618:大森林探索行、魔法自販機ってなぁに?
「鬼族てのわぁ、轟雷のことかぁ?――ニャァ♪」
オルコトリアが、轟雷くらいの体格の同族が居るようなことを言ってた気がするぞ。
おれが建物の側に、ガッキュユウユンと降りたとき――「はぁーい!」
『◄◄◄』
鬼の娘が木陰から、飛び出してきた!
さっき轟雷の胴鎧を貫いた、殺気の形は――
どう考えても……ガムラン支部展望台から、魔物境界線の砦を狙ったときよりも、尖っていたぞ?
つまり、オルコも本気で走ると、相当早いのだ。
「ぎゃわっ!? 鬼族の人が、もう一人居た!?」
ジューク村長が〝遊撃班オルタタター〟を見て、驚いてやがる。
「……ひょっとして、お二人は、ご夫妻ですか?」
村長が、そんなことを言うもんだから――
「ぷふふふふっ、あはははっはっ♪」
タターが笑い出した。
けどまぁー、そう見えても仕方がねぇーか。
「おれだぜ、シガミーだぜ! こいつぁ、おれの鉄鎧装備だ――ニャァ♪」
おれは胸部装甲板を、ガガァンと打ち鳴らした。
§
「ぅひゃぁ、驚いたよ! まるで隣町の騎士像みたいだよ?」
隣町……レイド村に、そんなもん有ったか?
「そんなことより、こいつぁ何だぜ?――ニャァ♪」
おれは大人でも、そうそうよじ登れない程の高さがある建物を、ドカドカ蹴飛ばした。
「あわわわっ……け、蹴っちゃだめだよ! 中に居るトゥナやファロコが、びっくりするからさっ!」
慌てる村長。
「中に居る? この建物の中に!?」
長鉄砲足軽タターを建物の屋根に、そっと降ろす長剣奉行兼鉄砲騎馬役オルコトリア。
「ってこたぁ此奴ぁ、あの収納魔法具箱で間違いねぇーな?――ニャァ♪」
なんせ、おれも中に閉じ込められた。
「えっ!? 魔法具の中に、生き物は入れないんじゃ――ひょっとして転送魔法具なの?」
ガチャガチャと長銃を抱えたまま、トタタと踏鞴を踏む少女メイド。
「いや、転送魔法具じゃねぇらしいぜ。中は偽の山道が、何処までも続いてる――ニャァ♪」
おれはもう一度、ドガガンと建物を蹴飛ばしてやる。
「ぅわっとととっ!? だから蹴飛ばさないでってば。いま、この魔法自販機……封鎖空間の中は――この建物で出来た、二つの枠で囲んだ森が、何処までも続いているはずだよ?」
揺れる建物の上で踏鞴を踏む、ジューク村長。
「今は山道じゃねぇのか。けど端に行き着くと、もと居た所に戻るのに変わりねぇんだな?――ニャァ♪」
鬼門封じの結界に似てるが、ありゃぁ姿の無い奴にしか効かんからな。
「そうだよ。封鎖空間の中にはたぶん、近くに居た僕や君たちの複製体も姿を現してると思うよ」
倒れないように手を、大きく広げる村長。
建物を蹴飛ばすのは……もう止めてやろう。
「フウサクウカン?」「フクセイタイ?」
小柄と大柄が、小首と大首を傾げる。
「風作卯漢に符曲板猪……いい加減に説明しろやぁ――ニャァ♪」
轟雷もガキュゥンと、超大首を傾げた。
「それが、よくは知らないんだよね……へへへ?」
口元を引きつらせ、靴先でトトンと、建物を踏みつける。
「お前さまは、良く知らんもんを――子供や女将さんに、使ったのか?――ニ゛ャァ?」
ガチャゴゴッキュゥゥン♪
大顔を寄せてやる。
「ぅわっ、だっ大丈夫だよ。ロットリンデが知ってるし使い方だけは、ちゃんと教わったからさ!」
そうなのか?
なら良いが――
「じゃぁ、そろそろ出してやっちゃくれねぇか?」
符曲板猪とやらが、中の二人にも――悪さをしないとは限らん。
「そうだね。お嬢ちゃんはファロコが首に提げてる、変な石が欲しいんだもんね?」
うむ。そう言われると、そうなんだが……少し罰が悪ぃぜ。
「それもあるが、おれが偽の山道で会ったのは、ロットリンデだけじゃなくてよ――ニャァ♪」
言い訳をしておく。
「だから複製体だろ? ロットリンデから聞いたよ。なんか変なのが居たから魔法で吹き飛ばしたってさ」
「変なのって言うか、〝子供の姿をした武器〟を振りして斬りかかってくるような、狂った奴らだったぞ?」
二度と、やり合いたくない手合だぜ。
「何ソレ怖いっ!」「私も……そう言うのはちょっと」
怯える子供と、顔を青ざめさせる鬼の娘。
「おかしいな? 武器を振り回す?」
今度は村長の首が、ひん曲がっていく。
あの大申女は、ちゃんと説明をしてくれなかったようだぜ。
もっとも見るまえに手当たり次第に、吹っ飛ばしちまったのかもしれんが。
おれたち全員の首が、曲がりきった頃。
「そろそろ、――――、――――!?」
またもや、音が消えた。




