680:未発見エリアαからの脱出、全自動射撃LV3と蘇生薬
ガッシャァァァァンッ♪
平らな大岩に穴が空き、突き出る相当に大きな機械腕。
「〝全自動射撃LV3〟、起動。索敵半径は16mニ設定しまシた」
迅雷がタレットスキル〝何たらLV1〟とかいう奴を取った。
これで、壊された〝木玉を撃つ奴〟を、もう一度作れるようになるまで――
三日かかるはずの所を、直ぐにもう一台、出すことが出来るらしい。
ふぉん♪
『>〝マルチユニットLV1〟です。既にサブユニットを一基破壊されていますので、これが破壊されれば、次に作成できるようになるまで三日必要になります』
そう、そいつを取るためにまず、全自動射撃をLV3まで上げる必要があって。
今なら木丸だけでなく鉄丸や、燃える丸なんかも撃てるようになった。
機械腕も大きくなり、鉄板で覆われている。
これなら石竜子鳥に踏みつけられても、耐えられるかも知れねぇ。
ウィィィィインッ♪
無骨な銃口の先が大口に向かって、ひとりでに動いた。
「グゲッゲッ!? くきゅるるるるるぁぁぁああぁっ♪」
喚く大口に、うろたえる様子はないが――
その隙におれは、隠れ家のドアを開け――
狭い通路を一息に、駆け抜け――スッタァァァンッ!!
天井に空いた穴から、外へ飛び出した!
よし気づかれてねぇ、この隙に――ギュッ!
目を閉じ腕時計のカバーを開き、中のボタンを押す。
シュボッ、カシカシカシ♪
瞼越しでも見える光の奔流――「グッゲゲゲッゲッゲゲッ!?」
今さら喚いても遅ぇぜ!
おれは鉄鎧を着た――カヒューィ、ガゴゴンッ!
鉄鎧の外部カメラが、ヒュパパパパパッ♪
背後から迫る、大口の様子を映し出す!
――ウィィィィインッ、ガッシャン♪
太く逞しくなった機械腕が、大口を狙っている。
ふぉふぉん♪
『戦術級強化鎧鬼殻平時プロトコル>>全ライブラリを検索。ロックオン中の生命体に該当有りません。惑星地球に棲息していた、〝ガリミムス〟と呼ばれる獣脚類恐竜の一種に酷似しています【地球大百科事典】』
何だぜ、迅雷?
大口のことを、詳しく知っても意味ねぇだろぅ?
もうおれたちわぁ、お暇するだけだろが。
ふぉん♪
『イオノ>どしたのよ、シガミー? 早く大森林に帰らないと、お腹が空いちゃうわよ?』
そうだな、森の主からの依頼もあるしな。
フィィィィイィンッ、シュガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガ――――!!!
うるせぇ!
無骨な機械腕の先が、とんでもねぇ勢いで回ると――
ビシビシビシビシビシビシビシビシッ、ガガガガッ!!!!
鉄丸が大口の野郎に、叩き込まれた!
短い間だったが、猪蟹屋の敵に相応しい強敵だったぜ。
成仏してくれやぁ――――ドッズゥゥン!
ガガッ――ドリュルルゥッ、カララランッ♪
石竜子鳥が倒れたら、ひとりでに止まる。
ふぉん♪
『>シガミー、彼はまだ生きています』
んぁ? 鉄の丸を、あれだけ浴びたら、そうそう助からんだろうが?
あとコイツは、雄だったらしいぜ。
「ゲギャギャァ――――くぅるるぅっ――――!?」
血煙と噴煙が風に流れ――横たわる大口の姿が見えた。
その弱り切った動きは、もはや虫の息だ。
だがその両手片足で、しっかりとつかまれた――
〝全自動射撃LV1〟の残骸。
「あらぁ、随分と、お利口さんねぇん?」
そうだな。大口は落ちた残骸を盾にして、致命傷を避けたのだ。
「口太郎ぉ――敵ながら中々に、天晴れじゃね?――ニャァ♪」
ガッキュガッキュゥンッ、ガッキュゥゥゥンッ♪
おれは大口の石竜子鳥――さしずめ口太郎の近くへ跪いた。
何というか、手を下したのはおれたちだが――
弔ってやろうと思ったのだ。
「はイ。そノことで、シガミーニ提案がアります」
「なにその口太郎って……まさか、名前!? 酷いにも程があるでしょ?」
おれの顔の直ぐ横で、直に嘲られるとぉ……気分が良くねぇぞ。
「うるせぇ。体を表す良い名じゃねぇかよぉ――ニャァ♪」
とは言っても――「グキャァ――ァ」
今にも事切れそうな奴に、名をくれてやってもな。
「そういえばさぁ、この恐竜ちゃんさぁ――妙にさぁ……頭と首が大きくなぁいぃ?」
ふぉん♪
『イオノ>鳥型の恐竜って言うよりも、ティラノザウルスみたいな形っていうかさぁ』
「ハい。そのこトで、イオノファラーにモ提案がありマす」
ふむ。迅雷から、提案があるらしいぜ。
§
「くそう、虎の子の蘇生薬を殆ど全部、使っちまったぜ!」
横たわる口太郎を包む、緑色の光の泡――――シュワァッ♪
閉じかけていた大きな瞳。
悪党面のその目が、大きく見開かれた。
蘇生薬の効果が出るまで――
ふぉん♪
『>はい。手持ちの蘇生薬を25本、使用しました』
となると残りわぁ、おれの腕輪に入ってる分と――
村長から貰った分の、全部で3本きりか。
大事に使わねぇと、死にかねねぇぞ。
ゴロォン、シュタリッ♪
弾みを付け、飛び起きた口太郎。
「くきゅるるるるぁ――♪」
轟雷の胸部装甲板へ、激しい頭突き!
