624:大森林探索行、なぞのファローモ空間
がやがやがやややっ――――!
わいわいわわわいっ――――!
あたりが相当、騒がしい。
葉擦れの音や鳥の声も、とおくから聞こえてくる。
大森林に入ってから、「うぅぅぅ?」――倒れてばかりだぜ。
「ぎゃっ――――シガミーが、木の実に食べられてる!?」
うーるせーな、レイダ。
そんな馬鹿なことが、あるかぁ。
「ちがぅわ――――シガミーちゃんから生えた小枝に、大きな果物が生ってるのよ!」
だから、うるせぇ?
それに、そんな馬鹿なことも、あるはずがねぇだろぅがぁ。
姿が見えんのに生意気な子供や、動じねぇ子供の声がするぞ?
それに〝全部が念話で聞こえちまう〟のが、ピタリと収まってる。
「何処だぜ、此処はよぉ?」
おれは明るくも暗くもなくて、熱くも冷たくもなくて――
ただただ温い所に立っている。もちろん誰も居やしねぇ。
「ぉーぅぃ? レイダァーにビビビィーっ! 居るのかぁー!?」
声を出しても、頭が痛くならなくなってる!
助かったぜ、あの頭の痛みは、二度と味わいたくねぇ。
「「すっごい、はっきりした寝言っ!」」
寝言じゃねぇやい!
「本当に、このままで大丈夫なのですか? シガミーはさっき蘇生薬を使ったばかりですよ――」
二股角の娘に斬られた手先を、撫でられた……気がしないでもないのに――
銅がかった白金の眼鏡を掛けた、給仕姿は何処にも見えない。
「うむ。話も出来ないので人の姿をしてみたが、私の声が聞こえるのは、お前だけのようだ」
同じく姿は見えんが、この声!
さっきの、六つ又の角の――!?
「はい。静かに寝かせてあげて下さいませ。それと、あまり近寄ると……抱きつかれたり殴られたりしますよ? プークスクスクス♪」
星神の声だぜ。
「「殴られるのは、嫌!」――あたしも!」
童どもの声が、とおくなった。
「あーもー、ごちゃごちゃとうるせぇな、どいつもこいつも!」
おれの目は、閉じたままだ。
開けようとしても、瞼がいうことを利かん。
「まだ我の樹界の、影響が強いようだ」
ぞぞぞぞぞぞぞぞぞっぞぞおぞっ――――――――しゅるしゅるるるるっ♪
何かが辺りを、這いずりまわるような音がして――
おれの頭が高く、持ち上げられていく。
んぐーぅ♪
ああ、こいつぁ――背筋が伸びて、「心地が良いやな♪」
「あら本当。寝かせておいても、平気なようですね♪」
額を撫でられた気がするが――
おれぁ今、おれで言ったら3シガミーくらいの高さに、吊り下げられてる。
周りには誰も居ねぇ。
ふぉん♪
『ホシガミー>シガミーさん。お体の様子はいかがですか?』
ふぉん♪
『シガミー>此方の台詞だぜ。星神さまよ。いまおれぁ、どーなってる?』
突然現れた、〝身の毛もよだつ程の、大きな動く森〟――そして〝角の男〟。
念話でがなり立てられて、あまりの五月蠅さに――
倒れた所までは覚えてる。
ふぉん♪
『ホシガミー>恐らくは大森林エリアボスによる、〝森の気候や植生を変えるスキル〟を使われたのだと思います』
ふぉん♪
『シガミー>大森林エリアボスなあ。そいつは迷子の二股角娘の母親だと、村長が言っていたが、ありゃ男だったぞ?』
ふぉん♪
『ジューク>エリアボスは〝殲滅のビッグモクブート〟だよ。それとその男の人の姿をしたのが〝成体ファローモ〟、ファロコのお母さんで間違いないよ』
「あらジューク。何ですのその、ハイテク然とした魔法具はっ!? お寄こしなさいなっ!」
「返してよ、今僕が話をしてるんだよぉう!」
やかましぃ。
ふぉん♪
『ホシガミー>イオノファラーさまか迅雷さんが居れば、もうすこし詳しい状況が分かったのでしょうが。少なくとも、ここには我々以外、誰も居ませんよ?』
ふぉん♪
『リオレイニア>はい。村長さんによれば現れたファローモの成体は突然、姿を消してしまったそうです』
波浪雲? わからん。
皆の声や気配はすれども、辺りには誰も居なくて。
おれの体は――――メキメキメキョッ♪
木の根だか、木の枝だかに頭を持ち上げられ、浮かんでいる。
足の下、ずっと下の地面を根が這い回り――――メキメキバキバキィッ♪
伸びていく太枝には、おれの頭くらいの大きさの木の実が、次々と生っていく。
「くそぅ。おれの体を引っかけた木が、もの凄ぇ勢いで育ってやがるのかぁ?」
「ニャミャーン、ニャァン♪」
お猫さまの猫手が、おれの頬に押しつけられてる気がする。
ふぉん♪
『ロォグ>シガミーに果物が生えたというのに、なぜみんな驚かないのニャ?』
ふぉん♪
『ホシガミー>ガムラン町の者なら、みんな知っていることです。私いえ、シガミーさんが頭から生やした枝角に、あふれんばかりの花を咲かせ、ギルド支部を埋め尽くしたことは』
ふぉん♪
『シガミー>おいまて、おれは知らんぞ?』
ふぉん♪
『リオレイニア>シガミーが轟雷に化ける前のことですので、覚えていないのも無理はないかと』
ふぉん♪
『ジューク>ファロコの寝床から良く、ご神木が生えてくるけど。ソレと似たような話かな?』
ふぉん♪
『ジュロットリンデkjーク>これは央都で見たことのあ@%rる、神代の魔法具にそっくり¥』
「というより、前世……いえそんなぶつぶつぶつ」
「返してよぉー!」
だから、どたばたとうるせぇ。
ふぉん♪
『シガミー>うるせえから、おにぎりの背中から黒板を出してやってくれや』
ふぉん♪
『ホシガミー>わかりました。他に手助け出来ることは、御座いますか?』
そうだな。
いまいち状況が、つかめんぞ。
少なくとも、おれの意識の中……瞼の裏じゃぁ――――
「おれの目の前には居ない、角の男だか森の主だかを――とっ捕まえてくれやぁ!」
メキメキメキメキバキョバキョゴキャキャキャッ――――――――♪
「シガミーは先ほどから、何を言っているのでしょうか?」
おれの額に掛かる前髪が、左右に分けられる感覚。
「寝言を言ってるんだよ♪」
レイダめ。余計な口を的確に挟みやがるのは――
あのガムラン町ギルド支部長である、父上殿の血筋を感じないでもねぇ。
瞼の裏には、おれの体を持ち上げる、木のうねり。
瞼の向こうには、おれたちに追いついた皆が居る。
訳がわからんけど――
さっきのとんでもねぇ大声の念話で、がなられるよかマシだ。
「このくらいなら、お話が出来ますかしら?」
耳のすぐ後ろから、さっきの男の声がした。




