683:未発見エリアαからの脱出、女神像台座を設置しよう
口太郎改め風神が執心の、〝真っ直ぐな鉄棒〟。
それは女神像の台座を使うために、どうしたって必要になる。
五百乃大角が作った兜の天辺に、天を突くように突き出した――
迅雷鋼製の真っ直ぐな棒。
風神の頭の上に突き立てりゃ、そうそう壊されはしないだろぅが。
「けど、お前さま一人だけ、風神の兜に張り付いたままで――大丈夫か?」
「平気平気ぃ。女神像の台座が必要なぁときだけぇ、ブロジェクションBOTで行き来すれば良いだけだし、おすし♪」
大丈夫というなら、問題ねぇかな。
「女神像ネットワーク関連ハ、イオノファラーニ一任しまシょう」
「おう、じゃぁ、任せたからなぁ」
となると残る問題わぁ、おれの方だぜ。
やはり風神の背に乗るにゃぁ、おれの体は小さすぎる。
となれば絵で板で、鞍の大きさを――
轟雷に合うように、調整してやる。
大き過ぎて鞍の実物は、隠れ家の中で出せねぇが。
兜と鞍と、軍馬用の鎧みたいな甲冑。
絵で板の中の風神は、随分と勇ましい姿になった。
兜を収納し――すぽん♪
出来た装備、兜と鞍と簡易甲冑。
その三つを収納魔法で選び――〝一式防具になれ〟と念じてみた。
――――ぽこん♪
スキルによる画面が出た。
『一式装備へのランクアップをしますか?
はい/いいえ』
何か出たから、『はい』を指でおす。
――――ぽこん♪
『SPを1消費しますが、続行しますか?
はい/いいえ』
風神には痛い思いもさせちまったし、これくらいしてやっても良いだろ?
ふぉん♪
『>>私は賛成です』
ふぉん♪
『イオノ>>迅雷に同じく、OKわよぉ~ん?』
何だ、歯切れが悪ぃな。
「(ううん、装備のことじゃなくってさぁ……なぁんかぁ忘れてる、気がぁしなぁいぃ~?)」
浮かない顔の御神体。
だがこの装備に関することじゃねぇなら、関係あるまい。
取りあえず、スキルのボタンを押してやる――ポンッ♪
ピッカァァァッ!
目映い輝き。
テッテレーッ♪
騒々しい音――――ぽこん♪
『シリーズ防具が完成しました』
「いよぉし、出来たぜ!」
さーて、どうなったかなー♪
――――ぽこん♪
『風神シリーズ【一眼の装甲】/
攻撃力810。防御力2430。空力特性に因らないダウンフォースを得る。
恐竜モドキであるフージーンの一個体、風神専用にあつらえた一品。
追加効果/月次平均速度超過時に、ソニックブーム発生。
追加機能/望遠並びに暗視機能付き。
条件機能/兜内副操縦席に美の女神御神体が搭乗時に限り、
女神像ネットワークへの接続が可能』
「よぉし、よぉぅしぃ!」
〝風神〟のための一式装備が、仕上がった!
絵で板の中で、一式装備を身につけた、恐……竜モド……キの〝風神〟が――
ひょろ長い桶に巻かれたような、格好になった。
「あっ、お寿司! あと蟹のお料理のぉ、お約束わぁ、ドコに行っちゃったわのっ!?」
厨房で言った、寿司と揚げ物か。
また余計なことを、急に思い出したな。
ふぉん♪
『ヒント>>軍艦巻き/海苔で巻いた酢飯の上に、小さく形を崩しやすい和え物などを寿司種としてのせた物。名前の由来は軍艦に似ていることから』
添えられた絵には、やはり風呂の大樽のような形。
「まさか神仙菜か!? 随分と豪勢だが――た、確かに似ているぜ。ぶふふっ♪」
この軍艦巻きという、黒い寿司の絵は――
少なくとも、リオには見せられんな。
一式装備を纏った〝風神〟の姿と、一緒に見せたら――
間違いなく、死人が出る。
「(迅雷、この黒いのは用意できるか?)」
「(はい。ネネルド村の湖で採れた物から試作した、数枚なら所持しています)」
よぉし。それならぁ――!
「帰りの道中で作ってやるから、もう少し待っとけやぁ!」
今は出来た装備を風神に、どうやって着せてやるか。
其方の方が、先決だぜ。
§
ふぉん♪
『フージーン/
恐竜モドキ。二足歩行。
地表を駆ける魔物の中では、最速。』
ちょっとずつだが、上級鑑定すると文字が出るようになった。
それでも、何を食べるとか、どういう性質だとかは、まだ書かれちゃいない。
五百乃大角の秘伝書にも出てこねぇなら――
「猪の魔物の肉があったろ、まずはあの辺を食わせてみるぞ」
ゴドン――竈を出し。
ひのたまっ――ぼおっぉおぉぅ♪
風が強ぇが、何とか火が付いた。
軽く炙った猪肉を、大皿に乗せてみた。
「ギュゲッ?」「きゅるる?」
凄ぇ涎だな――特に美の女神御神体の方。
なんだその、腹の虫。
お前さまの分も、少し焼いてやるから――
待っとけ。
「くきゅぅるるる――――♪」
皿の上の肉とおれを、交互に見つめる風神。
「何だ、風神は食って良いぞ?」
そう言ってやったら、一抱えはある炙り肉を――
ガチンッ――ガツガツ、ゴクリ♪
皿ごと食う勢いで、平らげた。
「(今だぜ、迅雷)」
長首が伸びた隙に、迅雷が背後に回り――兜を頭にのせた。
チキキッ、ピッ♪
あとは開いていた形が、勝手に閉じて――旨いことやってくれるはず。
「――っと、危ねぇ!」
ずどどどどどっがぁん――――粉砕される、竈!
