674:隠れ家にて、大口VS猪蟹屋
ヴュユウウゥゥウン――パパパパァァッ!
壁一面に映し出されていた、直上の様子が――
斜め上から大岩を見下ろす映像に、切り替わった。
ガッシャァァァァンッ♪
平らな大岩に穴が空き、突き出る大きな機械腕。
「〝全自動射撃LV1〟、起動。索敵半径は10mニ設定しまシた」
ウィィィィインッ♪
無骨な銃口の先が大口に向かって、ひとりでに動いた。
「ぐげっげっ!? くきゅるるるるるぁぁぁああぁっ♪」
喚く大口に、うろたえる様子はない。
やられても痛くないと、学んだのだな。
凶悪い顔の割に大口は、頭が良いぞぉ。
「ウカカカッ――石竜子鳥には悪ぃが、超面白ぇ勝負だぜ!」
さっき作った〝酔歩鳥〟を、かぱりと呷る。
「かぁー、旨ぇ!」
五百乃大角が言うから、生活魔法で冷やしたら――
確かに、また格別だった。
「結局さぁ、シガミーの手おぉー借りちゃったけどぉーさぁー……ごくごくん、ぷはぁ♪」
「はイ、よウやく女神像ヲ設置出来そうデす」
「いやいや彼奴、顔のわりにわぁ、阿呆じゃねぇぞ?」
中々に良い勝負になると、思うぜ。
「(迅雷、これ記録しとけ。レイダやビビビーやビステッカにも、見せてやりてぇ)」
「(はい。了解しました。リプレイを保存します)」
ふぉふぉん♪
『●REC/〝大顎の個体〟VS〝全自動射撃LV1〟』
何かの文字が出て――――カァン♪
景気の良い、鐘が鳴った!
§
石竜子鳥が無造作に――クゲゲゲゲッ♪
一歩踏み込めば――ウィィィィインッ、ガッシャン♪
フィィィィイィンッ、シュガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガガがガガガガガガガガガガガガガ――――!!!
うるせぇ!
無骨な機械腕の先が、とんでもねぇ勢いで回ると――
レイダ材で塗られた、青い煌めきが――
ビシビシビシビシビシビシビシビシッ、ガガガガッ!!!!
大口の横っ面に、ぶち当たった!
「げぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぅぅぅぅうぅぅぅぅるるるるぅぅぅっ――――!?」
顔に丸を食らい、逃げていく石竜子鳥。
ガガッ――ドリュルルゥッ、カララランッ♪
石竜子鳥が離れると、ひとりでに止まる。
「ウカカカカッ――――呆気なかったなぁー……かぱり♪」
迅雷ぃ、勝手に丸を打ち続けてくれる、機械銃は色々と使えそうだぞ。
止めを刺すには至らなかったが、大量の返り血を浴びた機械銃は――
とても頼もしく、ちと恐ろしい。
「はイ。INTタレットとしテは、こちラが本分でスので、タレットスキルノ更ナる解放ヲ望みマす」
ふぉん♪
『>タレットスキル解放について/
スキルツリーは攻撃特化・防御特化・思考特化の三系統。
現在解放されたスキルは『攻/戦術級砲弾〝非カー解由来空間崩壊LV1〟』、
『防/サブユニット生成〝全自動射撃LV1〟、
『思/デコイモード〝エキストラLV1〟』の三つです』
「あー、けどこれ一回使うと当分の間、使えないって言ってただろうが?」
「(それは、攻撃特化スキルの場合です。次弾装填まで、あと63日掛かります)」
うむ。針刺し男のおっさんの、矢鱈と長ぇ名の町の洞窟で、撃った奴か。
ありゃ、そうそう、使えんよなぁ。
「あ、台座が起動したわよん♪」
アーティファクトである、〝ギルド支部臨時出張所の台座〟。
其奴を抱えた裏天狗が、ちゃぶ台横に屈んだ。
型落ちの台座は、不格好な太い導線で接続されており――
壁を伝って、天井の穴へと消えている。
裏天狗が、ちゃぶ台の上の御神体を、ガシリとつかみ――
ガチャリンッ♪
騒々しい鐘の音をたて、美の女神御神体が台座に乗せられた。
ふぉふぉん♪
『>女神像ネットワーク復旧のお知らせ
>大変ご迷惑をおかけしておりました、ブルートゥース接続障害が解消されました。
>現在、女神像デバイスの全機能が使用可能です。』
女神像の通信網が及ばぬ地で――ぐるんと白目を剥く美の女神。
「ぷるるルるぷるるルる――――こチら女神像#10286デす。ゴ用件ヲどうぞ♪」
ふむ白目を剥いてて、実に気色悪ぃ。
「じゃぁ、おにぎりを探してくれ」
さっさと彼奴を見つけて、とっとと大森林まで戻るぞ。
「デェーンデデェンデェンデェーン♪」
