６４２：冒険者ギルド大森林観測村支部、仮眠室とギルド☆支部長就任式
ゴゴゴッゴゴゴドガガガガガッ――――ズゴドドゴォォン！
おれは大森林女神像兼ギルド支部の内装を、大まかに間取りする。
迅雷とお猫さま、それにおにぎりが揃ってるんだ。
残りの細かいところは、任せても平気だろう。
「ふにゃぁー？」
おろろっ、何だぜ？ 力が入らんぞ？
ふぉん♪
『＞恐らくは、木角から実を生やした弊害かと』
そんなこともあったか。あの桃はどうしたんだったか。
ふぉん♪
『＞おにぎりの収納魔法具箱に、格納してあります』
ふぅん。
幸いなことに此処は通路の端だ、丁度良い。
この行き止まりに、小さな仮眠室を作り――倒れ込んだ。
おれは少し寝る。もう寝るぞ。
色々疲れて、精根尽き果てつつあるから、寝る――すやぁ♪
§
「こら樹界虫よ、起きなさい」
うるせぇ。
さっき飲んだ回復薬のお陰で、細かな打ち身や頭のたんこぶとかは引っ込んだ。
けど回復はしても、疲れの全ては取れない。
もう寝る。心置きなく寝るぜ。
おれはその為に、生まれてきたのだぜ。
これ以上邪魔するなら、樹界虫とやらを――
未来永劫、休みにするからな。
「ではウチの娘に伝えておきますので、樹界虫の本能に従うことを望みます。遠慮は要りませんので」
よし、わかった。起きたらやるから、任せとけすやぁ♪
§
「こら料理番、おきなさいわよ！」
うるせぇ。おれから採れた桃があるから、それでも食っすやぁ♪
§
「こら小猿、起きなさいな」
まったく次から次へと、どいつもこいつも。
「何だぜ？ 起きたら聞いすやぁ♪」
「こぉらっ、大事な話ですのよ！」
大事な話だとぉ？
ふぉん♪
『シガミー＞何だぜ。例の日の本がらみの話なら、もう済んだんだろうが？』
ふぉん♪
『ロットリンデ＞私聞きましたのよ、あのちょっと生意気なお嬢さんが、自分そっくりの女神粘土を持ってるって！』
何だか知らんが、レイダめ。
余計なことを言いやが――
ふぉん♪
『シガミー＞迅雷に頼めすやあ♪』
す・や・ぁ♪
§
「にぎゅらろう？」
わからん。うるせぇ――!?
「うっぎゃぁぁぁぁっ――――!?」
気づけば暗闇の中。
二つの月が、目の前に浮かんでる。
月が消え、また直ぐに姿を現した。
よく見ればソレは、ギラッギラした目の光り。
『（ರ◡ರ）』
目を覚ますと、そんなのに見つめられていた。
おれは手近にあった、小枝を引っつかんで投――
「ファロコか!? 脅かすんじゃぁねぇやい！」
ふぉん♪
『シガミー＞迅雷、他の連中は!?』
ふぉん♪
『＞シガミーが居る現在地点から２階下の多目的ホールに、ほぼ全員が集まっています』
誰默敵放る？
ふぉん♪
『ヒント＞多目的ホール／自在に使える広間。主に観劇などに利用される』
ここはギルド屋舎｜（ねがみめんど型女神像）の一階だろうが。
その更に下だと？
ぽこぉん♪
『▽――――多目的ホール』
んぅ？ 床下の奥に、そんな文字が現れた。
「まだ、眠ぃんだがぁ――ぁふぅ――それで、ファロコはなんで、おれの側に居やがるんだぜ？」
体を起こして伸びをすると、いくらか目が冴えてきた。
「るぎゃーぁ、おはよぅ。ごはんだよ！ おきたらごはんだよ！」
がぶりっ――襟首を囓られた。
「ちょっ、待てやぁ――――おれぁ飯じゃねぇーぞぉー！」
引きずられ、ねがみ……ロットリンデ女神像の外に連れだされる。
辺りはすっかり暗くなり、あちこちの木の虚に灯りが灯っている。
切り株の外周を、グルリと回り込むと――
ネネルド村｜（巨木）で見たような作りの――
木を削って作った、階段があった。
§
そういやぁ、寝入り端に――
どいつもこいつも用件を、言いつけやがった気もする。
「ええと。森の主と五百乃大角と悪逆令嬢に……何かを言われたよーぅな気が――痛ででででででっ!?」
尻を強烈に、打ち付けた!!
