630:グランジ・ロコロ村、名産は石ころ?
「ぃやっかましぃやぁぁぁぁぁっいっ!」
おれは紙を折って作った、〝張り扇〟を取り出し――
スッパァンスッパァン、スパパァーン♪
力一杯、脳天を叩いてやった!
「おぅふ!」「おぅふ!」「おぅふ!」「おぅふ!」
大木の切り株、その壇上に崩れ落ちる、祭り囃子隊の連中。
切り株は一部が壁のように残してあって、音が良く響くようになってる。
叩いた音が――――ォォォォオォォォォゥゥッ♪
火縄の残響みたいで――「こいつぁ、心地良いやなっ♪」
「ひょろげはっはははははははぅああ――――♪」
うるせぇ村人も、振り返りざまに――――スパッシィィン!
引っぱたいてやった――「ぬぉひょろはー!?」
そしたらそれは、ミギアーフ氏だった。
「おぅぅふっ、ひょろ――――ぉっ!?」
崩れ落ちる、地図作りの天才。
まぁ、良いぜ――ゥカカカッ♪
「うるせぇやつぁ――――全員、引っぱたくからなぁっ!?」
最後に一閃――――「ににるぎーっ!?」
顔のあたりを張り扇で、叩いてやったら――
やっと迷子娘が、離れてくれたぜ!
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「あはははははっはははははあはははははっははあははっははっ♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
くそう、フカフ村から付いて来た、モサモサ頭の奴らも混ざって――――笑ってやがるぜ。
そういうつもりじゃ無かったんだが――芸が受けるのわぁ、とても良いやな。
憂さ晴らしにでもなったのか――ささくれ立った気持ちが、落ち着いた。
「「よいしょっと!」」
女将さんが倒れたウチの、男女二人を担ぎ上げた。
年齢としては女将さんよか、二回りくらい下か。
その二人の顔は瓜二つで、双子って奴らしい。
跡目争いとかに巻き込まれずに、よくまぁ元気に育ったもんだぜ。
それは良いことだがぁ――
この面ぁ……どっかで見たぞ?
ちょっと強面に見えて、なかなかの器量好し。
何処で見たかな?
相当な昔……っていっても、この来世に生まれ落ちてから――
まだ一年も、過ぎてねぇからなぁ。
それこそ初めて、この地に落とされたころ――――!
「あっ、門番のおっちゃんに似てる!」
超、似てらぁ!
「そらそうさね。この二人は、うちの子だからね」
驚愕で衝撃の、この話。
女将さんや門番のおっちゃんとは、古馴染らしい――
工房長やギルド長や、それこそ辺境伯名代は、知ってるんだろうか?
§
「しかし都会育ちの、あんたたちが大森林の村で――ちゃんと村長を、やれてるのかい?」
舞台袖で正座をさせられる、やや厳つくも器量好しな村長半分。
髪の長さが腰くらいまであって、どっちも女に見える。
「まかしてくれよ、母さん。ふふん♪」
――――ギャッギャッギャァーン♪
「おまかせください、お母さま。うふん♪」
――――ヴォンヴォヴォ、ヴォンヴォヴォッ♪
それぞれうるさくて平たい、琵琶を奏でる。
「何をふんぞり返って、いるんだい?」
がみがみがみがみっ!
