682:未発見エリアαからの脱出、城攻めの話と名付けについて
「シガミーの言うことしか……聞かないみたいわよ(-_-)」
すっぽ――ここここぉぉん♪
遅延、そして――べちゃり♪
おれの頭の上から、ねっとりと滴る女神御神体。
「ぐぬわぁぁっ――ばかやろぃ、綺麗にしてから戻ってこんかぁ!」
自力で口太郎の腹の中から、戻ってこられたのわぁ、僥倖だが――
その形で直に、おれの頭に落ちてくるんじゃねぇやぃ!
おれや御神体や、服や強化服。
それぞれ別に綺麗にするなら、簡単だが――
こう一辺に、おれごと汚されると……面倒なことになる。
「あぁもぅ一旦、地下の部屋に戻るぞ!――ニャァ♪」
巨石に丸い穴が空き、おれは目を閉じる――ギュッ!
外の景色が消え、重要なモニタ表示や――
手首に巻いた腕時計が、見えた。
腕時計のカバーを開き、中のボタンを押す。
シュボッ、カシカシカシ♪
瞼越しでも見える光の奔流。
「グッゲゲゲッゲッゲゲッ!?」
驚き、足踏みする口太郎。
「直ぐに戻ってくるから、ちょっと待ってろやぁ!」
それは一瞬、チキピピッ♪
刹那で着替えが、完了した。
猪蟹屋標準制服に着替えたおれは、穴に飛び込んだ。
§
「ちぃと……思ったんだが」
たった今落ちてきた天井の穴を、見上げる。
「なんわよ?」
ヴォヴォヴォォゥゥン♪
「なんでしょうか?」
ヴッヴォヴォヴォゥン♪
「グゲ――――ズゥン♪」
丸く、細長く開けられた岩穴。
其処から此方を覗き込んでいた、口太郎の顔が――
岩肌で塗りつぶされ、見えなくなった。
継ぎ目のない天井を閉じたのは、五百乃大角か迅雷が立ち上げた――
「絵で板と収納魔法さえありゃ――どんな城も、一晩で落とせるだろ?」
寝床を通って、風呂場に駆け込み――もう一度、腕時計のボタンを押した。
シュボッ、カシカシカシ♪
刹那で――すぽん♪
腕時計を腕輪に仕舞い、首から提げた冒険者カードと腕輪だけの――すっぽんぽんになった。
みずのたま、みずのたま――冷たかったが、シャキッとして良い!
ヴッ――濡れた体を、柔らかい布でざっと拭く。
「なによ、いまさら。けどぉ――」
すぽんと、迅雷に格納される――ベトベトに汚れた御神体。
ふぉん♪
『イオノ>そう簡単じゃ、ないわよぉん?』
耳栓越しの、おれの画面。
その中に現れる、アーティファクトとしての御神体。
そして、梅干し大の分け身である中身が、おれを見上げた。
ふぉん♪
『>>どういうことだぜ?』
ふぉん♪
『イオノ>迅雷、やってみせてあげてねぇん♪』
ヴォヴォヴォゥゥン――――唸る迅雷が、おれの側に来たと思ったら――
「シガミー、オ覚悟ヲ」
すっぽここここここ――――――――うぅわわぁ!?
体が震えて、止まらねぇ!?
おれはもんどり打ちながら、かろうじて飛び退いた!
「はぁはぁはぁはぁ、何てことしやがる!?」
見れば、おれが居た辺りの床が――綺麗な丸で抉られてた。
ふぉん♪
『イオノ>>収納魔法に生き物を、入れられないのは知ってるでしょ?」
生き物? 生き物を魔法で取り込んだら――
そいつぁ、転移魔法になっちまうって、奴だろ?
