640:女神像建立計画、どんな女神像が良いの?
「ウケケッケケケケケッケェェッ――――今度こそぉ、完全超絶大々々復活ぅ……しぃたぁけぇどぉー?」
背中に〝菱形〟と〝ロットリンデさま〟を貼り付けてるがなぁ。
菱形つまり、おにぎり二個分のSDKは――
シシガニャンの毛皮と同じ袋で、しっかりと包んである。
ここは間借りしてる集会所。
ヴッ――がたん。
丸くて足の低い、食台を取り出し――とんと乗る美の女神。
「こらっ、お待ちなさいなっ♪」
そして、腕から逃げ出した〝ねがみめんど・美の女神〟を捕まえんとする――
「ロットリンデちゃん! あなたには、このぉあたくしさま直々にぃー大切なっ、お話がありまーすぅ!」
くるりと振り返り、突きつけられた小さな手。
それを慈しむように、「つ・か・ま・え・たぁー♪」と。
根菜まるごと、やんわりと捕獲する――悪逆令嬢にして吸血鬼と呼ばれる女。
そう悪い奴には思えんが、あの腕力には気をつけないと。
ふぉん♪
『ヒント>ちゃぶ台/足が短い食卓。座布団を使う和室に最適。収納時に足を折りたためる物もある』
案内も、ちゃんと出るな。ふむ、ちゃぶ台てのわぁ、妙にしっくりとくる名だぜ。
ふぉん♪
『>>この際、ここで話を済ませておきましょう。リオレイニアと子供たちと、ミギアーフ氏が接近中です』
迅雷は機械腕を伸ばし、その先に〝長い箱〟をぶら下げている。
おれや皆が着る、猪蟹屋制服のメイド服。
その裏地に敷き詰められてる、作り置きの機械腕。
堅牢な防御力の元となるソレを、補充するための――
〝機械腕弾倉〟と、形状は同じ。
ただ迅雷が、ぶら下げた方は――
メイド服のと比べて、とても大きかった。
そして五百乃大角が背負った菱形と比べても、三倍の大きさがあった。
中に組み立て済みのSDKを、三個も詰め込んでいるからだ。
「大申じゃねぇや……ロットリンデさまよ。おれたちは恐らく、同郷の生まれだ。詳しいこたぁ、その〝ねがみめんど〟に聞いてくれや!」
おれは『◄◄◄』と、急接近する奴らを迎え撃つため、外へ飛び出す。
ふぉん♪
『シガミー>>迅雷は、そっちに付いててやってくれ。根菜だけだと、また持って行かれちまいかねん』
ヴォヴォヴォォゥォォン♪
『>>了解しました。我々の目的が〝世界の存続〟であることを、重点的に説明します』
カチャカチャカチャチャチャッ――ふぉん♪
浮かぶ棒から機械の腕が、生え伸びる音が聞こえた。
「ミス・ロットリンデ。私はインテリジェン――――」
任せたぞー。
§
おれは集会所に向かってきた連中を、女神像設置の下見と称して連れ出した。
ロコロ村ほぼ中央の、騎士像を目指して歩くと――
程なく例の、切り株の大舞台に着いた。
此処なら切り株の土台を、そのまま利用出来る。
「となると、まずは此奴だが――おい、そろそろ降りてくれんか?」
「やだよ」
おれの肩の上。正座するように座り込んだ、ファロコが「やだよ」と言った。
「シガミーばっかりずるい! 私もファロコちゃんを担ぎたい!」
ファロコはリオレイニアと、そう変わらない立端が有る。
「ばかやろう。レイダじゃ重さで、潰れちまわぁ――どっせぇぇいっ!」
腕を引き相手を投げる組討の技を、一発お見舞いしてやった!
途中でひらりと躱すだろうと思ってたら――ッゴィィィィィィンッ!
「ぎぎゃー!」
脳天から件の大舞台に、叩き付けちまった!
「「ぎゃっ、大丈夫!? シガミー、ひどい!」」
「「「「「そうだね、ひどいね」」」」」
切り株の床に頭を突き刺し、藻掻くファロコ。
「なんだとっ! いやまぁ、確かに酷かったな――ほら、此奴をくれてやる。飲ませてやってくれ」
ヴッ――ちゃぽん♪
取り出したのは、緑色の小瓶。
それをレイダに持たせ、「よい――しょっ!」
足を持ちスポンと引っこ抜き、捲れた裾を直して――ヴッ♪
人数分の座布団を、敷き詰め――
レイダの側に、座らせてやった。
「ぅににる~?」
本当に目を、回してやがるぞ。
「悪い、許せ、やり過ぎたぜ」
森の中で会ったときの、凄まじい動きは――見る影も無ぇ。
女将さんが言ってた〝野生化〟。
あのときは本気で、自然に返っていたのだろうなぁ。
ヴッ――ごとん、ガタタン♪
いつもの平机、そしてギルド支部出張所用の、女神像台座を取り出した。
「いや、どうせなら、ちゃんとした女神像を建てた方が良いかぁ?」
折角、女神像の元になるSDKが、山のように有るんだからよ。
ふぉん♪
『シガミー>なんなら、大森林開拓村の全部に女神像を建てても良いくらいだぜ』
なんせ大森林開拓村は、①から③まで有るらしい。
①がファンキー・フカフ村。②がグランジ・ロコロ村……だったか?
