６７：シガミー（元破戒僧）、月と洞窟
「こりゃ、壁を蹴った方がはえぇぜ」
ストタトォォォォォオン――――ガッツガガッ――――トトォォォォォォォン！
切りたつ崖が曲がりくねる中を、進んでいく。
さざぁぁぁぁぁぁ――。
風に吹かれた雲間。
「月が出てきやがった」
兔がいねえから前世とおなじたぁ、いかねえが――良い月だ。
ヴュゥ――明るさが絞られる。
ザザァ――逆に影んなったところが、明るくなった。
投げすてた錫杖を、取りだしてみる。
ヴッ――ジャリィン♪
ほんとうに、指輪に戻ってやがるぜ。
「（〝血怨戒・襲〟は、使えるな）」
「（遅延回収です。使用したスキルポイントは３。現在、５２ポイントのスキルポイントがあります）」
わからん……またあとで説明してくれ。
はい、シガミー。
ぎら！
ジンライ鋼が、鈍くひかる。
すぽん♪
錫杖をしまって、小太刀をだす。
ヴッ――ぱしん。
ガガッ――――ストトォォォォーーーーン！
崖を蹴り、まっすぐな道にでた。
シュカッ――小太刀を抜く。
カッ――ぎらぎらり！
「（この月の光は、どうにかなんねえか？）」
刀身がギラついて、これじゃまるみえだ。
せっかく〝迅雷式隠れ蓑〟を纏ってるのに、夜襲がかけられねえ。
「（では、小太刀にも塗布しましょう。左手を小太刀にかざしてください）」
こうか？
すっと、刀身に触らねえようになでると――――まっ黒くなった。
「（波紋が見えねえ――こんなんで切れんのか？）」
「（はい。表面プラズモン共鳴を制御……構造発色に必要な厚さは…………和紙の約１／１０００とお考えください）」
「（説……いや……ちゃんと、切れんだな？）」
はい。
「（ならいい。触っても色は落ちねえか？）」
はい、白木の柄にも、塗布可能です。
§
「こいつぁ、いいな。月影であかるいてぇのに、まっ黒だ」
小太刀を柄まで、黒く塗りかえた。
錫杖は昼間も使うし、元のままでいいか。
『残り時間 ０３：００：３１』
町を出てまだ１０分くれえだ。
この調子なら姫さんたちにも、スグに追いつけんだろ。
「姫さんのＬＶが４７だったか？」
「それはリオレイニアです。リカルルの推定ＬＶは５４±１……５３～５５程度と思われます」
「なら、相当な強さだ。いったい何に手こずってんのか、不思議でならねえな。親玉の魔王って生きもんわぁ、ぶった切っちまったんだからよ」
スッタタァーーーーーーーーン、ストトォォォォーーーーーーーーン！
それが、どんなにやっかいな相手だったとしても、五百乃大角ほどじゃ有るめえ。
「あぶねっ――――シュッカン――――ばきばきばきっ!!」
横からつきでた藪に、あたまから突っこむ。
とっさに居合を放ったが、木の枝が頬をかすめた。
痛て――なんてぇとこに生えてやがんだ！
「（以前お話ししましたが、〝龍穴〟には動植物が群れる傾向があります）」
「藪の生えぎわが、〝龍穴〟だったのか」
〝活力があつまる場所〟……狩りにゃ打ってつけだが――――なんか五百乃大角もよく出そうな感じがして、あまり近よりたくねえぜ。
「（はい、そうですね。交戦の危険もある、この道中で降臨なされた場合に、危険ですからね――）」
「（――おれたちがな）」
「（上位権限により非公開です）」
ガッ、ドン――トトォ、トトトトォーン！
崖を蹴り反対側の崖を、駆けおりる。
――――すたん！
切りたつ崖の行きどまりだ。
越えていけねえこともねえが、崖の上のようすがわからねえと、降りるのに苦労しかねねえ。
「ふぅー」
走り詰めだったから、さすがに疲れたな。
金剛力、いったん外せ――跳ねる。
かっしゃ――チャキャチャカチャキャ――ブッツンッ!
細腕が、迅雷に巻きとられた。
ヴヴヴゥーーン！
迅雷が――どっか飛んでったが、放っとく。
そのへんのようすを、調べに行ったんだろ。
どかりと腰をおろしたら――迅雷が帰ってきた。
おれの髪を――くるくると巻きとり――ふたたび簪になる。
「（遠征隊の痕跡を発見しました。表示します）」
ヴォ、ヴォ、ヴォヴォヴォ、ヴォォォォォォッ――――うぬ？
目尻がひかると、赤黄緑の足跡が、あたりの地面に湧いてでた。
「（８時間ほど前に、ここを通過した遠征隊の靴跡です）」
「（便利なもんだぜ）」
「（よし、あとを追うぞ！）」
「（はい、シガミー）」
足跡は洞窟のひとつに続いている。
ここまでに何個か横穴もあったが、いままでで一番高さがあった。
「（迅雷、奥をよく見せろ）」
ヴュゥゥーーッ！
穴の奥を、近くにして見たが、動くモノはなかった。
ざっざっ――侵入すると――！
ふぉふぉぉん♪
『中級者ダンジョン
花コウモリの風穴』
（どぅぉわぁぁんー♪）
なんかの文字が出て、銅鑼が小さく鳴った。
字の感じは、〝五百乃大角印のクエスト〟と同じだ。
「（シガミー、どうやらこの洞窟は、通路として使われているようです」
たしかに足跡が奥に、続いている。
「（棲息する魔物を、狩る場でもあ――――）」
たしかに、なんかの羽根や、おれた剣なんかが散乱し――――
「（――――シガミー）」
わかってる、辺りが鈍くなった。
それはつまり――――見られてるってことだ。
表面プラズモン共鳴／正確には局在表面プラズモン共鳴。金属ナノ粒子（構造）を塗布し、可視光波長を吸収することで反射させないよう制御することで黒く見える。
構造発色／塗料を使わない材質表面形状による発色。
