685:未発見エリアαからの脱出、風神と海
「シガミー。コの坂ヲ上がっテ、道なりニ3㎞進むト――外に出らレるようです」
轟雷の鳩尾辺りに刺さる便利棒迅雷が、洞窟の終りを告げた。
「本当か? やっと大森林に戻れるぜ!」
どどっどったっ、どどっどったっ!
「くっきゃぉるるるるるぁぁ――――!!!」
おれは風神の首を、ぽんと撫でた。
「ばかね、そんなわけないでしょっ! まだ三分の一も、来てないわよ!?」
そんな訳があるかぁ!
「そんな訳があるかぁ!――ニャァ♪」
風神のお陰で、相当走ってきただろが!?
「距離にシて256㎞。いまだコの未発見エリアノ概要すラつかめていません」
大森林も、まるで探索出来てねぇのによぉ!
次から次へと、やらねぇとならねぇことばかり起きやがって!
「グゲッゲ♪」
うむむむ、風神わぁ――この場所のことを、知ってるのか?
いや、まず知らんか。おれだって、この星のことだけじゃなく――
前世の星のことすら、まるでわかってねぇからなぁ。
§
「おい、行き止まりじゃねぇかよっ!――ニャァ♪」
ふぉん♪
『シガミー>どうすんだぜ?』
どうすんだぜ?
切り立つ崖の、向こうには――
見渡す限りの、巨大な水たまり――海が広がっていた!
岩礁の一欠片すら見当たらんぞ!?
これ、この先にトッカータ大陸が、ちゃんとあるんだろぉなぁ?
泳いでも泳いでも大陸どころか、小島一つねぇなんてことになったら目も当てられん。
「まず、海を渡る方法がねぇがぁ――ニャァ♪」
場合に因っちゃ――此方の島を全部、見て回った方が良くね?
ガリガリと頭を掻くつもりが――鉄鎧の兜に、ガンと手甲が当たる。
「グッゲゲゲゲッゲッ!?!?」
風神も首を傾げて、後ずさりを始めた。
「そうわねぇー、迅雷。あたくしさまがぁ、この島に来られたってことわさぁ――?」
幾ら女神さまでも、海の水を飲み干せまい。
「はイ。女神像か、そレに類すルシステムが必ズ、こノ島にモ稼働しているハずです」
仕方なく何かの、相談を始める二人。
ふぉん♪
『>>まだ発見には至っていませんが』
地図上の明るい場所、探索済みの範囲も相当、広くなったが――
変わったものは、何一つ見つかってない。
「じゃぁ、猫の精霊ちゃんに作り方を教わってさぁ――」
ロォグだと?
「まさか、〝この島に有るかもしれない女神像を探して、転移扉を付ける〟なんて言わねぇよなぁ?――ニャァ♪」
毎度、お猫さまに頼っていたことを、忘れてるんじゃあるまいな?
「そりゃ、言うわよ?」
(何でわよ? 忘れてないけど?)
「はぁ……お前ら〝神々の船〟とは別の理だとか言って直ぐ音を上げて、お猫さまに丸投げしてただろぅがぁ?――ニャァ♪」
何処までも下がっていく、〝風神〟の手綱を引こうとして――
この鞍には首輪から繋がる無骨な鎖しか、なかったことを思い出した。
「必要に駆られれば、門外漢だってやるわぁよぉん♪」
「でハ早速、ロォグに連絡ヲ取りまシょう」
浮かぶ球を取り出し、空中に浮かべる御神体。
「そうするか――どうした風神?」
ピタリと止まる風神。
「くけけりゅるるるるうぁ――グギギギ♪」
またなんか言ってるな。
なんだって、迅雷?
ふぉん♪
『>>63%の確率で「水は嫌い。でも止めることは出来ない」と言っています』
止められない?
「なぁにおーぉ?」
今にも浮かぶ球に飛び乗ろうと、跳びはねる姿勢。
「さァ?」
何をだ?
§
「ぎゃぁぁぁぁぁあっ、沈む沈むぅ、戻れ戻れぇぇぇぇっ!――ニャァ♪」
背中の大筒を吹かすほどの、神力が出ねえ今――
ばちゃばしゃごぼん、ブクブクブククッ!
轟雷の鉄鎧は、ひたすらに重いぃぜぇぇぇぇぇっ!!
「じ、迅雷クーン、迅雷鋼と迅雷式隠れ蓑でぇ、全球型救命ポッドおぉー――プリセットから作れるぅ!?」
絵で板を開いて、何かの完成品を、選ぶ御神体。
「か、海面下に沈む前なら、45秒で作成可能です!」
45秒だぁ?
断崖絶壁から海原へ飛び込んで、まだ10秒もたってねぇだろぅが!
「クッゲゲゲゲゲゲッ!?」
ったくよぉ、お前はどうして――海を走れると思ったんだよ!?
「阿呆かぁ――!――ニャァ♪」
(ござるー♪)
レイダの、生意気な顔。
(まったくシガミーは、マナーがなっていませんね)
リオの、あきれた顔。
(ほれっ坊様、掃除の邪魔だよ!)
そして何でか、香味庵の女将の顔が思い浮かんだ。
「かぁ――っ!――ニャァ♪」
実に面白ぇ、来世だったぜ――合掌!
おれはガッキュゥゥゥンと胸部装甲板で、両手を合わせた。




