671:謎エリアにて、迅雷式換気扇フィルター
「人聞きが悪いわねぇ、もうっ!」
勢い余って今度は、寝床側に――スコカカァーン♪
飛び込んで来た御神体を、ヴォヴォゥゥン――カシャカシャ、ガシリ♪
迅雷が機械腕で、受け止める。
「我々ハ度重ナるシガミーの功績ニ対シ、温情ヲ与えヨうと画策しマした」
はぁ? 金貨でもくれるってのか♪
けど、どうせ金回りなんて、猪蟹屋一味で一蓮托生だろぉ?
「〝お休み〟をあげるって言ってるのわよっ! ありがたく受け取りなさぁーいっ!」
休みだぁ? 休みってなぁ、暇って事だろ!?
「まさか、御役御免か!?」
まさか、蟹を仕留め損なったからかぁ――――!?
「まてまてまて、こんな来世で、ほっぽり出されても――生きていける自信がねぇやい!」
それに猪蟹屋の半分は、おれの120を越えるスキルが、齎したもんだ。
けど神々の面白さを知った今更……此奴らと離れてやっていく事など――想像も出来ん。
そー言う訳だぜ、迅雷!
今すぐ、お出しして差し上げろやぁ。
「(何をですか?)」
「とぼけるんじゃぁねぇ! 蟹の鋏さまに決まっとろーがぁ!」
収納魔法の『取って置き食材』フォルダに、入れてある取って置きを見せて差し上げろやぁ!
§
「シガミー。〝蟹コロッケ〟ノ試作ヲ、今すグ止めてくダさい!」
ズズゥゥン、ぐらぐらぐららり!
「ちぃっ、旨そうな匂いに釣られて皆、集まって来ちまったぜ!」
くそぅ、揚げ始めた、ばかりだってのによぉ!
五百乃大角並みに、食い意地を張りやがって――石竜子鳥共め!
おれたちの頭の上。巨大岩の天井に映し出される――
『▼』を表す赤い▼が――ドズズゥン、ドズズズズゥゥゥゥン!
ひしめき合い、たぶん……喧嘩を始めた。
「ちょっと、迅雷さーん! なんで換気フィルタが、付いてないのさ!?」
部屋を見渡し、険しい面の御神体さま。
「シガミー、この部屋は〝冒険者ギルドガムラン町支部新屋舎〟と同じ配管構造ですか?」
御神体さまを、ぶら下げたまま――ヴォヴォヴォゥゥン♪
部屋の中を飛び回る、独鈷杵・迅雷。
「いいや、〝冒険者ギルド大森林観測村支部〟の厨房の風回りが良くなかったから、風車を四カ所にも付けたぜ?」
ズズゥゥン、ぐらぐらぐららり!
揺れる、隠し部屋。
血の池のように、真っ赤になった天井の表示。
その中に一つだけ、一面の赤色とは区切られた『▼』が居る。
仲間すら寄りつかないのは、たぶん――
あの大口の奴だろうな。
「悪ぃ、何か足りなかったか?」
「いイえ、換気効率ノ為の工夫ハ、完璧デす。タだ外敵に、コの隠シ部屋ヲ気取らレる恐れがあルので、今後ハ〝迅雷式換気扇フィルター〟ヲ設置しマしょう」
「乾期栓……不意畄他ぁ?」
迅雷が五百乃大角を、ちゃぶ台に置き――
「迅雷式隠レ蓑製ノ薄網を二重にシ、そノ間に――レイダ材ヲ塗布しタ薄布を挟ミ込んでくダさい」
ヴッ――カシャン♪
そう言って取り出された四枚の板を、迅雷と手分けして風車の前に貼り付けた。
隠し部屋で料理をすると、旨い匂いでばれちまう対策は上手くいき――
『▼』共は次第に、散けていった。
§
「何だぜ? 〝休み〟ってなぁ、正月みてぇなもんかっ♪」
脅かすんじゃねぇやい、お前らさまめ。
「はイ、でスので本日こレから、好キに過ごシてください♪」
労いに、おれの仕事を代わってくれるって言う話なんだな?
「そうわよ。おにぎりの捜索は、あたくしさまたちに任せて、休日おぉー満喫してよぉねぇん♪」
口というか顔中が、揚げ物の油まみれなんだが。
迅雷、拭いてやれ。
「しかし、こんな石の下じゃ、そうやれることもねぇがなぁ」
さっきまで犇めいていた『▼』が、疎らになったが――
外に出たら、また囓りつかれそうだしよ。
しかも、一匹残った『▼』わぁ、多分〝大口〟だろぉ。
「もちろん今日だけじゃなくてさぁ、シガミーにもぉ、好きなことをする時間わぁ必要とぉ考えますのぉでぇーすぅよぉー?」
コトリと横になり、だらけた様子の御神体。
ふぉん♪
『イオノ>もちろん、あたくしさまのご飯を、忘れてもらっては困りますけれども』
飯なら試しに作った〝蟹と芋を捏ねて揚げた奴〟が、まだまだ残ってるだろぉがぁ。
食材が足りんから、本式の作り方じゃなくなったがぁ――相当、旨かったぜ。
「しかし、こりゃ参ったな、急に休日と言われてもよぉ?」
ギルドの連中やミャッドやニャミカが、それを楽しみにしていたのは知ってる。
けど、おれが生まれてこの方、何もしなかった日ってのは――
酒瓶で素っ転んだ、命日くらいのものだ。
よし、じゃぁ――「やっぱり、もう少し寝るぞぉ?」
おれぁ、まだ精魂尽き果ててる、最中だったしよぉ。
おにぎりのことは、頼んだからなぁ?
「はイ。オ任せ下サい」
「おやすみーぃ♪」
ばたーん――――おれは寝床に、倒れ込んだ。




