65:シガミー(元破戒僧)、よるを疾走る
「姫さんたちが無事ならいいが――」
星も月も出てねえ町を、はや足ですすんでいく。
街灯の灯りで少しはみえるが金剛力で、かっ飛ぶには足下がおぼつかねぇ。
ふぉん♪
『>暗視モード/ON
>アクティブトラッカー/ON』
ヴュパァァァァ――――カッ!
街頭がつよく輝いたとおもったら、辺りがあかるくなった。
まるで昼間とかわらねぇ。
「おおおお? すげえな!」
ヴヴュ――ゥン?
顔を振るとざらつくが、じゅうぶんだ。
目をこらすと、ちかくの家の中に、ひとの形の縁取りが見えた。
これはたしかに狩りに、うってつけだ。
「(リオレイニアの仮面にも搭載しました。使用中は絶えずエネルギー消費されますので、神力の減りが少しはやくなりますが)」
「迅雷の飯も、持ってきただろ?」
角張った神力棒は出しとかねえと、いざってときに使えねえらしいから、せなかに背負ってる。
「(はい、パワーアシストをつかって件の砦までは片道1時間。並の魔物に遅れをとることもありませんし、モバイルバッテリー……神力棒がなくても若干の余裕がみこめます)」
小太刀を振ったくれえじゃ倒れなくなった。
金剛力をつかえば道中の魔物に手こずるこたぁねえ。
「節約の必要はねえのか……金剛力は出し入れん時に神力をつかうんだったか?」
「(いえ、オンオフのある……緩急のついた動きをつづけたときの神力消費が、いちばんおおきいです)」
緩急……姫さんあいての猿まわしか。
温存しときてえが、一刻をあらそう――金剛力。
ブブブブッキャチャカチャキャチャ――ぱしゃん!
細腕が、おれに巻きつく。
§
現在時刻が、深夜1時55分。
LVを滅多矢鱈に寄こす、五百乃大角印のクエストが――『残り時間 03:14:10』
「この『残り時間』に、まにあわせるぞ」
そうそううまくはいかねえだろうが、もしうまくいきゃあ、また一息とびにLVがあがって金の板(LV40以上)にとどく。
「(はい。それならばレイダとリオレイニア両名との約束にも、間にあいます」
おれたちは、あさ一番にあつまって、先遣隊への兵糧を用意する手はずになってる。
リオは先遣隊に志願しそうなもんだが、我慢してたな。
「リオが志願しなかったのは、なんでだ?」
「(リオレイニアの従者としての――矜持と思われます)」
従者……まだ何もわからねえのに助けにはせ参じるのは、〝主人を信じられねえ〟不届き者ってわけか?
「(いいえ。リオレイニアの現パーティーリーダーは、シガミーです)」
§
「(じゃあ、いくぞ迅雷)」
周囲に人影はねえ。
「(はい、シガミー)」
たたっ――トォーン――ぴたり。壁に手首や肘の腕がはりつく。
冒険者ギルドの裏手には、窓がひとつだけあった。
まどにとりつくと手首から指をつたって、さらにほそい腕がはえた。
「(さし込んだまま、下から上にうごかしてください)」
小せえ閂を――
ギシシ――かちり。
きぃぃ。窓をあけ、しのびこむ。
すとん、トォ―――ン、トトォ――ン、すたん。
「(きたぞ。女神像なんかで、なにしようってんだ?)」
「(〝なんか〟、ではありません。イオノファラー像です)」
チチチィーッ、カリカリカリッ――――ビュパァン♪
「(おい、うるせえぞ? 職員に感づかれちまわぁ)」
女神像の背中箱のひとつに潜りこんだ迅雷が、奇怪な音をだしやがる。
ふぉんふぉふぉん、シシシシッ。
ふぉふぉふぉふぉふぉふぉっふぉ――――
なんかの羅列がながれる。
はやくて読めん。
ヴュパッ♪
そのなかから、ひとつが選ばれ――おお写しにされる。
『ArtifactObject#53ーーSignalLost』
どっちにしろ読めん。わからん。
「(――リカルルが使用した、アーティファクトは全部で13点。うち使用中の物が10点。そのなかの一点が、リンク途絶しています)」
「(説明)」
「(リカルルのフルフェイスガード……狐の面が破損している可能性があります)」
「そいつぁ――――魔物にやられたかもしれねぇってことか?」
背筋をつめてぇ風が薙ぐ。
「(もしくは先日の交戦時に発生した火災による、機能不全とも考えられます」
まさか、おれの〝焔の印〟か――――けっこう燃えてたしな。
「(いやいやまてよ、迅雷が仮面だか、目のひかる筋だかを乗っとったのが原因だろ――――)」
「(いえ、ハッキングによる弊害は――――」
「じゃあ、冒険者カードの再発行のかたは一列に並んでくださぁ――――」
がやがやがや、どやどやどや。
――――っぶねえ、とっさに天井に張りついてみたら――張りつけた。
たれさがる髪を、黒くて細い腕がまきとっていく。
かちゃかちゃかちゃかちゃ――――――ずずずずずぅーっ、ざざざざざぁーっ。
天井を無数の腕が、這いすすむ。
冒険者どもをやりすごし――――音もなく降りる。
あけっぱなしだった窓からとびだし――がちゃり。
外から閂をかけた。
「(あーぶなかったぜ!)」
みつかったらいろいろ問いつめられて、町のそとに出られなくなっちまうところだった。
トトォーーン、トトトォーン。
トトトォン、ストトォーーン。
町の中心から外縁まで十五歩。
「(あの無敵の姫さんが、そうそうやられるかよ。大丈夫だ)」
「(つい先日、シガミーと私により、かえり討ちにあったばかりですが?)」
話を、まぜっかえすんじゃねー!
助走を付け――――トォォォォォォーーーーン!
いつも貝釣りをしてる城壁をとびこえ、一気に岩場へ突入した。
閂/扉を施錠するための横木。うち鍵。




