612:大森林探索行、静寂と高等魔術
ガタガタタタッ――――ぷすぅん♪
タターと話をしようと、シシガニャンの列に追いついたら――
魔法杖が揺れ、止まっちまった!
「(ぬぅぉわゃぁぁぁっ――――!?)」
そのまま落ちていく、おれたち。
「(――――――――――――!?)」
何だぜ!? 慌てるリオを抱える!
ふぉん♪
『リオレイニア>マナ欠乏による失速です!』
ふぉん♪
『シガミー>なんでそんなことになってる?』
呪文が出なくても飛んでる杖は、いつも無言で飛ばしてるだろっ!?
ふぉん♪
『リオレイニア>分かりません。お、落ちます!』
「(星神っ! 落ちるぞ、助けてくれやぁ!)」
迫る地面。念話の思考加速も迅雷なしじゃ、起きやしねぇ!
ふぉん♪
『シガミー>星神、助けろ!』
ふぉん♪
『ホシガミー>こちらも手一杯ですので自力で、重力軽減の高等魔術を筆記にて行使して下さい』
そんなもの、おれが知るかぁ!
「――――、――!?」
おれの耳に、温かい息が掛かる。
ふぉん♪
『リオレイニア>シガミー、迅雷を貸して下さい!』
ふぉん♪
『シガミー>腰に差してある、使え!』
短くなった迅雷を抜き、ぐるんと天に円を描く!
そして魔法の神髄で、細かな文字をつらつらと――ヴォゥ!
書き込んでるウチに、地に落ちた!
せめて鉄下駄を履いてりゃ、地を割ることが出来て――
勢いを殺せたんだろぉがぁ――
地に着く、おれの両足。
せめてリオの尻が、割れねぇように――
高く持ち上げたら――
その勢いのまま、天へ昇っていくメイド服。
おれはスッタァァァッン!
「(痛゛ぇぇっ――――!!!)」
普段、どれだけ高い所から落ちても平気なのは、一直線に真下に落ちることが無いからで――
こう垂直に降りりゃ、痛ぇし――
足くらい折れんじゃね?
と思ったが――ガグン!
おれの首根っこ。
給仕服の背中の、まるで持ち手になってる所を、むんずとつかまれた!
§
ふぉん♪
『リオレイニア>危ないところでしたね?』
リオが使ってくれたのは、重力軽減の魔法だ。
ふぉん♪
『シガミー>まったくだぜ』
話が出来る耳栓をしていて、超助かった。
相談も魔法を使うことも出来ない、この静寂の間合いは、命に関わるぞ?
ふぉん♪
『シガミー>また引き離されちまったぜ! 茅野姫、何処だ!?』
ふぉん♪
『ホシガミー>渓谷を進んでいますが、一行表示も途切』
地に這いつくばり、息を整えるおれたち。
ふぉん♪
『シガミー>おい、茅野姫!? 渓谷ってのわぁどっちだぁ!?』
返事がねぇ。
ふぉん♪
『リオレイニア>シガミー。急がないと地形が変わってしまい、追跡出来なくなります』
ふぉん♪
『シガミー>なんでこんな、先の〝龍脈がらみの天変地異〟みてぇなことが、又起きてやがる?』
ふぉん♪
『リオレイニア>おそらくは〝かりゅうのねどこ〟以上に、マナ欠乏が激しくなり龍脈の流れを維持しようとする、別の流れによって地殻変動が起きているのではないかと。迅雷が居ないので確証はありませんが』
呪文を使う、生活魔法に高等魔術。
それを使えなくするだけじゃなくて――
地形までメキメキゴガガガンと、変わっていく。
そうとうやべぇな、あの二股の角の娘わぁ!
せめてもの救いは――
迅雷が魔法杖としては使えることだ。
そして、リオレイニアが魔術の神髄で文様を描くことで――
古代魔術を使えたから、おれたちは大怪我をせずに済んだ。
ふぉん♪
『シガミー>じゃぁ、下から持ち上げるぞ!』
おれはリオレイニアの股の間に、頭を突っ込んだ!
肩車なら薄い尻が、割れることもないだろ。
「――――、――!?」
ふぉん♪
『リオレイニア>こら、おまちなさい! 裾が捲れ上がって』
おれは草履の足裏で、地をつかむ。
急がんと渓谷とやらが別の形になって、追いつけなくなる。
おれは波打つ大地を蹴り飛ばし、前へ進んでいく!