あっ、手前ぇ! まだやろうってぇのかぁ!?
シュゴゴゴゴゴォォォォ――――♪
おれは背中の大筒を吹かして、空へ飛び上がる。
ぷすぷすっ――プシュゥゥゥゥン♪
ありゃ、どうした。
背中の大筒が、止まっちまったぞ!?
ヒュルルルルッ――――ドガガガァァン!!
直ぐ地に落ちちまう、轟雷。
ヴォゥゥン♪
『神力計L≫_______H』
「どうしたことだぜ、空じゃぁねぇかぁ!」
ふぉん♪
『ゴウライ>予備の神力棒を出せ!』
ふぉん♪
『>神力切れは、ジェネレータ出力の低下によるものです。いたずらに神力棒を消費することは推奨できません』
じゃぁ、どーするって言うんだ?
「くきゅるるるるぁ――♪」
地に落ちた轟雷に、また飛び込んでくる――口太郎。
轟雷の顎へ、激しい頭突き!
いい加減にしろやっ、手前ぇ――!
「くきゅるるるるぁ――♪」
と思ったが――ガジリ、ガジリ、ガジガジリィ――!
手を噛むんじゃぁねぇやぃ、まるで痛くはねぇが。
轟雷を着たおれが、取っ組み合いをすること――小一時間。
囓られ続けたあげく――結局、噛みつき癖は直らなかった。
「あれ、まってシガミー。なんだかこの子、遊んでなぁい?」
ガジガジガジガジジ――♪
でかい図体をした石竜子鳥が、尻尾をくねらし、目を細める様は――
何でか前世、お山で飼ってた猫を思い出させた。
「はぁ? そんな訳ねぇだろうが、仮にもおれたちゃぁ、命のやり取りをしてたんだぜ?――ニャァ♪」
迅雷が「珍しい石竜子鳥だから、助けろ」なんて言うから、今こんなわからんことになっちゃいるがよぉ?
§
「まさか本当にぃ、遊んでるつもりだったなぁんてぇ――うふふふふっ!」
そうなのだ。
鉄棒を立てると、やっぱり囓るか蹴倒すかしやがるから――
曲がっちまった鉄棒を「こりゃもう、使えんなー」と、近くへ放った。
すると、口太郎がソレを咥えて、持って来たのだ。
「クケケケェー♪」
ガジガジガギギッ――だから轟雷を囓るなってんだ。
ヴォヴォヴォゥゥウゥン♪
五百乃大角が、「直に顔を見たい」なんて言って――
浮かぶ球に乗って、口太郎の回りを飛んでいる。
「おい、囓られたり、飲まれたりするなよ?――ニャァ♪」
折角、助けた命を――掻っ捌かないといけなくなる。
その大きな口が、天を向き――
「くっきゅるるるるる♪」
「46%ノ確率で、〝棒〟ヲ寄越せト言ってイます」
棒なぁ。
「よく見たら、さっきまでの凶暴な顔じゃなくなってるわねん♪」
ふぉん♪
『>蘇生薬により、大小様々な怪我や機能不全などが、回復したためと思われます』
手負いの獣は、大抵そんなもんだ。
「まぁ、見た目よかは、話がわかりそうな気はしてきたな」
噛みつくのだけは、絶対に止めそうもねぇけど。
「あーっ! あたくしさまってば、とっても良いことを思いついてしまったのだけど――」
「却下だ、却下ぁ!――ニャァ♪」
どうせ碌でもねえことか、飯の話に決まってる。
「シガミー、いっそのことテイムしてみたら良くなくなぁい?」
何だぜ、諦無てのわぁ?
囓られることを諦めて、受け入れろってのかぁ?
ふぉん♪
『ヒント>テイム/動物を飼い慣らし、使役すること。』
口太郎おぉ、飼い慣らすだとぉ?
ガリミムス/獣脚類恐竜。白亜紀後期のゴビ砂漠に生息。学名は「鳥モドキ」という意味。
ティラノザウルス/大型獣脚類。白亜紀末期の北アメリカ大陸に生息。学名は「暴君竜」という意味。




