677:芋の町にて、続々・おにぎりの休日
「しかし、どうしますか? あちらの紳士を、伸しちまいやしたぜ、こいつ」
近寄ろうとする手下を――
「ぅおまち! あんた達が敵う相手じゃなぁいわよっ!」
団長が制した。
コイツ呼ばわりされた、黄緑色の猫の魔物は――すぽん♪
細剣代わりの長串を、ぱっと跡形もなく消した。
そして、まだ地に突き刺さったままの紳士を、スポンと引っこ抜き――ヴッ♪
どこからともなく取り出した縄で、きゅっと縛り上げてしまった。
「こらー、君たちー! またぁー騒ぎを、起ーこーしーてぇー!」
解散した女性たちの向こうから、姿を現したのは――
冒険者ギルドの受付嬢制服に、身を包んだ――
かなりどっしりとした、女性だった。
§
「何てことかしら!?」
手配書と黄緑色の魔物風を、繁々と見比べていたギルド受付嬢が――
「これはこれは御使いさまっ、アリゲッタ辺境伯領へ――ようこそおいで下さいましたわっ!」
――などと宣い膝を突き、うやうやしく頭を垂れる。
その真剣な様子は、並々ならぬ事態であることを、窺わせた。
「みゃぎゃやーにゃぁー?」
御使いさまは、振り返る。
後ろに誰も居ないことを、確かめたようだ。
少なくとも黄緑色の彼もしくは彼女には、御使いである自覚はないらしい。
「お嬢――離れて下せぇ! そいつぁ、町民の紳士を手にかけた、悪党なんでさぁ! ぐぇへっへへへっ!」
悪党のような悪い顔をする、自警団の手下。
彼は受付嬢を、お嬢と呼んだ。
「離れるのは、君たちの方よ! ひかりのたてよ!」
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
受付嬢の膨よかな掌に、浮かび上がる――
一枚の、ひかりのたて。
聖なる曼荼羅は――ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ッ!
縄で巻かれた町民の紳士を――――燃え上がらせた!
ぼっごおぉぉぉぉぉっぅわわぁっ!
紳士は風に吹かれた炎で、とても良く燃えた。
慌てふためく〝ポテフィール自警団(総員4名)〟や、道行く人々。
「落ち着いて、この火はすぐに消えます!」
その宣言通りに、聖なる光に燻された紳士が――ぷすぷすん♪
ひとりでに、鎮火した。
「あれ、ここはどこだ? 私は何をしていたのだ?」
頬や髪を焦がした粗野な紳士が、急に人が変わったように温和な表情を見せる。
そして身を起こし、受付嬢を見上げた。
「おや、これはこれはポテリュチカ嬢、本日もご機嫌麗し――ぎゃっ!? 猫の魔物っ!?」
隣で膝を抱え座り込む、黄緑色。
それに気づいた紳士が――腰を抜かし、バタリと倒れた。
「これはまさかっ!? こんな町中で、〝魔神返り〟に出くわすとはっ――あんたたちっ!」
勇ましく号令をかける団長。
「「「へへーい!」」」
「にゃみゃー♪」
だらしなく立ち上がり、敬礼する団員たち。
「顔色が悪くて、いらついた様子の町人がいたらぁ――自警団詰め所に、連れてくるんだよ!」
団長の内股はふたたび、ぐねっていたが――
その顔はとても真摯で、とおくの方に女性の取り巻きが湧いた。
どたたたっ、ぽきゅらら――と散っていく団員たち。
「あっ、御使いさまは、そんなことをなさらなくて、よろしいですのよぉー!」
受付嬢は黄緑色を追って、行ってしまう。
倉庫に取り残される紳士と、種芋の棘、団長。
「大丈夫かいっ!?」
紳士の体を起こしてやる、筋骨隆々。
「ぅうーん?」
抱き起こされた紳士が、息を吹き返した。
その視線が交差し――「ぅふぅん――♪」
バチィン♡
片目を閉じ、身をくねらす団長。
その視線が直撃した紳士の顔が、ふたたび青ざめ――
パタリと倒れた。




