647:厨房ダンジョン、美の女神たち
「ばっきゃろぉぅぃ! 駄目だ駄目だぜ! おれぁ、絶対に戦わねぇからなぁ!?」
ヴッ――――くるくるっ、じゃっりぃぃぃぃぃぃぃぃぃん♪
錫杖を取り出し、木箱へ飛び込もうとしたが――
一足遅かった!
ヴォヴォヴォヴォゥゥゥゥゥンッツ――――♪
『(Θ_Θ)』、『(Θ_Θ)』、『(Θ_Θ)』
くるくるくるるると、空中を漂う浮かぶ球。
ヴュッパパパァァッ――――♪
球を覆い隠すように、人のサイズの五百乃大角の姿が現れた。
「さぁ、本気で行くわぁよぉぅ♪」
やや腹の出た女神の姿は透けていて、後ろの木箱が見えている。
五百乃大角の生身の姿、それはあどけなさが残るものの――
中々に整っていた。
美の女神であると言えば――「そうなんですね、わかりました」
と返事をしてしまう程度には、美しいと言える。
それは二人の令嬢たちと比べても、決して引けを取らない程なのだが――
「ウケッケケケエッケエッケウケケケケケケケェーッ♪」
それも中身が、伴っていればこその話だ。
怪しく発光する、妖怪・美の女神。
ヴォォゥ、ヴォォゥ、ヴォォォォゥ。
呼吸をするように、怪光が脈打ち――
ヴォヴォ、パァァァァアァッ――――♪
まるで本当に、そこに居るかのように――
色を濃くしていく。
「「「ウケッケケケエッケエッケウケケケケケケケェーッ♪」」」
空飛ぶ球たちは、ほぼ五百乃大角の生身の姿と化した。
「何て神々しい」「あら、居らしたのねイオノファラーさま」
「ぉぅぃいぇぇ!?」「ぅぃやあぁぁあぁぁぁぁああっ!?」
「あ、イオノファラーさまだ♪」「今日は三匹も、ご降臨なされて……きれい♪」
美の女神の本当の姿(神々の世界での実存は又別にあるのだが、そこまでは変わらん)を目の当たりにした人々の反応は、実にまちまちだった。
「やい、美の女神|(笑)さまめ! おれぁ金輪際、ミノ太郎とやり合うのだけは――御免蒙るぜ!」
錫杖を構え、息を吸う。
「三の構――」
おれが錫杖を構えた途端――ヴォヴォヴォヴォゥゥゥン♪
ゴッツゴツゴツゴツツン――――!
美の女神三人が、足で木箱を蹴り始めた。
「ぎぎぎぎゅにるるっ!?」
卵を抱え、恐れ戦くファロコ。
「ちっ、この惡神さまめっ!」
木箱と映像が、ゴツゴツゴツゴツと――
奥にある倉庫へ、逃げていく。
ふぉん♪
『シガミー>>あれ、どーやってんだぜ?』
ふぉん♪
『>>映像に合わせて機械腕を伸ばし、木箱を押していると思われます』
悪知恵ばかり、良く回るぜ!
「「ミノタロー?」」
子供らに、聞かれちまった。
何がどう卵の中身に影響するかわからんから、聞かせたくなかったんだがぁ――!
「シガミーちゃんが倒したっていう、〝つののはえたまもの〟ことかな?」
大人しい子供も歌だか絵本だかで、ミノ太郎のことは知っているらしい。
「えっ、ミノタウロース!? まさかっ、あの一口食しただけで、一生自慢出来るっていう!?」
大食らいの子供も食い道楽連中の噂話ででも、耳にしたことがあるようだぜ。
ふぉん♪
『シガミー>>やい五百乃大角、マジで勘弁しやがれやぁ! ミノ太郎とだけは、二度と戦わんぞ!』
虎型も轟雷もなしの、生身だったとは言え――おれぁ、脇腹を貫かれて死んだからなっ!?
ふぉん♪
『イオノ>>構いませんよ。料理番であるシガミーに戦って頂かなくても、いまこの場には、ガムラン最凶母娘に人類最強母娘でしょ、それと勇者のなり損ないに悪逆令嬢と、LVカンストのシガミーに土を付けた獣娘ちゃんまでいるんだもの♪』
くるくるくるり、ヴォヴォヴォゥゥン♪
振り返る、美の女神たち。
ふぉん♪
『>>シガミー。イオノファラーが暴徒鎮圧用のゴムスタン弾を装填しました』
仁王立ちの、美の女神三人衆。
その顔の辺りが、ヴュザりと揺らぎ――
『(ΘoΘ)』『(ΘoΘ)』『(ΘoΘ)』
蛸みてぇな銃口が、透けて見えた。
ふぉん♪
『>>シガミー、気をつけて下さい』
はぁ、あんな遅い丸に当たるもんかぃ。
ネネルド村では返り討ちに、してやっただろうが。
ふぉん♪
『>>いいえ。ブロジェクションBOTではなく、本体の方に注意して下さい』
はぁ? 本体だぁとぉー?
卵に張り付いてる方の、美の女神|(根菜)を見たら――ヴォオォゥンッ♪
『イオノファラー/累計
■■□□□□□□□□21%』
その頭上の枠が、ぐぐーんと増えてやがった!
まさかあれ、三人分足されてねぇだろうなぁ!