③は知らん。
険しい森の中を、そこそこ歩かないと行き来出来ないなら――
転移陣である扉の出番は、いくらでも有る。
「うぅうむ」
ここへは僧草っていう茶葉を、買い付けに来た筈なんだが――
なんだか相当、ややこしいことになってきたぜ。
§
「にゃんやにゃー、にゃにゃにゃぁやーん。みゃぎゃぎゃやにゃみゃんやー、みゃぎゃぎゃぎゃやー♪」
ふぉん♪
『ロォグ>ホシガミーさまに、イオノファラーさま。女神像の大きさは大きければ大きい程、沢山の扉を取り付けられるから、大きい方が良いニャァ♪』
リオレイニアに抱きかかえられた、猫の精霊の魔物の魔導技師さまが、そう宣う。
「この切り株に乗せられるなら、どんな大きさでも構わないよ……かまわぬのじゃ、ふぉっふぉっふぉっ♪」
フカフ村村長さまも、そう宣っている。
「わがコッヘル商会としてわぁ、大きいのと小さいのの二つの扉が、ほしいですねぇ♪」
頬に手を当て、もう片方の手に指を二本立てる、おっとりとした見た目とは裏腹に――
魔導阿痛という組討の技を持つ、コッヘル商会商会長。
「じゃぁ、皆がそう言うなら――飛び切りでかいのを、建てるとしようか♪」
ちらりと、リオレイニアを見た。
彼女にはおれが、烏天狗と知られちまったことだし――
少しくらい全力で物を作っても、何とかなるだろゥカカカカッ♪
上品な眼鏡の色形が、一瞬だけ揺らいで――
まるでルガ蜂を、彷彿とさせるような――
恐ろしい姿に見えた……気がする。
程々にしとかねぇと、あとで折檻されそうだぜ。
じゃぁ、どうする?
おれはぐるりと、周囲を見渡した。
「シガミー! 切り株の直径なぁんだけどさぁーあー、約20バーテルだよーん♪
大陸標準の基準値で言うならぁー、なななぁんとぉ、20・45メートルも有るぞぉぉおぉっぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉっぅぉぇぇっ、げっへごっはっ!」
やかましい!
張り扇を取り出して、思いっきり引っ叩いてやりたくなったが、ぐっと堪えた。
ここは我慢しておく。おっさんは、ああ見えても、そこそこ有名な冒険者らしいからな。
子供の形をしたおれに、ぽんぽん頭を叩かれちゃ――
立つ瀬も無いだろうしよ。
切り株の大きさは、おれで言ったら――15シガミーくらいか。
うぅーむ、切り株からはみ出すと、道を塞いじまうから――
幅はソレが限度。
女神像は、決まった形をしてるから――結構な高さになる。
「女神像を使う人のことを考えると、雨ざらしって訳にもいかんだろうし――かといって像を入れる建物の大きさを考えると、そこまで大きな女神像は建てられんし」
魔導騎士団の訓練場に有った女神像も、東屋の中に設置されてた。
絵で板を立ち上げる――ヴュワワワワッ♪
そういや物の大きさを五百乃大角は、隅に有る目盛りに書き込んでいたな。
さっきおっさんが言ってたのは、えっと?
20・45メートルだったな――カチカチカチッ♪
絵で板の向こうに見える、切り株の大きさに――ヴユユユーゥ♪
空の格子の大きさが、勝手に揃った。
「「「「「「「「「「「何それっ、超面白そうっ♪」」」」」」」」」」」
「ぎぎるにー♪」
おれが作業を始めると、子供らが寄ってきた。
わいわいわいわい、がやがやがやがや♪
ここに居ねぇのは大食らいに、メイド少女に、星神さまくらいか。
生徒たちは、ほぼ全員集まってるなー。
そしてリオレイニアも、寄ってきた。
やり過ぎるなと、釘を刺しに来たのかと思ったが、違った。
やおら抱えていた猫を、放り投げた!
黒板をつかんだ、お猫さまが――くるくる、すたん♪
おれの目の前に、華麗に降り立ち――
「にゃぎゃにゃにゃにゃぁぁぁん、みゃんにゃんにゃぎゃん♪」
ふぉん♪
『ロォグ>じゃぁ、大きな女神像を建てて、その中を建物のように使ったらどうかニャァ?」
そりゃぁ――良さそうだな。
流石は、お猫さまだぜ!




