616:大森林探索行、虎柄って何色?
「ザザッ――みゃにゃやぁー、みゃにゃにゃにゃやーにゃぎゃにゃぁー!――」
まだ、お怒りの〝着る強化服・虎ふ号〟。
ふぉん♪
『ホシガミー>プークス♪』
笑ってる場合かっ!
「むぎゅうーつ、ぷはぁ!」
生意気な子供の声が聞こえる。
こうしてる間にも捜索対象に相当、引き離されてるぞ――ふぉん♪
『シガミー>そっちは大丈夫か!?』
ふぉん♪
『ホシガミー>何人か目を回していますけれど、みなさん外傷は有りませんわ』
なら良かったぜ。
おれは上から、皆を見渡す――
『▼▼▼――▼▼▼――▼▼▼――▼▼▼――▼▼▼』
動体検知が次々と――生徒たちや見習い教師の、心音を捉えていく。
此処に居ねぇのわぁ――――
村長と女将さんと、タターとオルコトリアか。
5匹分の特撃型改が転がってるから、たぶん――
村長は女将さんが、タターはオルコトリアが、担いで行ったんだろう。
ガッキュウゥゥゥン!
ガッチャコ!
おれは膝を突いて、皆に話しかける。
「おれは女将さんたちを追うぜ。リオレイニア、皆のことを頼むぜ――ニャァ♪」
おにぎり騎馬が居ねぇのも、少し気になるし。
「えーっ、私も行きたい! 村長さんが、この先にはまた別の村があるって言ってたし!」
そうなのか?
「一緒には連れて行けん。後から付いて来たいなら、そこに居る番号なしの強化服2号の中身がリオ……レイニア先生だから、お願いしてみろやぁ――ニャァ♪」
ふぉん♪
『シガミー>引き離されるわけには行かねぇから、全部任せて良いか?』
片手の先が柄違いで、些か不格好な毛皮の――虎型ふ号。
「「「「「えっ、リオレイニア先生なの!?」」」」」
「かわいい!」「こっちの子たちを、着ることは出来ないの?」
わいわいがやがやや。
子供らに飛びつかれ、身動きが取れなくなる――
虎……というには、ちと情けねぇなぁ。
「にゃみゃぎゃぁ、みゃぎゃぎゃにゃやーぁ?」
ヴッ――『』
「ザザヴュ――ああもう貴方たちときたら、学院の生徒としての行動を――」
ぽぽぽい、ぽぽぽいっす♪
子供らの襟首をつかんでは、投げ捨ててやがる。
「「「きゃいきゃい♪」」」「「「わはぁーい♪」」」
ああもぅ、遊ばれてんじゃんかよぉ。
「みゃにゃぁ、やっと外れてくれましたが――」
子供らを引き剥がし、身軽になったリオが――背中を向けてきた。
「ははぁーひゃぁー♪」
やいおっさん。子供ども以上に楽しそうだな?
奥方……あの張り扇使いの嫁さんに告げ口するぞ、こらぁ――!?
おれが鋏で、おっさんのド派手な色の革鎧をひっつかんで、転がる特撃型の上に放り投げた――
「うっひょろはぁぁっ――――♪」
ぽっぎゅむ、ぐるぅん――どがぁん!
弾んだ特撃型に跳ね提げられ、絶壁にぶち当たる、おっさん。
雑に扱っちまったが、動いてるから平気だろ。
蘇生薬も、渡してあるし。
虎型ふ号が乱れた毛皮を猫手で払い、〝ふう、やれやれ〟みたいな仕草をした。
……とても雷のような鳴き声を放つ、恐ろしくて獰猛な獣には見えんぞ。
猫の姿の柄が入った、夏毛の獣。
しかも片手が、柄違いと来た。
おい偽迅雷、ありゃ駄目だろ?
やい? んぁ?
返事がねぇっていうか、返事なんか考えてる場合じゃねぇやな。
仮にもおれぁ――〝虎〟の字が付く、虎鶫衆弐番隊隊長だぜ!
気になっちまったらもう、放っとけねぇやな――ガッキュゥゥゥンッ♪
「そいつの毛皮、折角だからょ――――ヴヴヴヴッ♪」
轟雷の鉄の腕をかざし、絵で板を起動する――ヴォゥン♪
ヴゥオォォォゥン♪
絵で板の中に、そっくり同じ猫の魔物風が浮かび上がる。
取り込んだ、極所作業用汎用強化服シシガニャン特撃型10号改。
その名前が、ひとりでに――『極所作業用汎用強化服シシガニャン虎型ふ号』へと書き換わった。
ふぉん♪
『INCLUDE>リオレイニア・サキラテ』
なんていう表示も出たから中身の方は、すぐさま消しておいた。
残しておくと、たぶん怒られるからだ。
エディタ隅の、格子の中――グルン、カチリ。
手首のリングを1回だけ回し、視線と指先で虎縞の元になる形を描いた。
虎型ふ号の柄が――わさわさと蠢き、色を変えていく。
虎縞の形は……猫耳族の猫頭の連中の、縞柄を見たこともある。
大体の所はわかるが、虎の本当の色味までは見当も付かんから――
本物の虎と色は、違ってるかもしれんがな。
腹が白くてー、頭から背中と四つ足と尻尾を――縞模様にした。
菖蒲色の地色に、紫鳶の虎縞が――描かれていく。
ふぉん♪
『シガミー>どうだぜ、リオレイニア?』
ちなみにおれが轟雷の下に着てる強化服は、特撃型改11番を改造した物だ。
とても重くて、まず常人が着られる代物じゃぁねぇ。
おれや鬼娘のように〝自前の金剛力〟が使えないと、立つことすら出来んだろう。
「みゃにゃやー?」
両の猫手を広げて、首を傾げる猫の魔物風・リオレイニア先生。
「「「「かわ」」」」
「「「「いい」」」」
きゃいきゃきゃきゃい♪
子供らに懐かれ身動きが取れない、虎柄の見習い先生。
かわいいような、勇ましいような――どこか締まらんぞ。
〝着る強化服〟には目鼻口でも付けた方が、良いかもしれんなー。
ふぉん♪
『シガミー>その服の詳しい使い方は、茅野姫にでも聞いてくれや。茅野姫も後のことを頼むからな』
ふぉん♪
『ホシガミー>委細承知しました。すべて、お任せ下さい、クスクスプー♪』
ヴュゥン――〝生身のおれと瓜二つの姿〟が、大写しになった。
ニヤニヤと笑って、手を振ってやがる?
こんな渓谷の底じゃぁ守銭奴な真似も、出来ないだろうに?
ちと気になるが――先を急ぐんだったぜ!
「然らば、ご免!――ニャァ♪」
おれは背中の大筒を爆発させ、渓谷の空へ上っていく。
「「ござるだっ!」」
「「「「(ござ……る?)」」」」
生徒たちの声が、遠ざかる。
断崖の上に出ると、この辺だけ森が途切れてた。
偽の道で一瞬だけ見えた、岩場のような景色だ。
まずは渓谷を抜けるぞぉ――――シュドドドドゴォォォォッ!




