６６３：厨房ダンジョンＬＶ２（裏）、おにぎりのしっぽ
「おにぎりーっ、もう、脅かさねぇから出てこぉーい！――ニャァ♪」
声を張る。子供の声だが、読経で培った、がなりをすれば――
近くに居た虎型ひ号が、耳を押さえて蹲るほどには――
大声を出せる。
「（みゃぎゃにゃぎゃやー？）」
どっか遠くから、声がしたぞ？
「そういや、おれたちが強化服越しに喋った猫語は――おにぎりにわぁ、ちゃんと聞こえてんのか？」
「ソの筈デす。猫族共用語トは若干ノ意味合いのズレが有ルようですが、基本的ニは意思疎通が可能ト思わレます」
うーむ。お猫さまや顧問氏にも協力して貰って、その辺はちゃんと通じるようにしたい気がするぜ？
ふぉん♪
『＞＞ではＴＯＤＯリストへ』
〝後でやること表〟が、何頁にもなっていたから――
『×』牡丹を押して、そっ閉じした。
「にゃにゃにゃにゃやーっ――ニャァ♪」
虎型ひ号が猫なで声で、おにぎりの声がした方へ進んでいく。
あーもー、どうして女子供は、猫が大好きなんだぜ？
ふぉん♪
『＞＞わかりかねますが、あの長さに感銘を受けるのではないでしょうか？』
長さか……お猫さまは確かに体が、とんでもなく長えわなぁ。
おにぎりも、どちらかと言えば胴が長ぇか？
まぁ、嫌われてるよか、余程良いが。
仮にゴーレム並みに、おにぎりが嫌われていたら――
猪蟹屋は、とっくの昔に潰れていたかも知れん。
「シガミーちゃん！ 尻尾！ 尻尾が見えましたわっ――ニャァ♪」
無謀にも、通路の一つに飛び込む、虎型ひ号！
「はかやろっ――ニャァ♪」
虎型ふ号も後を追って、通路へ。
ぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅむーん♪
「シガミーちゃん！ 捕まえましたわよ！――ニャァ♪」
虎型ひ号が、うねる通路の先で、うねる何かにしがみ付いていた！
「お前さんはよくも、そんな得体の知れぬ物に触れるもんだぜ――ニャァ♪」
ビビビーといい、此奴といい――どうして、この歳の女の童は――
こうも、怖い物知らずなのか。
ふぉん♪
『＞＞まさに、〝怖い物〟を知らないからではないかと』
ふぉん♪
『シガミー＞＞うむ。そういうことだなー』
「まったく！ よいしょぉ――ニャア♪」
おれも、ぐねぐねとうねる――
黄緑色の其奴を、引っ張ってやった！
「（にゃぎゃぁー!?）」
おにぎりの鳴き声と――ぽきゅすってんごろん♪
転がるような音が、通路に響いた。
その直後、ひゅるるるる、ずざざざっ――――！
素手だったら両手でも、つかみきれないほどの太さの――
尻尾らしき物が、凄い勢いで引っ張られた！
「やべぇ、逃げられる――ニャァ♪」
おれは、必死に飛びついた！
ずざざざざっ、ざざざざざざざざっ――――!!
「シガミーちゃん!?――ニャア♪」
手を放していた虎型ひ号の声が、遠ざかる！
その場に取り残された強化服へ向かって、おれは足を伸ばす――ふぉふぉん♪
『＞＞足の長さ：変えられます
＞伸ばしますか？ Ｙ／Ｎ』
ふぉん♪
『シガミー＞＞伸ばせるだけ伸ばせ！』
「つかまれやぁ！――ニャァ♪」
ぐん、ぐぅん、ぐぐぅぅうぅーん♪
伸びる虎型ふ号の足。
ずざざざざざざざぁぁ――地を走る尻尾が、止まる気配はない。
「わっ、まってまってぇー――――きゃっ!?――ニャァ♪」
ぽっきゅぽぽきゅぽきゅ――がっし！
辛うじて、おれの足にしがみ付いていくれたか。
後ろを見ると虎型ふ号の足が、５シガミー程に伸びていた。
ふぉん♪
『＞＞膝下を７メートル、リフトアップしました』
すざざざざざざざざざあざざぁぁぁぁぁっ――――「きゃぁぁぁぁ!?」
尻尾に、引きずられるおれ。
虎型ふ号が伸ばした足に、引きずられる虎型ひ号。
「ビステッカはちゃんと釣れたから、もう戻せ戻せ、重いわぁ！――ニャァ♪」
曲がりくねる通路に引っかかって、虎型ふ号が千切れそうだぜ！
きゅきゅ、きゅぅぅぅぅーぃん♪
ふぉん♪
『＞膝下のリフトアップを、解除しました』
ぼぽぼこむん、ずざざざあざぁぁ！
虎型ひ号が通路に、ぶつかりまくってる。
「手を放すなよぉ！――ニャァ♪」