おれはタオルを丸めて、迅雷に放り投げた――すぽん♪
格納される、柔い布。
「確かに壁の向こうに誰かが張り付いてやがったら、穴を空けることは出来ねぇな」
ヴッ――腕輪から腕時計を取り出し――シュボッ、カシカシカシ♪
刹那で――猪蟹屋のメイド服を着込んだ。
すっぽこ――こぉん♪
微かな遅延、てちり。
「そう、そして、お城が守ってるものって、何わのよ?」
おれの頭の上に降り立った、御神体さまが――
そんな当たり前のことを、聞きやがる。
「そりゃぁ、殿さんに奥方さまに、王子に姫さん……あっ!」
「そう、要人警護中の誰か一人でも、さっきのシガミーみたいな目にあわせたらぁ、どーうなるかわぁー、わかるでしょぉ?」
「元から今世で、城を攻めるつもりは毛頭ねぇーがぁ――得心した」
旗本や隠密……衛兵や騎士どもに囲まれたら、おれでも、その場に止まるのは難しい。
§
「じゃぁ、上に戻るがぁ――〝恐竜〟……恐ろしい竜て生き物わぁ、何を食うんだ?」
飼うなら餌を、やらにゃいかんだろ。
「さぁ、お肉でぇ良いんじゃね? ウケケケッ♪」
人ごとか。
「迅雷、鑑定結果は出たか?」
「やハり、恐竜に関する情報ハ、ありマせん」
ねえのか。
「だから新種発見って、言ったじゃないのさ♪」
ふぉん♪
『イオノ>>新種を発見したら、お名前を付けてあげるのがぁ、慣例わよ!」
「はぁ? お名前わぁ〝口太郎〟だろうが?」
「ばかわよ? シガミーは、ほんとバカ!」
「そうデすね……レイダやリオレイニアニ却下さレないような、良イ名ヲ与えてミては?」
迅雷まで容赦ねぇぜ。
「くっきゅぎゅるうるるる――♪」
壁に口太郎の様子が、映し出された。
しかしこんなでかい石竜子鳥が、良くも懐いたもんだな。
「もトから、こノ個体ハ大脳ノ発達が顕著デ、好奇心が旺盛だっタと思わレます。シガミーヤ自動射撃LV1に執着していタので――テイムもしやすかったノでは?」
なるほどなぁ。
「きゅぎゅぐずるるるるるっ――――♪」
ん、今なんか言ったな、口太郎。
「53%の確率デ、風よりモ速ク〝棒〟ヲ取ってくるノにと言ってイます」
「ウケケケッ――謎の棒推しにわぁ、なんか意味わぁあるのん?」
ふぉん♪
『>>類推になりますが、獲物を狩ることと同じくらいに〝自身の足の速さ〟を、認められたいようです』
足の速さならぁ――〝疾風迅雷〟って訳だが。
けど猪蟹屋には既に、迅雷が居るから――
「何かねぇのか、〝足が早い〟とか〝風神のようだ〟とかって意味のぉ言葉わよぉ?」
「それでぇ、良いじゃないのっ♪」
どれだぜ?
「はイ。シガミーにしてハ、上出来なノでは」
だから何が、上出来だぜ?
§
『風神』――さらり♪
「坊主わぁ、いつもぉ、達筆わねぇん♪」
五百乃大角が作った、石竜子鳥用の兜に一筆入れてやった。
ふぉん♪
『風神の兜【風神】/
防御力220。空力特性に因らないダウンフォースを得る。
恐竜モドキ風神の一個体、風神専用にあつらえた一品。
追加機能/望遠並びに暗視機能付き。』
ふぉん♪
『イオノ>>ウケケッ。種族名が〝風神〟ってなっちゃってるけど、まぁ良いでしょ。恐竜学会派閥とか、恐竜マニアの人に文句を言われる訳じゃないしぃー』
人の呼び名が〝シガミー〟になっちまったみたいな話か。
どうにも締まらんなぁ。
せめて、この兜に轟雷の角みてぇなのを、付けてやるか。
何かねぇか?
そういやぁさっき、腕輪の中にアレがあったな。
おれは机の上に、どっしりと置かれた兜の、天辺に――
絵で板で――きゅりきゅりきゅりきゅりっ、すぽん♪
螺子切りの穴を、空けてやった。
おれの物作り系スキルも加われば、造作もなく出来た。
ヴッ――取り出したのは、武器代わりになればと、相当昔に入れっぱなしだった、ガムラン町の避雷針。
使い古しの、オリハルコンの棒きれ。
「こいつを――」
くるくるくる――がちり!
「シガミー! そレは、素晴らシい発想デす」
「またしてやられたわ。盲点わよ!」
はぁ? 兜に角の一つや二つ付いてるのわぁ、当然だろぅが。
どうしたぁ、また褒めすぎじゃね?
五百乃大角が、また絵で板を起動し――
〝風神の兜【風神】〟の後ろ頭に、事もあろうか――
出張所用の女神像台座を、取り付けやがった!
そんなことのために尖った元避雷針を、突き立てた訳じゃなかったんだが。
「ウケケケケ♪」と笑う五百乃大角が、台座と避雷針を導線で繋いじまった。
「以前作成しタ、火龍用のヘッドセットを流用して――簡易的ナ翻訳システムモ作成シました」
ふぉん♪
『>自律型一号おにぎりが、この場に居れば動物言語学、恐竜語翻訳の一助となったのですが』
居ないものは、仕方有るまい。
其れよりもだ。
「お前らさまよぉ? 悪い冗談が過ぎるだろぉがぁ?」
口太郎改め風神に、女神像の台座を取り付けたとなれば――
次に必要なのは当然、アレしかあるまい。
絵で板を立ち上げ、〝鞍〟の記録を呼び出した。
これは以前、天ぷら号に作ってやった物で――
大きささえ変えれば、そのまま流用出来そうだぜ♪




