644:冒険者ギルド大森林観測村支部、イイスタァエッグ?
ちなみに厨房は、さっきの多目的宴会場の一階上にある。
リカルルたちが降りてきた鉄籠は、厨房真ん中に鎮座していて――
正直、使い辛ぇが――「この階ならまるごと、ご自由に使って頂いて構いませんわ♪ うーふふ?」
と商会長さまに言われては、そうするしかなくて結局こうなった。
「あら珍しっ! ちょっとバクチ! この卵、ドコで見つけてきましたの!?」
ツカツカと進み出る、最凶なご令嬢。
背後から、そう声を掛けられた盗賊が飛び上がり――
曲がっていた、背筋を伸ばした。
「正直に仰い、今なら痛くしないからっ!」
おれが出してやった張り扇を腰の辺りから、するりと抜き放つ悪逆ご令嬢。
「へぃ、おかしらぁ。貝が取れる辺りの岩山に出来てた穴に、すっぽりと挟まってたんでさぁ!」
威勢が良くて、この盗賊はやはり嫌いではない。
進んで仲良くはしないが――
ふぉん♪
『>シガミー、貝が取れるという食材情報を習得しました』
おう、色んなことが済み次第、おれたちも貝釣りにでも行こうぜ。
スパ――――パッコゥゥォォォォン♪
耳を劈く快音!
盗賊バクチの毛のない頭から、黒煙が立ち上った!
「サーを付けなさいと何十年言ったら、おわかりになりますのっ!?」
爆発魔法を使いやがったなー、ハリセンの先が黒く焦げてるぞ。
ふぉん♪
『イオノ>いま誰か、おかわりって言った? ねぇっ、あたくしさまにもおかわりを!』
やかましぃ――すぽん♪
おれは根菜を引っつかんで、迅雷の収納魔法に格納した。
お前さまは、そこで迅雷が言ってた何とかを、直ぐに出来るようにしてくれやぁ。
ぶふぉわわぁ――倒れた盗賊が、口から白煙の輪を吐いた。
中は生煮えだから、回復薬でも飲ませときゃ良いか――ヴッ♪
おれは倒れた盗賊に、軽く手を合わせてから――コトリ。
小瓶を眉間の辺りに、そっと立ててやった。
「ろ、ロットリンデは知ってるよね、このファローモの卵のこと?」
村長が村長語も忘れて、困惑している。
「ええ、ですけど、私が知っている〝イースターエッグ〟という名を冠したアイテムは――卵の形をしていませんでしたわ?」
若くもないが年寄りでもない、美しさの中に品格と底意地の悪さが見え隠れするような――
そんな悪逆ご令嬢の小首が、かたんと傾く。
確かに、ちと、ややこしいことになってきたぞ。
「ぎにるるるるるっゆ?」
『Θ』をした二股角娘が、いつのまにか木箱に入り込み――大卵を、しっかりと抱えている。
迅雷が大竈まえに映し出した、上級鑑定結果。
ソレを見た村人たちが――雑然としだした。
「「「「「お宝じゃん、ァハァン♪」」」」」
と色めき立つのは――
「「「「「「「「ォゥィエー♪」」」」」」」」
ファンキー・フカフ村から来た、丸い頭の陽気な連中。
「けどぉ、ファローモの子供に、もしものことがあればぁ――大森林観測村は、壊滅よねぇー?」
頬に手を当て、困った顔の商会長。
同じ村人でも此方のグランジ・ロコロ村の、髪が長い連中は――
「「「「「「「「「「「「「「「「ファロちゃんの妹か弟かぁ、きっとかわいいよぉなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぅぃやぁあ゛ぁああぁっぁぁっ――――――――――♪」」」」」」」」」」」」」」」」
ファロコの側に付く、つもりらしい。
凄ぇうるさかったから、一緒になって「ぅぃやあ゛ぁあぁー♪」してる針刺し男を――すっぱぁぁんっ♪
かるく、引っ叩いておいた。
「ですからアレは――建国の龍の再来と言ってますのよっ!」
カツンッ――釘のように尖った踵を鳴らし、チリッ!
イラッとした視線を、おれたちに投げかける――
悪漢紛いの立ち振る舞い。
後ろに兵六玉を張り付かせた、ガムラン代表が気を吐いた!
