659:厨房ダンジョン、禁じ手・滅の太刀
ぐびぐび、ごくごくり♪
「ぬを、旨ぇ?」
何だぜ、この味わぁ?
澄み酒とは、比べるべくもないが――
迅雷、この村長がくれた解毒薬。
この味を、出せる様にするから――
〝やること一覧〟に、入れといてくれ。
ふぉん♪
『>>了解しました。では蠍を格納します』
迅雷が蠍を、ひと突きしたら――
ガシャラララララララッ――――ゴゴガガガゴォォォッォォン♪
突然、落ちてきた鉄板で倉庫入り口が、塞がれちまった!
「ぅをぉわ!?」
残響で、頭が揺さぶられる。
よし戻るぞ迅雷。
向こうの様子も心配だ――チキッ♪
仕込み直刀を、開ける。
「チイィェェェェイッ――――!!」
シュガァン、ゴンッ、バガガガァァンッ!!
斬れた鉄板が、ひっくり返って――危ねぇ!
すぽん♪
危ねぇから、こいつも仕舞っておく。
倉庫を出ると、其処は――「んなっ!?」
そこは通路ではなく――
「こりゃ、どうなってる!? 厨房がねぇぞぉ!」
しかも足下には、鉄板が倒れたときに出来た、床のひび割れ。
ついさっき見たばかりで、見紛うはずもない。
そこには、今出たばかりの倉庫と、同じ間取りの部屋があった!
振り返れば、やっぱり同じ倉庫がある。
「迅雷――!」
「情報ガ不足シています。壁や床天井ヲ破壊してミて下サい」
そうだな。
まずは、えっと――こっちか?
二つ目の倉庫に面した壁を、壊すか!
「どっせぇーい!」
「どっせェーい!」
木箱と棚を迅雷と手分けして、ざっと退かした。
「よぅし。錫杖だと柱まで斬っちまいそぅだから――」
すぽん――ヴッ♪
錫杖を仕舞って、小太刀を取り出す。
ガガンと床を、踏みしめる。
鉄下駄の据わりは、悪くねぇ。
おれは錫杖を構え、腰を落とす――一気に行くぞ。
ヴォォオゥウン♪
画面隅に光る――『滅モード』
どうせ、おれが作った厨房だ。
壊しても又、作り直しゃぁ良い――ガチリッ♪
ふぅーーーーっ、息をととのえる。
「七天抜刀根術、零の太刀。」
本来、技の名は無ぇ手習いの居合い。
七ある根術の型で言うなら、零の型。
その切れ味で言うなら、さしずめ〝滅〟の太刀。
「チィエェェェェエィッ――――!」
からだごとぶつかるように、切先をふりぬいた!
しゅっかぁ――――ん♪
しずかな剣筋。
――――ィィィィッン!
切先がいつまでも鳴っている。
町中じゃ撃つなと言われてる、禁じ手。
退かしきれなかった木箱や棚ごと、横薙ぎに壁を撃ち抜いた。
ボゴガガガガッガッガッガラララッララドシャンッ――――!!
大きな壁一面を切り裂いた、零の太刀。
暗くて、良くは見えんが――
崩れた壁の向こうには、やはり此方と同じような部屋がある。
だが此方の荷物は退かしたが、向こうの倉庫の荷物は、当然――
置いたままだった訳で、木箱や棚や食材や鉄鍋なんかが散乱している。
とても人が踏み入れられるような、感じではない。
いやまて、威力が足りなかったのなら?
「滅せよ!」
足せば良いのだぜ!
すると――チカチカチカチカッ、パアァッ!
崩れた壁の向こうが、明るくなった。
「吹き飛びもせずに、灯りが灯ったぞ?」
物が見えて、助かるが――どうしたことだぜ?
この部屋は、二つ目の倉庫ではなかった。
入り口の辺りに、ひび割れた床がある。
「はイ。元ノ三つ目ノ倉庫の裏返しデす」
特別製でも、偽の封鎖空間とやらは――
やはり同じ物の、繰り返しで出来ているようだぜ。