始まった、女将さんの説教を聞いていても、仕方が無い。
おれは目の前に、積み上げられていく――
山に目を向けた。
グランジ・ロコロ村が総出で、かき集めてくれたのは――
「こんな物が欲しいなんてガムラン町の人たちは、変わってるなぁ……変わっとるのじゃぁ、ふぉっふぉっふぉっ♪」
いや、変わってる具合じゃ決して、引けを取っちゃいねぇーが――
今は言うまい。
「これマジで、貰っちまっても良いのかぁ?」
山積みにされたのは、石ころだったが――
ただの石ころ……なんかではなかった。
それは、見覚えのある三角形。
そう、それは何と、おにぎりの素になった〝酢蛸〟だった。
(おにぎり形状の、〝演算単位〟の発生装置です)
うん、凄ぇ頓知な。
つまりそれは、猪蟹屋が探していた垂涎の――
発掘魔法具の一種だった。
「ふぅ、うちの子が森から拾って来ますのよ。捨てても捨てても――ギロリッ!」
「ふぉっふぉ♪ 正直なところ邪魔で、持て余していたのじゃよ――チラリ」
二人の目が、三角山を抱きかかえ、うなり声を上げる――森の主の娘に向けられた。
「みなさまー、ちょぉっとお待ちを? うふふー♪」
恐らくこの村最強らしい、商会長さまの――お出ましだ。
女将さんの親ってこたぁ、そこそこの歳だろうに――
女将さんと殆ど変わらん、見た目。
ぼばぼーんとした体つき。
そして悪逆令嬢ゲスロットリンデを、血祭りにしたあの体術。
とても聞き及んだ宮廷魔術師とは、似ても似つかない別の技を使う――
おおよそ、いくさ場じゃぁ、会いたくねぇ手合。
なにより、『┐(͠≖ ͜ʖ͠≖)┌』はやべぇ。
まるで笑ってねぇーぞ。
ふぉん♪
『シガミー>星神さま、出番だぜ! 五百乃大角も迅雷も居ない今、太刀打ち出来るのは、お前さまを置いて他には居るまい』
ふぉん♪
『ホシガミー>あらあら、クスクス? 我々にはリオレイニアさんも、いらっしゃるじゃありませんか』
ふぉん♪
『リオレイニア>辞退させて頂きます。私もまだ命が惜しいので』
サッと目を逸らす、給仕術免許皆伝。
「じゃぁ、商売の話は別にして――この捜索クエストの報酬として、この山から――二つ、分けてくれんか?」
酢蛸がありゃぁ、女神像を作って設置出来る。
「それは構わないけど……構わぬぅのじゃが」
よぉーし、お許しが出た。
山に手を延ばすと――――がぶり!
「痛ってぇ――――!?」
また囓られた。
「ニャギャにゃぁ!」
二足歩行で――すたたたたっ♪
猫の魔物にして、魔法具の精霊。
その小さな体が伸びて、おにぎり山に手を掛けた。
「危ねぇ、止めとけ! いま手を出すと、囓られるぞ!?」
小さな猫の体だ。下手したら、命が危ねぇ。
蘇生薬を――ヴッ♪
「みゃにゃん?」
「ぎぎるにぃ?」
なんて言ったのかはわからんが、一瞬の会話。
お猫さまは囓られも引っ掻かれもせず、両の猫手に一個ずつ――
おにぎりを持って戻ってきた。
「――これは神話の時代からある、廃棄された――カステラ――充電ソケット――文庫本――にゃぉーん♪――」
わからんが、お猫さまにとっても、転送魔法具を作るのに――
女神像は必要になる――すぽん♪
必要なかった蘇生薬を、仕舞う。
「わからん――が、でかした!」
おれはお猫さまが抱えた酢蛸一式を、受け取るべく手を延ばす。
すかっ――――ありゃ?
ひらりと、躱されたぞ?
ぽっきゅぽっきゅぽきゅむ――おにぎりが寄って来た。
「みゃにゃやぁーぎゃやーにゃんやー、みゃぎゃぁーにゃんやぁーむぉゃんゃぁ、みにゃやぁーん。みゃにゃぎゃがぎゃやーにゃー♪」
うるせぇ。
黄緑色は、木の板を取り出し――ぱたん♪
『「これは神話の時代からある、廃棄された女神像の心臓部にゃ。これの起動に成功してこそ、真の魔導工学技士にゃんだもの♪」って言ってるんだもの♪』
木板には、そんな言葉が浮かんだ。
なんだとう?
おれはもう一度、お猫さまに手を伸ば――がぶり♪
「痛ぇ」
くそう、おれの手に大小、二つの歯形が付いた。