「「「「「「「「「「「「「ひゃひゃぁーい♪」」」」」」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「「「「チェックワンツー♪」」」」」」」」」」」」」」」」
蜘蛛の子を散らすように、散り散りに逃げていく村人たち。
ふぉん♪
『シガミー>誰でも良い、説明してくれ――解析指南!』
ふぉん♪
『解析指南>>結論から言うなら、イースターエッグはファローモ幼体が入った卵ではありません』
「おい、それはやっぱり、お前の卵じゃねぇってよ!」
そう言ってやったら――
「るるぎゅぎゅぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃぃぃぃっ!?」
『(Θ曲Θ)』
歯をむき出しにして、威嚇された。
「だから、そいつぁ――おれたちが、ついこの間倒した、『おうさまと、りゅうのまもの』に出てくる、龍そのものなんだぜ!」
ふぉん♪
『解析指南>>いいえ。木属性における最高位種である、ドラゴンの種でもありません』
ふぉん♪
『シガミー>>はあ? 違うのかよ!?』
「ぎぎるぎみーぃ!?」
唸る子供。
「ちがうよ、それはファロコが生まれた卵に、そっくりじゃよぉ!」
叫ぶ大人。
「いや、ちょっと待て――」
迅雷、解析指南が言ってることを、鑑定結果の横にでも映してくれ。
ふぉん♪
『>>では適宜、表示内容を校正して表示します』
「今から、女神の料理番だけが使える――超上級鑑定結果を映し出すから、見てくれっ!」
手を上げて、そう大声で告げる。
ふぉん♪
『リオレイニア>よろしいのですか、神々の知識をそう易々と披露してしまっても?』
ふぉん♪
『シガミー>かまわん。いざとなったら五百乃大角に、丸投げする』
下っ腹が出ていても、彼奴は頓知が効くからな。
ふぉん♪
『解析指南>>イースターエッグに関する記述は、更新されている可能性があります。電子書籍『シンシナティック・ニューロネイション超攻略絵巻読本』を最新バージョンへ更新し、〝第11章:全アイテム一覧〟を再検索して下さい』
こいつぁ見せられねぇな。
おい、五百乃大角、それ早くやっとけ!
ふぉん♪
『解析指南>>〝イースターエッグ〟の中身は、SSS級レアアイテムであることが確定しています』
ふぉん♪
『>>これは、イースターエッグに対する記述だけですので、そのまま投影します』
ヴォォゥン♪
『超上級鑑定>〝イースターエッグ〟の中身は、SSS級レアアイテムであることが確定しています』
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「SSS級レアアイテム!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
目の色を輝かせる全員。
長大なアダマンタイト鉱石に、匹敵するほどのお宝ってことか。
ガムラン町だったら、血の雨が降っていたやも知れん。
「SSS級レアアイテムって言ったら、ジュークのジューク箱と同じくらい貴重ですわね?」
「なんだって!? おかしらぁ――その話は本当か!?」
盗賊の一人が湧いて出た。
悪逆令嬢は、本当に盗賊の親玉らしいぜ。
ご令嬢は、思っていたよりは……悪党かも知れない。
「おい、村長の村長箱って、金さえ入れりゃ何でも叶うやつだろ?」
がやがやがやがやがやがやがやがやがやがやや――――!?
ん? 急に村人どもが、殺気だって来やがったぞ。
ヴォォゥン♪
『超上級鑑定>先着一名、手にした者のみが獲得出来る可能性があります』
「はぁ? 先着一名だとぉぅ?」
可能性って、何だぜ?
手にしたら……手に入るだろうがよ?
てちてちてちてち、ひょこひょこ、ぐぐぐぐっ――すぽん♪
おれの画面を横切る邪魔な奴は、梅干し大の五百乃大角の分け身。
やい、五百乃大角、お前……料理の本なんか引っ張り出して、どうした?
迅雷に言われた、何たらの仕事をしろよ?
「ににるぎーぃ!?」
卵と二股角の少女が入った木箱に視線が集中する!
「そういえばぁ、すっごい昔に難攻不落のSSS級ダンジョンの最下層を目指したことがあったんだけどさぁ――とうとう私だけになってさぁ、必死に逃げ帰ったことがあったわぁねぇー、きゃはぁ☆」
コロコロと笑う、うら若き乙女のような――巫女装束。
「きゃはぁ☆」ではない。
齢200歳の内訳が前世と来世で、どうなってるのか。
そのへんの年齢にまつわる、詳しいことは聞けてねぇ。
おれを含んだ、日の本からの転生者全員の身を――
危険に晒しかねない重要ごとを、気軽にペラペラ喋りやがって!
