庫の壊れた屋根の縁に、居やがるな。
耳栓越しの光の紋様は、強化服のと比べると――
正面側にしか現れず、映し出される分量も少ない。
ふぉん♪
『シガミー>>ばかやろう、おれに当たるだろうが!』
「ブクブクブクブクブクッ――――!?」
上を向いて目を伸ばす、大青蟹の隙を突いて――ッギャリッ!
両の鋏をすり抜け――ガガガン、ズザザザザァァッ!!!!
蟹の八本足の間を、くぐり抜けた!
ズドゴロゴロロロズドゴロンッ♪
猪蟹屋の給仕服は凄ぇ。
岩肌を転げた位じゃ破けねぇし、擦り傷も打ち身もしねぇ。
ビロロロロッ――少し制服に仕込んである機械腕が、減っちまったが。
それだって、こうして〝機械腕弾倉〟を取り替えりゃ、元通り――カシュッ、ギャキ、チチピ♪
ガッチィィン♪
目前に迫った巨大な鋏が閉じて、火花を放った!
――――ィィイィィィィィィィィィィィイィンッ!?
ビロロッブブー♪
嫌な音がして、取り替えたばかりの機械腕が、一息に零になったことを知らせてくる!
ズドゴロゴロロロズドゴロンッ!
「痛ってぇぇぇぇぇっ――――!!!!!」
吹き飛ばされるおれ。
やべぇ、大青蟹の野郎め!
まだまだ余力を残してやがったぜ!
「(やい、迅雷! 蟹を捕まえて食う奴ってなぁ、何だぜ?)」
兎を狩る鳥狩……鷹みたいなのは、居ねぇのかぁ?
もう、其奴を連れてでも来ねぇと、勝てる気がしねぇ!
「(一般的に、蟹の天敵は、蛸とされています)」
蛸之助だぁとぉぉぅ!?
その直後!
「ぶぎゅるるるるるるるうっ♪」
は? とおくから聞こえてきたのは――
聴き覚えがある、ぐねる音。
「なんで蛸之助がぁ、ここに居るぅ!?」
見れば倉庫の窓から、太く赤黒い蛸足が――
にゅろんと、飛び出した!
「「「「「「「「ぎゃぁ、ぁっ――ぅひ、ゃほーぅ、わ――ピィ、ヂヂッ!!!???」」」」」」」」
阿鼻叫喚の、モフモフ村村人たち。
そんな声も聞こえてきた。
「なんでって、あたくしさまが喚んだからに決まってるじゃないのさ♪」
ヴォヴォゥン♪
表示される、五百乃大角。
ふぉん♪
『イオノ>>シガミーはバカわの? おバカわのぉ?』
画面が狭いんだからぁ、出すんじゃねぇやぃ――
その巫山戯た『(ఠ_ఠ)』をよぉ!




