686:未発見エリアαからの脱出、ダウンフォースとベイパーコーン
「シガミー、神力ノ上昇を確認!」
ヴォゥゥン♪
『神力計L>>≫_____H』
「な゛んわ゛と――ごぼぼ!――にゃぎょ♪」
轟雷の中まで水が入ってきた訳じゃねぇが――
これだけ深い水の中だと、音が籠もりやがるぜ。
「(五百乃大角ぁ! 風神の様子わぁ!?)」
ぼごごごごごごごごご、ごぼぼぼぼぼぼぼぉぉぉぉごぼゅわわわわわわっわっ♪
見れば長い首の兜から大量の泡が、吹き出して上へ登っていく。
「グッゲグゲゲゲッ!?」
女神像台座から、たち上るのは泡だ。
それのお陰で水が口に入らずに、息が出来てるようだった!
ふぉん♪
『ヒント>空気/大気の下層部分に存在する、無色透明な混合気体。重力により惑星表面に分布、組成は酸素約21%、窒素約78%。生命が呼吸して生きるために必須。暖められると上昇し、全ての液体より軽い。』
そうか。あの泡は〝空の気〟というのだな。
「(びっくりしてるけど、息は出来てるみたいよ?)」
まったく、寝覚めの悪いことになる所だったぜ!
でかしたでかした、あとで旨い寿司を食わせてやるからな!
「(稼働中の女神像による、周囲の環境保全機能を最大にしました!)」
おう、そのまま空気とやらを、出しておいてくれ!
「シガミー、神力ノ更ナる上昇ヲ確認!」
ヴォゥゥン♪
『神力計L>>>>≫___H』
知らんが助かる!
シュゴドドドドォォォッ♪
背中の大筒を、吐き出した!
ゴボボボボゴボボボボボッボゴババァアァァァアァ――――ッ!!
登る登る、登っていく!
特製の鞍は跨がる轟雷の体と、風神を繋いでくれている。
それでも風神に負担が掛からんよう、首輪から伸びる鎖をつかみ――
鐙に載せた足を、ガッキュゥゥンと引き絞った。
ふぉふぉん♪
『>>水面まで、あと8メートル!』
ゴザパパパァァァン――――――ボゴゴゴボゴゴゴゴブッシュシュシュシュシュ!
良し良し、どうにか海の上に出たぞ!
塩水の上は、魔法杖じゃぁ飛べないらしいがぁ――
雷の力を元にする、神力なら関係ねぇ――!
シュッドゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォ!
登る登る、空中を……空気の中を、登っていく!
もう少しで崖の上に戻――ぷすん!
「神力切レです。換装にハ30秒ほド、必要にナります」
勢いが弱まった!
ひゅぅぅぅうぅぅぅ――!
潮風に吹かれる、おれたち。
また落ちるぞぉ、こりゃぁ!
「(迅雷、さっき言ってた――おれたちを〝包み込んで海に浮かぶ奴〟を直ぐ用意しろ!)」
「(了解。全球型救命ポッドは間に合いませんが、簡易的な筏なら落下まえに展開可能です)」
溺れずに済むなら、御の字だぜ!
「くっきゅるるるるるうぅぅ――!!」
そのとき風神が、また何か言った!
ひゅぅぅうぅっ――ジタバタジタバタッ!
速駆けをする恐竜モドキ、風神。
「やーめーとーけー、空の上を走った所でぇ――踏みつける地面がぁ、ねぇだろぅがぁ!――ニャァ♪」
ねぇだろぅがぁ――ごどん、ごどどん?
何か揺れたぞ――――ググゥゥン!
地面もないのに――落ちる勢いが、弱まった!
「クキュルルルルルルルァアァァ――――♪」
ジッタンバッタン――暴れ馬のように足を揃え、何度も振り下ろす風神。
どごごごぉぉん!
更に揺れた!
ごごっごっごっ、ごごっごっごっ!
風神の走りが、速さを増すと――ひゅぅぅぅぅぅっ!
どうしたことか、風が前から――吹き込んできた!
ふぉふぉん♪
『風神シリーズ【一眼の装甲】/
攻撃力810。防御力2430。空力特性に因らないダウンフォースを得る。
恐竜モドキであるフージーンの一個体、風神専用にあつらえた一品。
追加効果/月次平均速度超過時に、ソニックブーム発生。
追加機能/望遠並びに暗視機能付き。
条件機能/兜内副操縦席に美の女神御神体が搭乗時に限り、
女神像ネットワークへの接続が可能』
さっきの記録を、迅雷が表示した。
ふぉん♪
『>>どうやら先ほどのシガミーのスラスターによる急上昇により、〝月次平均速度〟を越えたようです』
その心わぁ?
