667:此処は何処だぜ?
「バカやろ!――ニャァ♪」
ゴロロロロロロン、パタタァン――シュタッ♪
起き上がったときには、虎型ひ号の姿はなく――
風が吹き抜け、空は何処までも高く――
そこは見晴らしの良い、小高い丘だった。
§
「おいっ! こりゃ、外じゃねぇかっ!?――ニャァ♪」
しかも明るい、日が高ぇ!
ふぉん♪
『>はい。恐らく、村長が封鎖空間より脱出し、我々も通常空間に戻ったと思われ』
全っ然、戻ってねぇだろが!
おれたちが居たのは、ロコロ村ギルド支部の地下一階だぜ!?
厨房迷宮に入ったのも、せいぜい夜半過ぎだったはず!?
「ビステッカー! どこだぁー!?――ニャァ♪」
返事はなかった。
岩場と森が半々の、辺りの様子を覗っていたら――
すっぽこ――こここここここここここここぉぉぉん♪
とんでもない遅延の後――てちり!
「アナタの世界のよりどころっ――――やっと見つけたぁ、シガミー!」
すっとぼけた声。
根菜さまの、お出ましだ!
リオに預けていた、御神体が――
おれの画面の中を、分け身の姿で通り透け――
この得体の知れぬ場所に、顕現したのだ。
要らん芸も、時と場合によりけりだ――
「でかした根菜、良く来やがった! ビステッカが居ねぇ、探すのを手伝え!――ニャァ♪」
おれは根菜を、引っつかんだ。
「何わよっ! うるさいわよっ! ハラペ子ちゃんなら、向こうに居たわよん?」
とんでもなく、怪訝な面をされた。
ふぉん♪
『>>美の女神とは?』
「はぁ!? 向こうに居ただとぉぅ!?――ニャァ♪」
おれと迅雷は、さっきまでビステッカと一緒に居て、矢鱈と鋏が付いた奴に、立て続けに襲われたんだが!?
「(聞いてるわよぉん。おっきな蟹さんを獲ったんでしょ!? いますぐ、お見せ!)」
ソレを知ってるってこたぁ、ビステッカは本当に無事ってことだなぁ。
ふぅぃ――一安心したぜ。
「(はい。そしてどうやら、ビステッカは本物だったようですね)」
女神に引き続き眷属も、念話を使う。
コントゥル家の母娘が居ないなら、其の方が世話がねぇ。
「(おう、そうしたらレトラはどうした?)」
無事か?
「(え? 眼鏡子ちゃんは、ずっと皆と居たけど?)」
ぬぅ、本物のレトラは、ずっと皆と居たようだな。
「(はい。姿だけを封鎖空間に、利用されただけのようですね)」
さっきまで得体の知れぬ、穴蔵に籠もってたから――
吹き抜ける風が超、心地よい。
「(はぐれたのわぁ、シガミーとハラペ子ちゃんと、フッカパパとルリーロちゃんだけよん?)」
「(おっさんと奥方さまは、見つかったのか?)」
真っ青な空を見上げたら凄え高ぇ所を、羽根の長ぇ鳥が飛んでやがる。
「(二人も無事よん。あんたたちとのリンクが途絶えてから、10秒もしないうちに厨房に駆け込んできたわ)」
てちてちてちてち。
おっさんは奥方さまを、ちゃんと送り届けてくれたようだぜ。
「(となると居ねぇのは、おにぎりだけか……)」
「(どこかで破けてたとしても、卵――セーブデータさえ回収出来れば、復旧可能です)」
よし、どうなることかと思ったが――
一先ず、どぅにかなりそぅだ。
「はい! ちょぉだい!」
画面の中の梅干し大が、小さな掌を突き出してきた。
「(はい! ちょぉだい!)」
ご丁寧に、おれの手の中の奴までもが、小さな掌を突き出してきた。
「何をだぜ?」
何をだぜ?
「(蟹の鋏でしたら、収納魔法の『取って置き食材』フォルダに入れてあります)」
あー、蟹の鋏か。
「(オッケーッ!)」
おい、つまみ食いすんなよ!
その鋏わぁ迅雷が〝旨い飯にする算段〟を、付けてくれたからよ。
「(知ってるわよ。だからこうしてわざわざ、お迎えに来たんじゃないのさっ? バカわの? シガミーはバカわの?)」
うるせぇ。
要するに〝蟹の鋏を揚げた奴〟を食うために、飛んできたのか。
五百乃大角らしいぜ。
ふぉん♪
『シガミー>それで結局、此処は何処だ?』
もう一度、辺りを見渡しながら確認する。
ふぉん♪
『>>二つの月の位置から、大森林より1008㎞北上した場所であると思われます』
そりゃ、随分と北だぜ。
とおくの空、山の稜線近くに――
昼日中の月々が、浮かんでる。
けど、その割にゃぁ、寒くもなければ――
山も森も険しくねぇ。
それこそ、ガムラン町の辺りの、木々が疎らな草原にしか見えん。
§
「違ったぜ!」
ぽっきゅぽっきゅぽっきゅららっらっ――――♪
必死に走る、虎型ふ号。
「はイ、シガミー。ガムラン近郊ノ草原などデは、有りませンでした!」
ヴォヴォヴォオヴォゥゥゥンッ♪
必死に唸り、飛ぶ迅雷。
「そーわよ! 食材の――宝庫わよっ!」
ばかやろぅっ、食われちまうぞっ!
ちゃんと、虎型ふ号の頭兜の中に入ってろやぁ!
虎型ふ号の、頭の上。
大きな頭の上までは、満足に手が届かんので――
「(迅雷ぃ――!)」
「了解しまシた――すぽん♪」
ヴォヴォヴォヴォゥゥゥゥンッ♪
迅雷が御神体を、回収してくれた。
「「「「「「「ぐぅぎゃるぉぅわぉぉぅぅ――!」」」」」」」
凄まじい怒声に、振り返れば――
大口を開き、獲物に食らいつかんとする――
身の毛がよだつ姿をした奴らの――群れ。
おれたちは、とんでもなくでかい、そいつらに――
追い立てられていた!
その姿形。あんなのに心当たりは、まるでねぇ。
ガムラン町でもレイド村でも、ネネルド村でも大森林でも――どこでも。
「少なくとも、日の本にゃ居なかったぜ! あんな恐ろしい姿の奴ぁああよぉぉぉっぅ!?」
たまに狐狸妖怪に、化かされること位はあったが――
彼処まで悍ましい姿をした生き物わぁ、そうそう居ねぇ。
それこそ、〝ミノ太郎〟くらいだぜ。
「いイえ。シガミーが生マれる、約7200万年前ニ日本にモ棲息していマした」
嘘つけやぁ――!
「あんなでかくて厳つい鳥が、日の本に居てたまるかってんだぜ!」
ぽっきゅらぽっきゅらぽぽきゅららららららららっららららっぁぁぁ――――♪
「くっきゃぉるるるるるぁぁ――――!!!」
先頭の一匹目が――ガチンと牙を鳴らす!
それは、石竜子のような面をした――
鳥が歩く――いや、走るときの姿勢。
どったどどった、どどった、どっどっどったっ!
その体の大きさで、追いかけ回されりゃぁ――
ぽっきゅらぽっきゅらぽぽきゅらららららっ――――♪
いくら虎型でも、追いつかれちまわぁ!