突然、鳴り響く奇っ怪な調べ。
その例えようのない嫌な調べには、覚えがあった。
「こノ着信わ、オ姫ちゃンわよ♪」
ヴッ――御神体が取り出したのは、薄板。
プッ――♪
「もしモし、オ姫チゃん? お元気ィー♪」
白目を剥いたまま、片言で話す首が傾く。
通話の向こうから、漏れ聞こえてくるのは――
「ザザッ――だからもしもしって、なんですの?――」
この横柄な口調も、久々に聞いたら安心したぜ。
「もシもしって言ったラぁ、亀だけドさぁ――そっチわぁ、みぃんナぁーご・無・事ぃー?」
「ヴュザッ――イオノファラーさま、ふざけている場合ではありませんでしてよ!? そちらこそ、ご無事なんですの!? シガミーは!?――」
うるせぇと怒鳴りつけてやりたい所だが、向こうの様子を聞くのが先だ。
壁を見れば、キュゥィィィッ♪
機械銃が、ひとりでに辺りの様子を探ってる。
「無事無事、超ゴ無事でスよぉん♪ さっキもスポドリを作っテくれてさぁ――えー? スポドリっていうノわぁ、村長さんからァもらっタ〝解毒薬〟と同ジ味ノ飲ミ物でぇ――」
よし、あっちは五百乃大角に任せとくとして――
此方の話に戻るが――「(この木玉を撃つ奴は、何度でも使えるのか?)」
「(はい。ですが破壊された場合、再びサブユニット作成可能になるまで、約3日ほど掛かります)」
中々に、ややこしいぜ。
「(迅雷のスキル回りの、やること表は何番目だ?)」
ふぉん♪
『>〝52:シガミー/ジンライ/スキル開発:タレットスキルの収得と完熟訓練〟』
あぁ? 後回しにしすぎじゃね?
それと、表が50個、越えてるじゃんかよ。
じゃぁ、それ今からでも、やるぞ。
おれが居ないときの守りの要わぁ、お前なんだからな。
ふぉん♪
『>>『防/サブユニット生成〝全自動射撃LV3〟』、のあとに収得できる、『防/サブユニット生成〝マルチユニットLV1〟』を併用すれば、二基のユニットを交互に運用可能です』
うぅむ。スキルを選んだ先で枝分かれする道が、どういうスキルに繋がるのかの肝心な所、そこが、選んでみるまでわからないようになってやがる。
こりゃぁ、じっくりと考えねぇとなぁ。
壁を見れば、キュゥィィィッ♪
機械銃が、ひとりでに辺りの様子を探ってる。
ガガッ――発射される木丸。
驚いて一勢に、画面を見たが――
でけぇ蜻蛉が、落ちてきただけだった。
画面の下に――
『状況開始から/00:03:54』
チチチィーと、増えていく数字が見える。
なるほど、数字が5分を過ぎる頃には――
決着が付くという手筈だったんだが。
面白ぇ出し物も、此処までのようだぜ。
ふぉん♪
『おにぎり>にゃぎゃにゃぁー♪』
おい、一行表示に居たぞ――おにぎり!
息災で……破けたり潰れたりしてなかったみたいで、良かったぜ。
ふぉん♪
『シガミー>ぎゃにゃーじゃなくてよ、お前今どこに居る?』
良し良し、これで全員無事とわかった。
その気の緩みを、突いた訳じゃぁねぇとは思う――『▼▼▼』
〝全自動射撃LV1〟が、機械腕を跳ね上げたときには――遅かった。
ドゴギャッ、ズズズズズズズズゥゥゥゥゥゥンッ!!!
ぐらぐらぐらぐららり――〝酔歩鳥〟が入った樽杯が倒れる!
壁の映像が、切り替わり――
「くきゅるるるるぅ、くきゅるるるるるぁぁぁああぁっ♪」
雄叫びを上げる、大口な石竜子鳥の全身が――映し出された!
「どっから、現れやがったぁっ!?」
おれは岩肌を、見上げた!
またおれたちの直上に居座る、大口の『▼』。
「グゲゲッゲゲッ、グゲゲゲゲゲッ!」
「(恐らく索敵範囲外、それも小地図の縮尺外からジャンプして来たと思われます)」
やべぇ、マジでおれが出ねぇと、倒せねぇじゃぁねぇかぁ!
「ギャッ――お姫ちゃんとの通話が、切れちゃった!」
〝木玉を撃つ奴〟と一緒に、〝鉄の棒〟も壊され――
〝大口〟の逞しい脚に、踏みつけられてる。
ふぉん♪
『おにぎり>〝お芋さんの町〟だも』
おにぎりの返事が、ぶつ切れに表示された。
しかし芋の町たぁ、随分と旨そうな町に居やがったなぁ?
「大変よぉっ、シガミー!」
使えなくなった台座から、飛びおりる御神体。
ああ、おにぎりの居場所が、やっとわかった。
「随分と、おいしそうな町にぃー、居るわねぇん♪」
よぉし、お前さまわぁ、先ずその涎を拭けやぁ。




