631:グランジ・ロコロ村、酢蛸(SDK)を作ろう
「みなさま、女神像を作ったことは、おありですか?」
リオに、そんなことを聞かれた――――ブヒィーッ♪
そんなものは、いつもの汎用絵で板を使えば――
ヴォォォゥン♪
目の前に現れた、格子の中。
端に書かれた図案を、押す――ギュ、パ、パ、パッ♪
一番下の項目、『etc.』とか『その他』と書かれた所を押して、辿っていけば――
「ありゃ、項目が無ぇ?」
大抵の物の〝在り方〟が出てくるんだが……出てこなかった。
そういや、御神体を作ったときには、形を作るために――――ブヒィーッ♪
派手な色の〝土〟を、使ったっけ。
神域惑星の女神像に関しちゃ、形こそ絵で板で作ったが――
その後の仕事は、五百乃大角任せだったな。
「……無ぇーな。有るわけがねぇ……女神の領分わぁ――女神だろぅが?」
絵で板の奥から覗く、茅野姫と目が合った。
「前に同じく、クククスプー♪」
その目が、横へ動く。
「――我輩も、同じくニャァ♪――」
茅野姫も魔導工学技師も、作れないらしい。
おにぎりを二つ、組み合わせては――――ブヒィーッ♪
豚を鳴かせる、魔導工学技士。
酢蛸を使えるようにする為には――――ブヒィーッ♪
石ころを二つ組み合わせて、〝鍵〟を開けないといけないのだが――――ブヒィーッ♪
何度も何度も失敗する、魔導工学技士さま――――ブヒィーッ♪
「やかましぃな。一回、貸してみろやぁ!」
SDKをふんだくる。
お猫さまに引っかかれながら――
光った所を、ぽぽぽんと押していく。
「こうしてこうして、最後に光ったところを同時に押しゃぁ――――ブヒィーッ♪」
ちっ、駄目か。
前にSDKをくっつけられたのも、五百乃大角だけだったからなぁ。
「何ですの、そのパズル然とした――おもちゃわぁ♪」
あっ、悪逆令嬢さまに取られた!
「そこらに沢山、転がってるじゃねぇーかぁ!」
結局の所、村のあちこちに、隠されていた三角石は――
村人たちによって、次々と集められ――
直ぐにファロコ一人が守れる数では、なくなった。
「ぎゅふるるるにうるるるるるるるっ――――!?」
あー又、片目が『Θ』になっちまってるぞ。
切り株の舞台から溢れた石ころは、あちこちに積み上げられていく。
ひでぇな。まるで賽の河原だぜ。
二股角娘が森から集めた△石の数は、尋常ではなかったのだ。
こりゃ、村長たちが難儀するのも頷けらぁ。
猪蟹屋にとっては、お宝でも――
大森林観測村の連中からしたら要らない、ただの石ころだ。
流石に、これだけゴロゴロしてりゃぁ――
色んな話が、違ってくる。
商会長さまを見たら、苦い顔をしてた。
「「なぁに、それ!? 面白そう♪」」
生意気なのと、物怖じしない奴が寄ってきた。
「このっ、このっ――ちょこまかと!?」
見よう見まねで始めた割に、鍵を解く手順はあってる。
「あの切っ掛けの所を合わせると、あちこち光るから――そこを押していくんだよ」
悪逆令嬢は日の本生まれだから、ひょっとしたらと期待したんだが――――ブヒィーッ♪
駄目か。五百乃大角の奴め、肝心なときに壊れちまいやがって。
女神像を建てる方法は、まだわからんが――
SDKを使うことに、変わりは無い。
おれは又別のおにぎり(SDK)を手に取り、光るところを順番に押していく。
「「「「「やりたい♪」」」」」
子供らが車座になって、手近な石積みの山を崩し始めた。
(流行りましたね)
おう、誰か一人でも組み立てられたら、めっけものだぜ。
§
「おーい、向こうの木の中にぃー、滝が流れてたよぉー!」
「「「「何それ、面白そうっ!!!」」」」
一斉に、飛び出していく子供たち。
(豚の鳴き声を聞くのに、飽きたと思われ)
ばかやろう、おれだって飽きたぜ!
「こら、おまえら――!」
五百乃大角にしか出来ないなら、せめて頭数で押すしかねぇだろが!