頭に兜をのせられた、風神が――一目散に駆けだした!
「――っと、危なかったぁ――もっぐもっぎゅ♪」
浮かぶ球に乗り、其処から生やした機械腕で、自分の分の皿を抱える五百乃大角。
焼き上がってた分を、辛うじて取り出したらしい。
どどどどどぉぉぉん、すどどどどぉぉぉおぉん――――♪
風神はそのまま、とち狂ったように辺りを走り回り始めた。
ブゥゥゥゥゥゥゥウゥゥゥウウゥゥゥッ――――バゴォン!
横から飛んできた、馬鹿でかい蜻蛉を蹴散らしたりしながら――
風神は、次第に離れていく。
蜻蛉の首と砕けた羽根が舞う――。
「おーい、戻ってこいやぁ!」
どどどどどぉぉぉん、すどどどどぉぉぉおぉん――――♪
聞こえてねぇのか?
ふぉん♪
『>>兜の各種機能に驚いているのだと思われます。言語を介さないGUIベースのチュートリアルが済めば、じきに落ち着きます』
ふぉん♪
『ヒント>チュートリアル/解説書や教材。コンピュータプログラムの操作などを、実際に操作させることで理解させる、初心者用ガイダンス。』
「――くきゅるるるうあっ♪」
程なくすると兜にも慣れたのか、大人しく戻ってきた。
よぅし。じゃあ、お次は、轟雷を乗せて走ってみようぜ?
§
「くっきゃぉるるるるるぁぁ――――!!!」
どどっどったっ、どどっどったっ!
「どぉだぁぜ? 振り落とされたりはせんのかぁ?――ニャァ♪」
どどっどったっ、どどっどったっ!
「だいじょぉぶー! もうちょっとでぇ洞窟の中でもぉ、女神像ネットワークにぃー――繋げられるようになるわよぉーん♪」
どどっどったっ、どどっどったっ!
元避雷針を利用した鉄棒と女神像台座は、五百乃大角に任せてある。
ふぉん♪
『>>シガミー、馬鎧の調整が終了しました』
桶のようだった形が、最低限に絞り込まれ――
「(うむ。大分格好が、良くなったぜ!)」
画面横に小さく表示された、〝風神〟の絵に灯った――
装甲板は風神の前と後ろ、そして胸の辺りに纏まってる。
おれたちが、南下して最初に出くわしたのは――
連なる山々の麓。
そこに巨大な洞窟を見つけたのが――かれこれ2時間くらい前。
ヴォヴォ――ピュゥーピピピピ♪
『■■■■□□□風□□■■■■■■■
■■■■□□□□□■■■■■■■■
■■■■□□□□■■■■■■■■■
■■■□□□□■■■■■■■■■■
■■■□恐□□■■■■■■■■■■
■■■□□□□□□□□■■■■■■
■■■■□□□□□□□□□□□■■
■■■■■■■■■□□□■□□■■
■■■■■■■□□□□□■□□■■
■■■■□恐□□□□□■■□□■■
■■■□恐□□恐恐□■■■□□■■
■■■■□□恐□□■■■□□■■■
■■■■■■■■■■□□□■■■■
■■■■■■■■■□□□■■■■■
■■■■■■■□□□□■■■■■■』
「次わぁ、曲がった先を奥の道だぞぉ、手前じゃないからなぁ!――ニャァ♪」
先行する泥音が、洞窟の地図を送ってくる。
「くっぎゅりゅりゅるるああぁっ――――♪」
返事は立派なんだが――
「ギャギャァ!?」「グギャァ!?」「キュルルァ!?」「――!?」「――!?」
必ず「止めろ」と言った方に、行きやがる。
それでも〝風神〟は轟雷である、おれの重さを物ともせず――
一瞬で敵に近寄り、蹴り倒し――
「グゲッゲッ!?」
前後から挟まれれば、壁を蹴上がり、やっぱり一撃で蹴り倒す。
いっさい大口を閉じることなく、此処まで全部の石竜子鳥を――
屠ってきた!
「ばかね! それってさぁ、そこそこシガミーの言った言葉を理解してるってことわよ?」
うん。そういうことだな。
つまりは、舐められてるって訳だ。