「それ聞いたことありますぜ、辺境伯名代さま」
鉄籠の下から、小柄な大男が姿を現した。
「ウカカカッ♪ 工房長、そっくりだぜ!」
いけねっ、あまりにも似てたから、つい笑っちまった。
「工房長だとぉー? そんな出世をしたやつぁ、ガムランの俺の甥っ子ぐれぇだぜ?」
蓄えた髭を撫でる仕草まで、まるで同じで――
リオレイニアが調理台の角に、頭をぶつけた。
§
「俺はワーフと申しますぜ。この村で冒険者をしつつ鍛冶工房を営んでるますぜ」
片膝を突き、辺境伯名代へ、ぎこちない礼をする。
その背中には、巨大な……鉄杭か?
あんなのを背負って、よくも狭い鉄籠の下に潜り込めたもんだぜ。
ふぉん♪
『>あれもラプトル王女殿下の〝万能工具〟や、ノヴァド工房長の〝金槌〟に類する物と思われます』
ああ、おれの新しい手甲同様、相当なスキルを有した魔法杖だろうな。
「たしか発見者の欲しいものが……中から出てくるという噂を、聞いたことがありますぜ?」
ソレでは確かに、村長箱そのものだ。
「そう、たしかそんなだった! 当時の王様がぁー、ご病気でさぁー。そんな噂に総力を挙げて、挑んだんだぁけぇどぉねぇー」
「ねぇー」と魔法杖が入った収納魔法具に、話しかけてやがる。
ふぉん♪
『>ノヴァドやワーフ氏のようなドワーフと言う種族は、ルリーロほどではないにせよ、長命なようです』
長生きするのが他にも居るから、そこまで悪目立ちせずに済んでたってことか。
「一度は諦めたSSS級のお宝ぁ、クツクツクツクツクツクツ――――ココォォォン♪」
イナリィの字を残す――妖怪化け狐。
その口が、あり得ねぇ程に裂け――
手近にあった鉄鍋を、頭に被った!
「みゃぎゃにゃにゃぅ――――!?」
魔法具の妖精ロォグさまも、手近な鉄器をひっくり返して――かぽん♪
中に、すっこんじまった!
何だぜ?
ふぉん♪
『>>わかりませんが、【地球大百科事典】によるなら、イースターエッグとは神々の船にも匹敵しうる可能性を秘めた、SSS級レアアイテムのようです』
ふぉん♪
『シガミー>>けど大きさも柄も、どう見たって巨木・木龍の卵じゃんか?』
ならば一度は退治した物だぜ。
どうして彼処まで恐れる必要がある?
ふぉん♪
『解析指南>>その可能性もあります。イースターエッグというアイテム名称は、可能性に制限がないことを、示唆しています』
何にでも化けるってことか?
なら上級鑑定しても、意味ねぇじゃねぇか。
ふぉん♪
『イオノ>>ちょっと待って、シガミー。これ結構な大事に、なりかねないわよ♪』
ぺらぺらぺらり――だから仕事もせずに、料理の作り方ばっかり――
いつまでも、読んでるんじゃねぇやぁ。
ふぉん♪
『シガミー>>どういうこった? 何かわかるなら、まず説明をしろや?』
ふぉん♪
『イオノ>>ファロコちゃんの、頭の上を見て』
ヴォオォゥンッ♪
『ファロコ・ファローモ・ナァク・ジオサイト
■■■□□□□□□□31%』
それは、HPやMP表示と似たような横棒。
ソレは虹色に輝き――じわじわじわと、満ちていく。
ふむぅ、どーいう?
ルリーロやロォグが鉄鍋や鉄器の下から、そっちを覗ってる。
おれは耳栓を、すぽんと引っこ抜く。
耳栓無しでも、あの横棒はちゃんと見えた。
ふぉん♪
『ホシガミー>>なるほど? 手にした人の活力や思惑に左右され、中身が変わるみたいですね。プークス♪』
中身が変わる?
じゃぁこいつは、木龍の卵じゃぁねぇのか?
ふぉん♪
『>>そのようです』
ふぉん♪
『イオノ>>このままいけば、ファロコちゃんの弟妹が出てくるのは間違いないわねん』
木龍が出ねぇんなら、まだマシだが――
ふぉん♪
『解析指南>>このままの人員配置のまま、卵が孵化した場合。25%の確率で巨木・木龍の苗が、生成されます』
はぁ? 少なくともおれぁ、そんなことを望んじゃねぇぞ?
待て待てやぁー、なぁーんか、いつもの。
とんでもねぇことが起こる、前ぶれみてぇな音が幽かに――ォォン♪
ふぉん♪
『解析指南>>イースターエッグには〝いたずら〟を表すイメージが顕著に含まれています。当て推量100%換算の場合、約1%の確率でミノタ☆ウロースが生成されます』
ミノ太郎だとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉっ――――――――――――――――――!?!?




