669:謎エリアにて、岩盤返しの術
「シガミー、前方かラ中型恐竜ノ大群が――」
何だとぉ!?
「シガミー、こっちからも、凄く大きい奴がぁのっそりのっそり何匹も寄ってきてるわよぉー!?」
何だぁとぉっ!?
「こりゃぁ、いかんぜ!――ニャァ♪」
ふぉん♪
『シガミー>>迅雷、虎型の金剛力を使うぞ!』
ヴォヴォヴォッ――シュカン!
迅雷が虎型ふ号の後ろ頭に、飛び込んできた!
着られる強化服虎型には、金剛力を使う仕組みが入ってる。
簡単に言うなら、猪蟹屋制服に織り込まれた機械腕のもっと強力なのが――
人の形に添って、入っているのだ。
着りゃぁ鬼族なみの力を、誰でも使えるようになる。
そして、星神茅野姫の手によって作り替えられた――
このシガミーの体は、金剛力無しでも同じ事が出来る。
ならばだ。
その上に、虎型の金剛力を足してやれば。
しかも、迅雷付きの本式のを重ねたら――
おれは、おれを狙い続けている大口の隙を突いて――
ぽっきゅぽきゅぽきゅきゅーん!
横を駆け抜けた。
ふぉん♪
『>パワーアシストを使用しますか?』
おう、やってくれ!
ふぉん♪
『【金剛力モード/ON】
L>>>>>>≫H』
強化服が波打ち――ググググッ!
おれは、近くに生えてた、巨大な岩を目指す。
ぽっきゅぽきゅきゅきゅぽきゅーん――――♪
「くっきゃぉるるるるるぁぁ――――!!!」
どどっどったっ、どどっどったっ!
後ろから――『▲▲▲』
大口石竜子鳥が追ってくるが、知ったことではない。
ぽきゅすたり――おれは岩に辿り着き、その端を。
(カーソルを二つ、寄越せぇっ!)
「(はい。対象座標の複数設定には視線による、多重ロックオンが使用可能です)」
『◇』『◇』――現われた、ひし形で。
その一点……いや、当たりを付けた二点を睨みつけ――
「心頭滅却、無念無想、明鏡止水――ニャァ♪」
ふぉふぉん♪
『>>シガミー、バイタルに滅の波形が顕在化しています。滅モードを使用しますか?』
要らん、見とけやぁ!
目減りしちまう滅門戸じゃ――心元ねぇからなぁぁぁっ!
ふぉふぉぉぉぉん♪
『>多重ロックオン完了。いつでも攻撃できます。
>滅モード:OFF』
「ちょっとシガミー! 何、屈み込んでんのさっ? あの大きな口の恐竜がぁぁぁぁあぁあぁぁあぁぁぁっ!?」
「くっきゃぉるるるるるぁぁ――――!!!」
うるせぇ!
半分埋まった、そのでかい巨石を――『□』!
「でぇぇぇぇりぃぃぃゃぁぁぁぁぁっぁっ!!!!」
両の掌で、叩いた!
ぽぎゅごぉぉぉぉん――――バギッ、どごぉぉぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!
案の定、並ぶ者の居ない、その体現。
このおれの、今の体。
ただでさえ思った通りに、自在に動く体が――
星神の手により、自前の金剛力を手にし――
その上、虎型ふ号の金剛力も――同時に使う。
「ぎゃぁぁぁぁっ、シガミーなにしてんのわよ!」
ゴォォォォオッ――――!
持ち上げた巨大な岩が、おれたちを押しつぶそうと――
上から振ってくる。
「グギャギャギャッ!?」
大口が慌てて、巨石の影から逃げていく!
「ウカカカカカカカッカッ♪――ニャァ♪」
ふぉん♪
『シガミー>>こいつは、いくさ場で盾とか槍とか刀とか。ありとあらゆる物を叩き踏みつけ、持ち上げた技だぜ』
ふぉん♪
『イオノ>>た、畳返しみたいわね! 死ぬ、死んじゃう!』
「(迅雷、なんとかおしっ!)」
「(それで、どうするのですかシガミー。このままでは巨大な岩に、押しつぶされますが!?)」
慌てるな。お前らが念話で止めてくれるのは、織り込み済みだぜ!
おれは頭上の岩を、もう一度、睨めつけてやった。
ゴォォォォォォォォオォォォォォォッ――――――――!
絵で板を立ち上げ――
「喝ぁぁぁぁっ!――ニャァ♪」
ひっくり返した岩の端を、ごごごぉんと押し込む。
「ぴゃぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあっ!」
「シガミー、イオノファラー、さようナら!」
おれは岩が抜けて、空いた窪みに座り込んだ!
ドドドドドドドドドドドドドッドッズズズズズズゥゥゥンッ!!
ぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐらぐっらららららっ――――!?!?
凄ぇ地揺れ!
暗闇の中、思わず両手を付いて、耐えていると――チカチカチカッ、パァッ♪
辺りが明るくなった。
其処は、二つ目の方の、シガミー邸だ。
女神像の形の石像に、テーブルに椅子。
隣の部屋には、寝床まである。
そう、この部屋の作りは、ガムラン町の〝新ギルド屋舎〟の三階に作られた――
おれの家と、そっくり同じだ。
§
「生きてる、あたくしさまっ、生きてる!?」
歓喜の舞を踊る、根菜さま。
「おう、もし厨房ダンジョンの中で、暫く生きてねぇといけねぇ場合に――どうするかって考えて、ずっと練ってたんだぜぇ」
そうでもなきゃ咄嗟に、コレは出来ねぇ。
「これハ、シガミーノ家の間取りと同じデすね!?」
そうだ。
絵で板に用意して置いた、この間取りを――
地面の下に作り、隠れる。
〝ただ穴を掘っただけ〟――じゃねぇから、何なら当分、隠れ住める。
「ふぅぅうぅ。つ、つかれたぜ!」
おれは部屋の真ん中にあるテーブルに、突っ伏した。
虎型は脱いで、壁に引っかけてある。
まるで虎の、剥製だ。
「いやぁ、いのちびろいしたわぁー♪」
テーブルに、転がる根菜。
「どウにか、生キ延びマしたね♪」
同じく、テーブルに転がる棒。
「全くだぜ♪」
耳栓越しの画面に、表示される『▼』共が――
頭上を、闊歩している。
「さてデはこれから、どウしましょうか」
どうするも、こうするもねぇぜ。
「おれぁ、七の型を使ったばかりで――まだ無理が利かん」
ふぉん♪
『シガミー>>と言う訳で、後のことは頼んだぞ』
起きたら〝直ぐにやらねぇとならねぇ仕事〟を、ちゃんとやるから――
今は寝かせてくれやぁ――ぐぅ。
§
「イオノファラー、ゴ相談がありマす」
ごろりと転がる、棒。
「なんわの、迅雷君?」
ごろりと転がる、御神体。
ふぉん♪
『>>〝七転抜刀根術七の型〟は、精根尽き果てるまで力を出し切る大技です。しかも、今さっきの〝岩盤返し〟に至っては、5,664KW/hもの仕事量をマークしました』
ふわりと、起き上がる棒。
ふぉん♪
『イオノ>>坊主、ホント末恐ろしいけどさ。ソレが、どうかしたのん?』
よっこらせと、起き上がる御神体。
がちん♪
ぶつかり合う棒と、御神体。
「シガミーにモ、休日ヲ与えテは?」
机に突っ伏し涎を垂らす少女を、まるで慈しむかのように――
棒がヴォヴゥンと、唸りを上げた。