ばかやろう、放せやぁ！
おれを咥えたまま、階段を四つ足で駆け下りるんじゃぁねぇよ！
「痛でででっ、だだっだっ――ギャッ!?」
踏むんじゃねぇ――――おれたちは、ごろごろと階段を転げ落ちた。
§
「ではこれにて、〝冒険者ギルド大森林観測村支部、ギルド☆支部長就任式〟を閉会いたします」
切り株の下、彫り込まれた大部屋は、相当に立派で――
央都の宿泊施設の大講堂より、広いくらいだった。
置かれた長机は、丸い木の形に添うよう、逆向きの弧を描いていて――
それが外壁に張り付き、急な階段みたいになっている。
この作りは、間違いなく五百乃大角が〝神々の知恵〟で作った物だ。
けど、木を切り組み立てた細やかな仕事は、ざっと見た感じ――
迅雷とも、おにぎりとも違う――熟達した職人の、手による物とわかる。
流石は大森林に棲まう連中だ。きっと凄腕の――
工房長並みに腕の良い、職人がいるのだろう。
壇上は半月状で、机に座る見物人が見下ろす形。
こりゃ面白ぇ――壇上に居るのは、猪蟹屋の紅一点。
手には声を張るための、杓子形の魔法具。
「シガミー、目を覚ましたのですねっ！」
そんなことを言うもんだから、最上段に居るおれに視線が集まった。
「あら小猿。私の晴れ舞台に遅刻なんて、生意気ですわよ？」
ヴヴヴヴォォォオッゥン♪
『大森林観測村ギルド☆支部長』などと書かれた襷を掛けた、ロットリンデの傍らに浮かぶのは――
ＳＤＫ弾倉をぶら下げた、便利棒。
「シガミー、おはヨう御座います」
「おう悪ぃ、遅れた」
ふぉん♪
『シガミー＞＞マジで寝ちまってたぜ』
ふぉふぉん♪
『＞女神像ネットワーク復旧のお知らせ
＞大変ご迷惑をおかけしておりました、ブルートゥース接続障害が解消されました。
＞現在、女神像デバイスの全機能が使用可能です。』
何か出た。
ゴンゴンゴンゴンゴンゴゴゥゥン――ガチィィーン♪
切り株が揺れた！
響めく、ギルド支部長就任式会場。
パパパパッパパパァァン♪
うるせえな！
一行表示とは別の、迅雷の様子なんかを伝える列に――
とんでもねぇ量の文字が、濁流のように流れていく。
今度は何だぜ!?
壇上を見るも、リオレイニアに慌てた様子はない。
「みな～さま壇上直上を、ご覧～下さ～い。我がガムランが誇～る、精鋭たち～の入場～です♪」
突如、会場全体に響く軽薄な男の声。
この声には、聞き覚えがあった。
確か〝カブキーフェスタ〟のときに、散々聞かされたのと同じ声だ。
姿わぁ見えんがぁあの、ギルド職員が来たってことわぁ――
最上段にいる、おれたちからは正面。
天井が、パカリと開き――ゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴンゴゥゥン！
鉄籠に乗って、降りてきたのは――
えらく派手なドレスに、身を包んだ――
「大森林観測村のみなさま、ごきげんよう。私はコントゥル辺境伯家次期当主にして、現ガムラン代表を務めさせて頂いております――リカルル・リ・コントゥルです。どうぞよしなに♪」
出た。
「同じく皆様ごきげんよう。私はコントゥル辺境伯家名代――ルリーロ・イナリィ・コントゥルでぇーす♪ みんなぁ、よろしくねー、きゃはぁ☆」
もう一匹出た。
それは背筋と両耳と鼻先を、ぴんと立てた――
超派手な女たちだった！
全身赤地に、橙と黒のヒラヒラした薄布。
銅がかった白金の飾りを、ふんだんにあしらった――
わからんが、わからいでか。
しゃらあしゃらの極致だ。
もう片方は小袖に緋袴、見慣れたもんだが――
家宝であるその巫女装束には、五穀豊穣の神の眷属である証――
神性が宿っている。
この来世・惑星ヒースでは、唯一無二の物だろう。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
湧き上がる大歓声。
「んなっ、私のギルド支部長就任式ですのに――きぃぃぃぃいぃ!!!!」
くやしいわくやしいわと、憤慨し――
しゃらあしゃらした薄布の手ぬぐいを、噛みしめる――
悪逆令嬢ロットリンデ。
その天を仰ぐ眼差しは、何処までも不遜。
両の拳を振り回し地団駄を踏む、その姿。
妙に芝居がかっている所を見るに、前に見せられた――
小芝居みたいなもんなんだろう。
そもそも悪逆令嬢わぁ馬鹿力なだけで、其処まで心根が卑しくわぁねぇ――
「きぃぃぃぃいぃ、ゥッキィィィィィィィィィッ――――!!」
――たぶん。
噛んでいた、しゃらあしゃらした薄布が、ビリビリに破れた。
