610:大森林探索行、ファロコVSシガミー
すとん。
土埃一つ立たない、着地。
こんな真似が出来るのは、透波の連中か魔物くらいのものだぜ。
此方を見つめ屈み込んだと思ったら、急に背筋を伸ばす――獣の動き。
「ぎにゅり? がぎにゅりる?」
何か言ってやが――――ぅわ!
目が『(Θ_Θ)』か『(ΘεΘ)』みてぇに、なってやがるぜ!
「――――――――、――――――――――!」
ヴッ――(っじゃっりぃぃぃん♪)
(くるくるん、ぱしん♪)
お? 『Θ』が、回る錫杖の鉄輪を――追いかけやがった。
凄ぇ見た目程には、魔物じゃねぇのかも。
脅かさねぇように――――
かといって、目を離さねぇように――――
そーっと、シシガニャンたちの列から、進み出る。
眼を動かさず、瞬きもせず――じりじりと。
このまま、おれに付いてきてくれりゃ、特撃型改から引き離せる。
が――半眼で耐えるにも、限界があらぁ。
耐えきれず――ぱちり。
瞬きのあと――――ごぉっ!!
目の前で鼻をヒクヒクとさせる、片角の二股角娘、
一気に詰め寄られた!
錫杖を突き出す暇は、なかった!
ちっ、兎に角、速ぇ!
この際一戦交えても止むなしだが、微動だに出来ん。
体を動かさず、錫杖の重さで手の中をすべらせ――地に落とす。
音も無く、跳ね上がる鉄輪。
おれの目から、『ΘΘ』が、微かに逸れた。
この刹那で、思い出せ。
〝尋ね人の絵草紙〟に書かれていたのは、たしか――
それほどは似てなかった、人相書きと――
『ファロコ捜索の、お願い
年齢は20歳前後。古代語とうろ覚えの共用語が話せます。
片角からほとばしる光には、触れないようにして下さい。
基本的におとなしいですが空腹時、まれに噛みつくことがあります。』
そんな感じの、文言だった。
年はリオレイニアと、同じくらい。
オルコトリアのような、とても整った顔つきをしている。
着ている服や腰に提げた――やたらと太い短刀?
そんな身なりから、いつもはこんな魔物じみてはいねぇだろうと――
当りを付ける。
空腹時に噛みつくってんなら――扱いは、五百乃大角準拠でかまわん。
なんか食いもんでも。
ヴッ――おにぎりの収納魔法具箱から、出しておいて良かったぜ。
錫杖の先、鉄輪の重なりで形作った――(じゃりんっ――ガシャ!)
平たい場所の上に――(ぱこん)と、〝名物ガムラン饅頭〟を取り出した。
フンフンと鼻を鳴らし手を伸ばしてきた、四つ足の獣が――
おれから紙箱を、ぶんどった。
そして紙箱に、がぶり!
あー、そのままじゃ食えんだろが。
箱を開けてやろうと、手を出したのがいけなかった。
ヴァチヴァチヴァチリッ――――シュカッ!
腰から抜かれた短刀は、小剣のような長さをしていて――
詰まるところ――間合いを、見誤った!
おれの手先と鉄甲が、クルクルと舞う!
「(ぐぎゃわがぁぁ――――!?)」
痛ぇが――――ここで下手を打つと、今回の目的どころか――
ガムラン町と大森林の間の――戦争になりかねん!
おれは錫杖を、地に突き立て――
飛んでいく手先に、足を伸ばした。
すぐに蘇生薬を、使っても良いが――
そうすると切れた手先を、〝残す〟ことになる。
それじゃぁ角が立ち、収まるものも収まっ――(とん)!
蹴り上げると手首や、切れた手先から――――
鮮血が飛び散る!
(うぐわぁぎゃぎゅぎぃぃぃぃぃっ!)
痛ぇ!
錫杖を片手で打ち下ろし、自分の体を突き上げ――
上に飛び、切れた手先をつかむ。
少しくらい、斬られたからと言って――
それくらいの芸当は、造作もねぇはずなのに。
ありゃ!?
体が動かねぇ!?
暗くなる視界。
ヴァリヴァリパリリッ――――雷光は。
片角だけじゃなく、振り抜かれた小剣からも迸っていた。