ふぉん♪
『>>一式装備〝風神〟の〝追加効果発動条件〟を、満たしたと思われます』
シュッゴォォォォォォォォォォォォォォ――――コパォゥン♪
面白ぇ音に振り返れば、白煙がおれたちの背中から吹き出してやがる。
その勢いで――――ゴッゴォォォォォッ!
おれたちは今にも水面に、叩き付けられようとしてる!
「ぎゃわぁあぁぁぁぁっ――――神様ぁー、助けてー!」
世迷い言を言うなっ!
神さんわぁ、お前だろぅがぁぁ!!!
この来世で最後に聞く声わぁ、五百乃大角の断末魔らしいぜ。
やっぱり駄目だったか――合掌!
§
「「んにゃぁ?」――ニャァ♪」
閉じた目を開くと――
ごごっごっごっ、ごごっごっごっ!
力強い風神の走り!
ズザザザザアザザァァァッ――――!!!
どういう訳だか――はははっ♪
海の上を、走ってやがるぜ!
「こ、怖かったぁーわーん♪」
言ってる場合かっ!
こんな、理に反することわぁ――納得できん!
「水面に高速で叩き付けられると、それは岩よりも強固な壁と化します!」
ふぉん♪
『イオノ>>液体の慣性と粘性、かしらん?』
水桶をバチャバチャ叩けば、掌が痛ぇが――
ゆっくり手を沈めりゃ、何の引っかかりもねぇってことかぁ?
ふぉん♪
『イオノ>>坊主、驚異の理解力!』
やかましいぃ――!
風神わぁ、その強く叩いて、壁になった水面の上を――
走ってるって、言ーうーのーかぁ!?
そんなのは、おかしいだろぅがぁ!
ドゴゴゴゴゴォォォォォォオッォ!!!!!!!!!!
ドッパァァァァァァァァァアン!
高々と跳ね上がる、水しぶき!
「ひょえわぁーい!!!!」
勿論、理に反していようが――
風神を溺れさせずに済んで、良かったのは確かだ!
だがぁ、どうしたってぇ、納得がぁいかねぇぇ!
それに、この速さわぁ、どーいうこったぜ!?
ルリーロさまの魔法杖並みの速さだぞ!?
もう一度、後ろを振り返る。
さっきまで直ぐ後ろに、切り立っていた断崖絶壁が――
もう遙か彼方の、とおくにある。
わかったぞ、この背中から出てるのは、雲だな?
タターが放った、音より速い弾丸とか。
音より速い魔法杖とか。
そんなのの後ろには、確かに細雲が棚引いていた。
「(いいえ、ルードホルドの魔法杖はマッハ1・1を記録していますが、現在の速度は時速533㎞です。音速には、とても及びません)」
及びませんったって、それじゃぁ色々と――
辻褄が合わんぜ?
ふぉふぉん♪
『戦術級強化鎧鬼殻平時プロトコル>>全ライブラリを検索。超音速時の惑星ヒースにおける空力特性に、重大な瑕疵を発見』
あっ、空飛ぶ魚……変異種のやろうも、空を飛んだりしてただろぉ――
そういうことならぁ、良いんじゃぁねぇのかぁ!?
馬より速ぇ恐竜がぁ、水の上を走るくれぇのことならよぉ?
「(エリアボスが持つスキル特性とは、また別の――風神用一式装備による、物理法則改竄の痕跡を検出しました)」
何だと?
其奴わぁ確か、駄目な奴じゃなかったか?
ふぉん♪
『>>緊急時戦術プログラムが作動していませんので、異常値は検出されていませんが』
駄目ではねぇなら、一安心だが。
ふぉん♪
『イオノ>>ルリーロちゃんに知られたらぁ、風神ごと家宝にされちゃうわよぉ♪ ウケケケ♪』
別な意味で、駄目じゃねぇかぁ!
「くっきゅるるうるるるるるぅぅうぅっぅうっぅぅ――――――――♪」
ドゴゴゴゴゴォォォォォォオッォ!!!!!!!!!!
ドッパァァァァァァァァァアン!
化け狐の音速には程遠いのに、此方は――
同じ風切り雲が、使えるときたぜ。
ただでさえ魔法杖である彼方には渡れない、海を走ることまで出来るってのに。
「風神ちゃんさぁー、中々やるじゃぁないのさっ♪」
中々なんてもんじゃねぇ。
「(はい。猪蟹屋の新戦力として申し分ありません、心強い味方を手に入れました♪)」
ああ、大森林勢に微妙に差を付けられてたがぁ――ウカカカカッ♪
「こりゃぁ〝風の神〟の名の方がぁ、名前負けしてるかも知れんぞぉ!――ニャァ♪」
ふふふっ!
ここに来てまさかの、猪蟹屋の一人勝ちまであるぞ!