きゅきゅ、きゅぅぅぅぅーぃん♪
「大丈夫ですわぁ！――ニャァ♪」
「し、シガミーちゃん！ 足は大丈夫ですのっ!?――ニャァ♪」
「心配要らん、伸びたのは虎型の足だけだぜ！」
「よかったーですわー！――ニャァ♪」
顔のない虎柄の奴が、必死にしがみついてくる。
ちと怖ぇが、振りほどく訳にもいかん。
ふぉん♪
『シガミー＞＞この先の様子、おにぎりの状態を確認出来るか？』
ふぉん♪
『＞＞現在、高速移動中のため、ドローン展開に必要な空間が確保出来ません』
駄目か。
「おにぎりー、とーまーれーやぁー！――ニャァ♪」
もう一度、止まれと言ってみる。
ふぉん♪
『＞＞今は、おにぎりに引きずられましょう』
そうだなぁ。
ずざざざっ、ぽごぎゅむん♪
「痛ぇっ！――ニャァ♪」
通路の曲がり角で揺さぶられ、虎型の肩が尻尾の下に食い込んじまう。
こりゃ、駄目だ。
「大丈夫!?――ニャァ♪」
虎型ひ号が、おれの体の上に、よじ登った。
ビステッカが無事なら、良しとするぜ。
下手に動くと虎型ひ号の手を、振りほどいちまいそうだ！
この通路が何処まで、続くのか知らんが――
流れていく通路の天井でも、眺めるとするぜ――
天井に時々、丸穴が見えた。
其処を通る度に、「ボーワァ、ボボワワァ！」と風音がしやがる。
「ボーワァ、ボボワワァ！」
まったく――
「ボーワァ、ボボワワァ！」
どこまで――
「ボーワァ、ボボワワァ！」
つづいて――
「にゃにゃ、にゃぎゃぁ♪」
やがるんだぜー。
「ボーワァ、ボボワワァ！」
――――!?
丸穴から此方を、見下ろしていたのは――まさかの黄緑色！
「居たっ、おにぎり！――ニャァ♪」
じゃぁ、この尻尾わぁ――――誰のだぜっ!?
黄緑色のひょろ長わぁ――おにぎりじゃねぇー!!!
慌てて手を放したが――――ずざざざざざざぁ！
通路は終わり――――すっぽーぉん！
空中に投げだされた、おれたちは見た。
「きゃぁあぁぁぁあっ!?――ニャァ♪」
「ぅうおおぅわぁぁっ!?――ニャァ♪」
おにぎりの尻尾だと思ってた奴が、とおくの方の横穴に引っ込んだ！
そして別の横穴からは、別のおにぎりの尻尾が、ひゅるんと飛び出してきた！
「ぎゃぁぁっ、おにぎりちゃんの尻尾じゃない!?――ニャァ♪」
ジタバタする虎型ひ号。
「何だぜ彼奴ぁ、尻尾も頭も尻尾だぜ!?――ニャァ♪」
空中をもの凄い速さで飛び交うそれは、黄緑色の太紐みたいな奴らで。
「通常、おにぎりニ尻尾は、生えてイません」
ふぉん♪
『＞＞〝極所作業用汎用強化服群／シシガニャンシリーズ〟に尾を生やす場合がありますが、ソレが出来るのは基本的にイオノファラーだけです』
くそう、ビステッカが「尻尾だ」って言ったから、何かそんな気がしちまったんだよ！
「だからぁ、そういうことわぁ――先に言えやぁ！――ニャァ♪」
虎型ひ号が脇腹から毛皮柄の機械腕を伸ばして――
虎型ふ号の背に、ぽぎゅむと取り付いた。
ひゅおぉぉぉおぉぉぉぉっ――――！
底は薄暗く、よく見えん。
辺りに魔法具の類いは、見当たらないが――
「滅せよ！」
すると――チカチカチカチカッ、パアァッ！
また辺りが、明るくなった。
其処は巨大な、すり鉢のような形。
その真ん中で、大口を開けているのは――
「化け物!? いや蠍か!?――ニャァ♪」
鋏のような巨大な鋏の間に――目玉がある。
ってぇこたぁ、ありゃ鋏じゃなくて大顎かっ!?
虫みたいな奴だってのわぁわかるがぁ――でかすぎらぁ！
「きゃぁあぁぁぁあっ!?――ニャァ♪」
ふぉん♪
『シガミー＞大丈夫だ、おれが付いてる！』
一行表示の見方を級友どもは、皆知ってる。
ふぉん♪
『＞＞シガミー、直下の生物は、蟻地獄と酷似した特徴を持っています』
ふぉん♪
『餌食の蟻地獄／
巨大な顎と腹部を持つ、六足。毒有り。
落ちてきた昆虫などを捕食し、活力へと変換する。
強靱な顎を使い、罠となる地形を作り上げる。
食べられるところはないが、大顎は武器素材として優秀。』
蟻地獄!? 嫌な地獄だぜ！
「毒があるなら潰しておくに、超したことはあるまい――」
おれはぐるんと体を捻り、真下に居る地獄を見た！