「こら、あなたたち――子供たちだけで、行ってはいけませんよ!」
「滝だって? 何それ、超おもしろそうじゃねっ?」
「隣町の村長としては、監督責任が――」
などと言い、〝石ころ〟を放り出す大人たち。
勤勉な、元コントゥル家侍女長。
手先が器用なはずの、針刺し男ニードラー。
そして、魔法具の操作に慣れている、ジューク村長が――
脇目も振らずに子供たちの後を追って、みんな行ってしまった。
このおにぎりの鍵を、解けるのは――
やはり、五百乃大角だけっぽい。
おれも手にした石ころを、石積みの山に放り投げた。
§
「じゃぁ矢張り、レイド村まで戻るしかあるま――――い――!?」
轟雷を着ようとしたら、頭の中に――ぼわんと、煙が舞った。
瞬きをしたら瞼が開かなくなって、現れたのは――
額から小枝を生やす、男の声の女。
成体ファローモ、森の主だった。
「折角捉えた樹界虫を、むざむざ逃がしては、森の主の名折れというもの――樹界よ。彼の者を、隠匿せよ」
などと脳裏を過る言葉。
「ふっぎゃぁぁっ――――!」
猫の鳴き声がして――「ぐぅわっ!」
何かに顔に、飛びつかれた。
其奴をべりりと、ひっぺがしたら――
おれの瞼が、パカリと開いた!
「――この感じ、対魔――葱タン塩――渡り廊下――塩分補給――高等魔術――みゃにゃぁん♪――」
耳栓に届く、お猫さまの言葉が化ける。
「おにぎりぃー、通訳してくれゃぁ!」
黄緑色が居ねぇ。さっきまで近くを、彷徨いてたはずだが?
「みゃにゃがやぎゃーぁ?」
ガララッララッ――ごがががん!
騒々しい音を立て、黄緑色の猫の魔物風が――
ひときわ大きな石積みの山から、這い出てきた。
「ぅぉわっ!? 脅かすんじゃねぇやぁ!」
おれは転がる石ころを、避けた。
お猫さまが腕を、よじ登ってくる。
「みゃにゃ、ぎゃにゃみゃんみゃぁやー?」
おにぎりが鳴き、夏毛の毛皮を、ぱたぱたと叩く。
ぱたん♪
『「この感じ、結界魔法ニャもの♪」って言ってるもの♪』
取り出した木の板には、そんな文字が映し出された。
「はぁ!? 何だその、対魔王結界みてぇなのわよぉ?」
此処は地の底でもなければ、壁すらねぇだろうが?
頭の上に陣取った猫の魔物だか、魔法具の精霊さまだかに――問う。
ピチチチチィー♪
大空を見りゃ、鳥が呑気に何匹も飛んでるだろうがょ。
ピチ――――!?
「んぅ?」
不意に鳥が、消えた!
『◄◄◅』
ふぉん♪
『リオレイニア>シガミー、動体検知に異常が発生しています!」
リオも気づいたみたいだ。
空を飛んでた鳥が、物陰に隠れた訳でもなく――消えたのだ。
こんな開けた場所を飛んでる鳥を、おれが見失うなんてことはない。
「シガミーちゃん! あっちの岩場の方、見てっ!」
その声に見上げれば、木の上に立つ鬼の娘。
その肩に座り、魔獣を構える少女。
声の主の長銃の銃口を、辿る。
相当離れた空中から――ピチチチチィー♪
さっき消えた、呑気な鳥が現れた!
鳥は此方へ向かって、暫く飛んだ後――ビヂヂヂッ!?。
慌てたように、くるくると旋回し始めた。
「やられた。ファローモの森域結界だ……じゃよ!」
「ファロコ! 言っておやりなさいな、「毎週お供えは、ちゃんとしていますわよ」と!」
慌てた様子のフカフ村村長ジューク氏と、悪逆令嬢ゲスロットリンデ嬢。
「ぎにりりー?」
辺りを見渡す、二股角娘。
その目が爛々とした光を、帯びていく。
「神域結界だぁとぉ――!?」
(字面的に〝森の領域〟で〝森域〟と思われ)
何だぜ、そいつぁ――おれは目を閉じた。
やい、森の主さまやい……頭の隅から隅まで、考えを巡らせたが――
小枝を生やした女の姿は、まるで思い浮かばず――
どういう訳か、頭を過ったのは――
「もう帰っちゃったよ。また来るって言ってたよ」
なんて言う、二股角の娘の姿だけだった。




